第75話 そして2度見する
この2ヶ月は本当に目まぐるしく、しかし充実日々だった。
思えば誰かの為に働いたのは初めてではなかっただろうか・・・。
もちろん、広義でいえば誰かの何かに役立つ事はしていたと思う。地球でしていた仕事だって需要による供給だったのだから。
しかしそれは本当に誰かの役に立っている事なのか・・・。1人誰もいない家に夜遅く帰り、腹を満たすだけの食事をして、暇つぶしのネット動画を流し見し、明日の仕事に迫られて寝る・・・そんな繰り返しの毎日が大人になってからの日常だった。
どこかで本当の意味で誰かに必要とされる事など無いのだろうとさえ思っていた。
“だから”だろう・・・「彼ら」、「彼女ら」から自分自身を必要とされ何とかしたいと思ってしまったのだ。・・・それはあまりに卑劣な弱者に付け入る悪徳商法のような、または自身の生きる意味を理由づける・・・まるで共依存のような関係に感じてしまった・・・。
(・・・畑も出来たし、ここらが潮時なのかもな・・・。)
直ぐにとはいかないが、作物が採れる様になればこれだけの広さの畑だ、ここの人達が食べていく分くらいは賄えるだろう。何気に教会としてのお布施も多少なりともある様なので、その辺も幾ばくかの安心材料だったりする。
(今日はパーっと豪勢な夕食にするか!)
今日で最後かもしれないと思い、狩りに出掛ける。狙うは重いからと避けていた牙猪だ。
装備を整え出発する。まあ牙猪を狙うのはもう一つ理由がある。それは防具の為に取っておいた前回の皮を売ってしまったからだ。防具に回すお金も儘ならなかったし、かといって生の皮をそのまま持ち続けるのも憚れたので致し方なかった。
いつもの森を駆けていく。2ヶ月も通えば否が応にも地理は頭に入るものだ。
今では薬草の群生地もだいたい把握しているので、採取は既にヌルゲーと化していた。
道中、ウサギや足兎を見つけるが今日は相手にしない。狙うは唯一つ・・・。
そういえば気になっていた俺のスキルは、やはり身体強化に統合されているようだった。
無くなったかもしれないと思っていた“耳”、“腕”、“脚”もそれぞれ使える事が確認出来ていた。ただ、“腕”や“脚”はこの2ヶ月でかなり使っていたが、何だか前に比べると力やスピードが上がっている様な気がした。
そんな事を考えながら走っていると、ついに“探査”に反応があった。“目”と“耳”も併用していたのでかなり遠くの方だが見つかればこっちのもの、逃げられまいと静かに、しかし素早く距離を詰める。
木の陰から様子を伺うとその姿が確認出来た。
そして2度見する・・・。
(うぇ!?・・・あんなにデカかったっけ?・・・)
記憶が正しければ、前回仕留めたのは軽トラほどのサイズだったと思うが、目の前にいる“それ”はもうひと・・・ふた回りほど大きく見える。・・・オッコト○シかな?・・・
いも引いてしまいそうになる気持ちをなんとか引き止め、狩る準備をする。
とりあえず矢を番えてはみるが、はたしてこんな物が効くのかどうか・・・。多少の不安を残しつつ牙猪に向け矢を放つ。
狙い通り矢は牙猪の目へと吸い込まれ、動物にしては大きいそれを貫く。
けたたましい鳴き声と共にもんどりうって暴れる牙猪。暫くすると自身を襲った元凶に気がついたのか此方に目掛け突進してきた。腹をくくり近接の準備をして待ち受ける。
ヴィルドさんの所で貰った剣だ。何気に戦闘で使用するのはお初だったりする。
突っ込んでくる巨体をすんでの所で横っ飛びし、躱しながら側面より頭をめがけて剣を振るい斬りつける。
躱した拍子に体勢が崩れ、転がりながら避けるが直ぐに立ち上がる。
・・・そして2度見する・・・。
こちらに向け次の攻撃を仕掛けてくるかと思いきや、“それ”は首から血を噴水のように噴出しながら、ちょうど倒れゆくところだった・・・。
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