33.魔法誓約

「久しぶりだね、アリー。

バルトスも2日でアリーと会わせてくれるなんて思わなかったけど、ありがとう。

かしこまった挨拶なんていらないから、以前のように接して欲しいな。

しばらく見ない間に大きくなったね。

ルドルフがまた会いたがってたから、機会があれば会ってやって。

最近の体調はどう?」

「お久しぶりです、ギディアス様。

時々伏せってはいますが、季節の変わり目と違ってまだ落ち着いている方だと思います」


 ここは以前にルドルフ様達の訪問で使った部屋。

バルトス義兄様とギディアス様、護衛にシル様が転移してきてからの、話し合い。

ルドルフ様がいたソファに座ってもらって、僕達は対面に腰かける。

シル様は今回部屋の前で待機。

数年ぶりに間近で見る黒髪碧眼のギディアス様は随分凛々しくなってて驚いちゃった。

体格もガッシリしてて、少年の面影はほぼ無くなって大人の色気すらある。

彼が17才の時に義母様の葬儀に参列してくれて以来だから、3年ぶりだっけ。

背は兄様より少し低いくらいで変わってないけど、成長期の少年はこんなに変わるんだなぁと、あの大会の時と同じことを考えてしまった。


「ギディアス、アリーを見つめすぎだ。

減るからさっさと城に帰れ」

「減るって何が?

相変わらずだけど、鬱陶しくない?」

「ふふふ、ないですよ。

バルトス兄様はお久しぶりなギディアス様に私が緊張しないようにしてくれてるだけだと思います」

「····ナイス勘違いだね。

早速の本題だけど、君は大会の時に例の王子の背後の黒い靄を見たよね?」


 ナイス勘違いでしょ、ギディアス様。

でも鬱陶しいと思ったことは1度もないんだよ。

これくらい分かりやすい愛情表現じゃないと、僕には伝わらないだけなんだよ。


 それはそうと、嘘を見逃すまいとするように僕の目をガン見するのやめて欲しいな。


「薄い感じの黒っぽい靄は見ましたけど、目の錯覚かなって思ったくらい一瞬でしたよ。

見間違いかと思って王子をずっと見てしまったのがいけなかったみたいですが」


 さてさて、どう出る?

バルトス義兄様が言うように読唇術で見たなら、その先の呟きも解ったよね。


「アリー、本当にそう?

"んー····黒い靄····あぁ、そっか····"

君はそう呟いてた。

君には色々謎が多いけど、全て教えて欲しいわけじゃない。

ただ私は君が世間に思われてるような子供ではないと思ってるし、君の持つ知識は恐らくかなり危うい。

だからこそ、特に王族を警戒しているのも当然だろう。

だけど今回の件はザルハード国の内部抗争が絡んでいて危険なんだ。

何も知らないのに、君の事を守れない。

陛下も私もルドルフも、侯爵やバルトス、レイヤードを友だと思っている。

そんな友の家族であるアリーを私達王家も守りたいんだよ」


 うーん、やっぱり引き下がりそうにないかぁ。

ちらりと義兄様を見ると目で合図された。


「ギディアス様には、あの靄はどう見えましたか?

どうしてギディアス様には見えたんですか?

靄が精霊だったとして、建国の精霊だとどうして思われたんですか?」

「私には黒い靄にしか見えてない。

どうして見えるのかはわからないけど、昔から靄のような形で見える時がある。

靄の色や大きさは様々だ。

建国の精霊を連れているのだと王子が話した。

それで今まで見てきた靄は精霊だったのかと思ったんだ」

「····そうですか」


 おかしいな。

あの精霊さんは長く見積もっても100年くらい。

建国されたとされるのは500年前で、僕の記憶では300精霊さんとは属性が違うから単なる代替わりじゃない。

もちろんいくつか例外があるけど、こればかりは聞いてみないとわからない。

このまま秘密にしたまま聞き出すのは難しいかな。


「第3王子も精霊が見えるんですよね?

彼も精霊さんを連れているのですか?」

「そうらしい。

ただ私があちらに留学中に何度か会ったが、それらしい靄は見たことがないんだけどね」


とすると、第3王子は連れてるのかな?


「アリー、そろそろ私の質問にも答えて欲しいんだけど」


 ギディアス様が苦笑する。


「ここからは俺が話す。

····大丈夫だよ、アリー」


義兄様が僕を抱え上げてお膝の上に横向きに座らせて抱きしめながら背中をぽんぽんする。


「兄様、ギディアス様の前で恥ずかしい」

「気にするな、俺の天使」

「いや、私もどうかと思うよ」

「帰れ」


 義兄様、いつか不敬罪でしょっぴかれるよ?

そう思いながらも居心地の良さに顔が緩む。


「話す前に、魔法誓約書に署名した上で名にかけて誓え。

それが俺達の出す条件だ」

「そこまで重要な事····なんだね。

でもそんなに信用ない?」

「アリーの命に関わる。

父上も俺達兄弟もそれに関しては同じ事をしている。

信頼する家族であっても例外はない。

魔法や魔具で暗示をかけることも不可能ではないからな」

「なるほど、それだけ警戒してるのか。

わかった、そうするよ」

「よく考えているのか?

この魔法誓約は命を対価にしたものだ。

少しでも話した瞬間に心臓が止まる。

一国の王太子が侯爵家にする代物じゃない」

「言ったはずだ。

私はバルトスを友だと思っているし、その妹のアリーも守りたい。

君達がそれを要求するくらい、君達が隠してきたのは大事な秘密なんだと理解している。

多分そうなるかもしれないと思っていたから、護衛もシルだけにして、部屋の外に待機させたんだよ」


 ギディアス様はにっこり笑いかけた。

そして彼は何事もない顔で魔法誓約を行った。

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