第74話 オリビアさんは別でした

 夕食をオリビアさんと作り、孤児院の子供たちと一緒に食べた。

 余程お腹が空いていたのか一心不乱にがっついていたが、その気持ちいい程の食べっぷりに見とれていると、最後にはみんな満足そうな笑顔になっていた。




『みんな!今日はこちらのマサルさんが夕食を作ってくれたの。みんなでお礼を言いましょうね!せーの、』



『『マサルさん、ありがとうございます!』』




 小学校低学年くらいから幼稚園ほどの子供たちにお礼を言われ、少し父性というものが分かった気がした。みんな呼び方もタイミングも、てんでバラバラだったが自分にも子供がいたらこんな感じだったのかと・・・。ちょっと多いけど・・・。




『ねえ、ねえ、マサルもここに住むの?』



『違うよ!マサル“さん”だよ!』



『お腹・・・いっぱい。』




 子供たちの中で俺に興味を持ったのか、声を掛けてくれる子達がいた。

 よく見ると、昼間オリビアさんにお腹が空いたと言いに来ていた子達だった。




『マサルでいいよ。そんなに年も違わないしね。』



『ほら!良いって言ってる!』



『でもおねーちゃんは“さん”って言ってたもん!』



『もう・・・ねむい。』



 最初に声を掛けてきたのは、活発そうな7~8歳の男の子で、それを窘めているのが同い年くらいの女の子。2人に付いて回っているのは彼らより少し下に見える女の子だった。

 なおもヤイヤイ言い合う2人にオリビアさんが止めに入る。



『2人とも、ケンカはいけませんよ!』



『『・・・はーい。』』




 オリビアさんの鶴の一声で簡単に納まってしまった。

 ただ空気も沈んでしまったので、これはと話題を変える。

 出来るだけ優しい声で、




『俺はどちらでも構わないよ、オリビアさんは大人だからそう呼ぶんだ。

 君たちは何て名前なの?』



『・・・僕はレン。』



『私はマリー。』



『なまえ・・・ベル。』



『レンに、マリーに、ベルか。改めてよろくね!

 オリビアさん、相談なんですが依頼が終わるまで俺もこの施設で寝泊まりさせて貰えませんか?』



『ね、寝泊まりですか!?・・・空き部屋は確かにありますけど、な、何故でしょうか?』



『?流石に1日で終わる依頼内容では無いですから、本腰を入れて取り組もうかと思いまして・・・ダメですかね?』



『い、いえ!そこまで真剣に考えて下さって頂けているのであれば、わ、私に否はございません!』




 何故か顔を少し赤らめて、早口で捲くし立てるようにオリビアさんは言った。




(良かったー。ダメって言われたらどうしようかと思っちゃった。もう宿も出て来ちゃったし、節約の為でもあるからな。)




 どうせ1泊で銀貨2枚を払うのだ、寝れる場所さえあればそれを食糧に変えてもいいかと思った次第。




『わーい!マサル、一緒に寝よーよ!』



『私と寝るのー!』



『クー・・・クー』



『で、ではお部屋へご案内しますね。』



『はは・・・。お願いします。』




 その日は結局子供たちにせがまれ、一緒に寝る事になった。

 ・・・オリビアさんは別でした・・・なぜ?






 夜が明け次の日から、早速畑の拡張工事を開始した。

 最初はただひたすら大きい岩を退かしていく。もちろん身体強化をフルに使い脇へと移動させ、粗方取れたら今度は石拾いをする。道具屋にて買ってきた目の細かい籠へ集めていくのだ。集めて、捨ててを繰り返していく。


 石や岩が除去されたら今度は土を掘り返していくのだが、ここで鍛冶師のヴィルドさんに製作をお願いしていた総鉄製の鍬や鋤を使っていく。武器職人に頼む物では無いとは思うが

「腕のいい職人が作った鍬と鋤を使いたい!」と半ば強引なおべっか使い作って貰った。文句を言いながらそれでも良い物を作ってくれる職人には恐れ入る。締めて大銀貨1枚・・・牙猪が溶けた・・・。


 通常、人が使うには重すぎる総鉄製も、身体強化が相手では強度を維持する為にどうしても必要だった。

 お陰で固い筈の地面にサクサク刺さり、次々と掘り返されていく。そして掘り返されて新たに出て来た石や岩をまた退けていく。その繰り返し・・・。


 畑の拡張をしつつ、冒険者活動も続ける。現金収入と肉の入手は必須なのです。

 お決まりの回復草と魔草を採取しつつ、ウサギや足兎を率先して狙っていく。牙猪は流石に手を出さない。持ち帰るのに時間が掛かってしまうからだ。

 そして狩ってきた獲物を孤児院で解体する。最初はどうなるかと思ったが、子供たちに解体の仕方を教え、技術を身に付けさせるのが目的だと分かると、オリビアさんも納得してくれた。


 解体で出た廃棄物や日々生活の中で出る生ごみ、ランバルさんにお願いして溜めて貰っていた生ごみを引き取り、拡張した畑の一部に堆肥場を造って土壌改良の準備も進める。

 畑をするにはまず土を作らなければ始まらない。



 そんなこんな毎日を過ごしていたら月日はあっという間に流れ、俺が孤児院へ来てから2ヶ月が経とうとしていた。通常であれば量にもよるが堆肥は分解に半年ほど掛かるのだが、そこは異世界の微生物の力なのか僅か2ヶ月で使用出来るまでに分解されていた。


 出来上がった堆肥を畑へと撒き、土と混ぜていく。フカフカした土へと生まれ変わり、生き返っていくのが分かる。



 長くて短い、畑の拡張依頼が終わりを迎えようとしているのだった・・・。

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