第77話 善にも悪にも染まり易い
思えば最後にこんな気持ちになったのはいつの事だったか・・・。
思い出すのも億劫になるほど前なのは確かだが、この心揺さぶられる感覚だけは憶えがある・・・。
『どうされたんですか?・・・やはりどこか痛めているのでは?』
『い、いえ、本当に大丈夫ですから!そ、それより子供たちを呼んでおいて貰えませんか?俺はその間に水浴びを済ませておきますから。流石にこのままでは子供たちも驚いてしまいそうなので・・・。』
『そ、そうですか?・・・わかりました。では、私は子供たちを呼んで参ります。
マサルさんも、もしかしたら気付いていない所を怪我されているかも知れませんので、よくご確認しておいて下さいね?』
『は、はい。ありがとうございます。』
オリビアさんは心配そうに此方を見返してくるが、問題ないのをアピールする様に俺は笑って見送った。
久しぶりの感覚に少し戸惑ってしまったが、だいぶ落ち着いてきた。とりあえずこの格好では子供たちの前には出られないので、さっさと洗う事にする。
この世界ではやはり風呂なんてものは無く、沐浴が一般的だった。
自分自身、家で風呂に浸かるなんてのはよっぽど無かったが・・・遅くに帰って来て湯を溜め、終わって浴槽を洗うのが面倒なだけだったが・・・温泉や銭湯は割と好きだったし、無いと思うと余計に恋しくなるのは人情というものだろう。
普段であれば沸かした湯を使うが、ここ最近は暑さも増して夏の到来を感じさせてきたので水浴びにしていた。井戸で水を汲み桶に溜め、着ていた服を洗い自身も流す。
火照った身体と頭にはこれくらいが丁度良かった。
着替えを済ませ、先程の場所に戻ると既に子供たちは集まっていた。
『ねぇねぇ!これ本当にマサルが獲ったの!?』
『すごーい!こんなに大きな魔物、わたし初めて見た!』
『うん・・・おおきい。』
レンとマリーとベルが俺を見つけるなり、興奮した様子で駆け寄って来た。
子供たちとは一緒に暮らしたお陰か、みんな仲良くなれた。特にこの3人は良く懐いてくれて、ウサギの解体も率先して参加してくれていた。
『ビックリしたか?みんなを驚かせようと思って獲ってきたんだ!
今日はお腹いっぱい食べられるぞ!』
『『やったー!』』
俺が来た初日こそ食事をたくさん食べさせてあげられたが、それ以降はそれなりに貧しい生活だった。それは単に俺の甲斐性が無かった訳ではなく、オリビアさんからの意向によるものだった。
ここで俺の援助で食事の質を上げてしまうと、俺が去った後に遺恨だけが残ってしまうかもしれないし、最悪その差を埋めようと犯罪に手を染めてしまう子達が現れてしまうかもしれないと言われてしまったからだ。
まだ幼い子供たちは、善にも悪にも染まり易いのだとオリビアさんに諭されて、俺は何も言い返す事が出来なかった。
オリビアさんも単純に貧しい事を美徳としている訳では無く、自身の行動により糧を得るという基本を子供たちに教えようとしていたのだ。
そこで、ならばと考えたのが解体の手ほどきだった。子供たちへ手伝ったお礼に肉を分けることは、ギリセーフだったらしい。
・・・オリビアさんは、まるで手の掛る子供見るような苦笑いを俺に向け見せていたけど・・・。
なので今日も開催!解体ショーの始まりです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます