34.精霊眼と魔眼

 義兄様が魔法で紙を取り出してギディアス様の前に置く。

古語で書かれたそれを一通り見て、ギディアス様は署名した。


「ギディアス=イェーガ=アドライドの名において、アリアチェリーナ=グレインビルの秘密を命をとして守る」


 そう言うと机のナイフを手に取り、左の親指を切って誓約書に血をたらす。

すると誓約書が淡く光る。


「誓約を受け入れます」


 僕もギディアス様から受け取ったナイフで左の親指に傷をつけて血をたらした。

すると光が消える。

書類に血の跡はない。

義兄様は書類を取って中身を確認して、軽く上に投げて消した。

多分どこかに保管したんだろう。

僕の手を取って魔法で傷を癒してくれる。


「チッ、ギディアスのせいでアリーが傷物にされた」

「え、私のせい?

責任取っていいなら、取るよ?

いつでも言って」

「帰れ!」


 もうこれは、コントかなぁ。


 義兄様が苛立たしそうにため息をついて僕の顔をのぞきこむ。


「アリー、話してかまわない?」

「はい、兄様」


 許可を与える。


「ギディアス、魔石のついたものは全て向こうの台に置け」

「わかった」


 素直に兄様の指示に従う。


 出入口に設置してあるお茶の準備をする時に使う作業台に魔石のついた指輪や剣を置いていく。

あ、上着脱いだ。

ボタンにも魔石ついてるもんね。

中のシャツが体型の良さを際立たせてて、色っぽいなぁ。


 ギディアス様がソファに座ると義兄様は僕達を囲む小さな結界を張って防音、防視、守護の効果を付与する。

義兄様が優しく僕を撫でてから話し始めた。


「アリーは左目に精霊眼、右目に魔眼を宿してる」

「····は?!

魔力がないのに、そんな事あるのか?!

それに精霊眼なんて古いおとぎ話くらいでしか聞いた事がない。

魔眼だって以前確認されてからこの200年は誰も見たことがないはずだ」

「魔力がないから、余計まずいんだ。

知られればアリーの目を魔石と同じように物扱いして、最悪えぐりだそうとする輩だって出る。

大昔に魔眼を持った者を殺して目をコレクションしていた大罪人の記録もあっただろう。

アリーは魔力がないから魔法で誤魔化す事すらできない」


 ギディアス様は絶句してしまった。

口元を右手で押さえ、状況を理解しようとするように目が揺れる。


「なぜ家族ですら魔法誓約を行ったのか、解ったよ。

アリー、目を見せてもらってもいいかな?」

「ことわ····モガッ」

「かまいません」


 義兄様の口を両手で塞ぐ。

ホントに予想通りな義兄様で、ブレないよね。

そんな所も好きだよ。


 歩み寄ってきたギディアス様が膝を折ってのぞきこむ。

わぁ、睫毛長いし優しげで格好いい顔だよね。


「本当だ。

上級の鑑定魔法でないとわからないみたいだけど、両目の光の散り方がそれぞれ違う。

これが精霊眼と魔眼なのか。

普段は誰かの魔法で目眩ましさせてるのかな。

今まで全然気付かなかったのが不思議なんだけど」

「いえ、目を使ってる時でなければ勝手にわからなくなるみたいです」


 ギディアス様は立ち上がって元のソファに座り直す。


「大会の時にあの靄に使った?」

「····はい。

意図したわけではないのですが」


 あ、バレた。

そうなんだよ、だからあの時振り向かなかったんだよ。


「最悪、あの王子は気づいたかもしれない。

精霊には使ってなくても精霊眼てわかるのかな?」

「わかりますが、本来は誰にもそれを話さないのが彼らの理です。

仲間を売る行為に繋がって、消滅するって聞いてます」

「もしかしてアリーは精霊と話せる?」

「お互いが話すと意図してから話せれば。

だけど滅多に会うこともないし、会っても見ようと思わなければ靄の状態が多いです」

「私はどうして見えるのか、アリーはわかる?」

「血に宿る魔力が高いのと、体質?

幽霊見える人の精霊版みたいなものでしょうか」

「なるほど、精霊版····ふふっ。

可愛らしい表現だ。

あの黒い靄はどんな精霊だった?

黒い色は初めて見たんだ」

「彼は闇の精霊さんです。

褐色の肌に黒髪黒目の可愛らしい10才くらいの少年の姿でした。

まだ生まれて100年くらいで、力も弱くて安定はしてないみたいでした。

王子と正式契約はしてないんじゃないかな」

「え、100年?

正式契約って、どういうこと?」

「あえて少年の姿を取ってる可能性もあるんですけど、それにしても姿が薄かったので。

だから生まれて100年程度であの国が言う建国の精霊さんではないはずです。

建国の精霊さんは違う属性でしょう?

正式な契約をすれば、あの精霊さんはもっと体現するし、力も安定しますから。

正式契約の方法は教えられません」

「うん、わかった。

属性は魔法と同じように考えていいものかな?」

「基本的にはそうみたいです」

「闇の属性は、その、危険ではないのかな」

「ふふ、皆と同じこと言うんですね。

闇の属性はあくまで光と対を成すような色で分けただけの名称です。

悪い面をあげれば火は火傷、風は突風、水は溺れさせるし、土は腐敗を呼んで、光は体の回復力を下げる側面があるでしょう。

使う人次第で危険になるのはどれも同じです」

「なるほど。

闇はどんなものになる?

闇の属性は口伝や古書くらいでしか知らないし、どれも具体的ではないんだ」

「闇の属性は精神的なことに強く作用します。

心の虚を癒し、荒ぶる感情を抑えたりもする。

逆に精神を深く抉って隷属させてしまう事もできます。

後は秘密です」


 ギディアス様はふむふむと頷く。

ちなみに義兄様は僕の頭頂に頬っぺをスリスリしている。

可愛い大人だよね、バルトス義兄様って。


「もしかして君のその知識は精霊達に教えてもらったのかな?」

「精霊さん達もですが、多分誰にも見えない人達も?

魔眼の方も影響してるのかな?

誰にも聞いたことがないし、誰にでも聞けないのでちょっとよくわからないのもあります」

「そうだよね。

魔眼は何をどんな風に見えるのかな?」

「魔力のうねりとか、魔法が絵画のような絵に見える時もあります。

他は····うーん····他の人が何が見えてて何が見えないのかがわからないので、多分そんな感じ?でしょうか?」

「そっか、そうなるのか。

でも君の知識がどこから来てるのか、謎が解けて嬉しいよ」


 うん、すっきりした顔してるけど、きっとそこは勘違いだよ?

王家の人達が関心向けてきたことは僕の前世と300年前の知識があっての物だからね?

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