第78話 大事な事なので2回言っておきます
牙猪の解体をしてみたが、やはり慣れが必要なのだと感じていた。
やるに当たり、ギルド解体員のジャルタさんから指導を仰ぎ、解体に臨んでみたが結果はグダグダだった。
モノとしての解体や切り分けなどは出来たが、出来上がった物の商品価値としては微妙なものになってしまった。
それでも子供たちが楽しそうに手伝ってくれたので、これもまた良しか・・・。
解体が終われば、待ちに待ったバーベキューである。今日は外で焼きながら食べるスタイル。
ただ、ブロック毎の切り分けまでは子供たちにヘルプを頼めたが、焼き肉用の切り出しは流石にまだ任せられないので、俺が1人で頑張った。筋をトリミングし、一口大に切り出すだけで中々面倒くさいし、何より量が多い・・・。
オリビアさんには“焼き”に回って貰ったのでしょうがなかった。
皆が食べ始めても、俺だけまだそんな事を続けていたので、3人組で一番幼女のベルが気を使って焼けた肉を食べさせてくれた。
『マサル・・・たべて。』
『おお!ベル、ありがとな。』
「Yes! ロリータ
No! タッチ」
・・・紳士はこうして生まれるのかと、人間の業の深さを垣間見た気がした。
俺は違うけど!俺は違うけど!!・・・大事な事なので2回言っておきます。
捌くそばから肉は消費され、途中競争のようになりながらもバーベキューは無事終わる事が出来た。
満足そうな子供たちに向け、俺は言わないといけない事がある。
『みんな!聞いて欲しい事がある。俺は知っての通り冒険者だ、ここへ来たのも依頼を受けたからで、その依頼が終われば俺はここから出て行かなくちゃいけない。』
最初は何事かと思っていた子供たちも、次第に俺の話の意味するところが分かってきたのか、顔を強張らせる子もいた。
『その依頼はあの畑を広くする事で、見ての通り完成した。』
目の前に見える耕された畑には既に苗も植えられ、元が荒れ地だとは到底思えない程だった。
『みんなが手伝ってくれたお陰でこんなに立派な畑が出来たんだ。』
最初は俺1人で始めた開墾作業も、いつしか子供たちも参加し、みんなで土塗れになりながら一緒になって作った畑だった・・・。
『・・・苗も植わって、これなら秋には収穫出来ると思う。』
大変な日々だったが、振り返れば楽しい思い出ばかりがよみがえってくる・・・
しかしその頃にはもう、俺はいないのかもしれない・・・。
『みんなと過ごしたここでの生活は本当に楽しかったよ・・・仕事だなんて事を忘れてしまう程にね・・・。』
嘘偽りない本心。
次第に俺自身も声が震え、気付けば涙が頬を伝っていた。
子供たちも共に過ごした日々を思い出してか、涙を浮かべる子や、すすり泣く声も聞こえる。
堪らず3人組が詰め寄った。
『なんで!?ずっと居ればいいじゃん!』
『そうだよ!冒険者でも一緒に居ていいよ!』
『わたしたち・・・きらい?』
3人共、涙を流しながら叫びにも似たその問いかけに、俺は腰を落とし優しく子供たちに応える。
『嫌いだから・・・イヤだから出て行くわけじゃないよ。・・・みんなは何かやりたい事は無いの?』
俺の突然の問いかけに暫し悩むも、一人一人聞いてあげれば素直に答えていった。
『レンは何になりたい?』
『僕は・・・冒険者になりたい!』
『マリーは?』
『わ、私も冒険者・・・かな。』
『ベルは何かある?』
『マサルと・・・いっしょ。』
ベルの答えには苦笑いをしてしまったが他の子供たちも聞いていき、みんな思い思いの夢を答えていった。
そして俺も・・・
『俺にもあるんだ。それは・・・ “この世界”を見て回る事!』
それは、ふと思った事・・・
時間に・・・生活に・・・仕事に追われ続けて、どこか旅に出てしまいたい・・・。
そんな思いを、この“しがらみ”のない世界でなら現実に出来るのではないかと・・・。
『世界にはまだまだ知らない事がたくさんあるから、自分の目で確かめてみたいんだ!』
俺の思いが伝わったのか、先程までの悲壮感が少しだけ和らいだ気がした
『二度と会えなくなる訳じゃないさ!』
俺はわざと明るく、何でも無いことの様にいう。
・・・それが例え、流通も治安も治世も整っていない“ハードモード”の世界だと分かっていたとしても・・・
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