第73話 尊敬の念さえ抱いた
(どーしよー、つい感情的になっちまったー・・・。いくら金に余裕があると言っても無限じゃねーし、どないしよ・・・。)
走りながら、既にギブ寸前。とりあえず、いま俺が取れる最善をしようを各所にダッシュ。
思いつく限り全ての事を終え、孤児院へと帰って来たのは、陽も傾き夕方になる頃だった。
動き通しでヘトヘトになりながらも、建物の裏へ回るとオリビアさんが待っていた。
『!ずっとこちらに居らしたんですか?』
『・・・はい。マサル様が待っていてくれとおっしゃられたので・・・。
申し訳ありません。私にはもう・・・神の他、誰に助けを求める事も出来ないのです・・・。』
気丈に、だが堪えきれず涙を流し、俺に謝りながらそう吐露するオリビアさんは、もうとっくに限界を迎えていたのだ・・・。
僅か20歳ソコソコのその肩に、幾人もの子供の生死を背負い、頼れる者も、助けてくれる者も居らず、唯1人で全てをこなすなど、一体どれだけの人が出来るのか・・・。
その崇高なる使命感の為せる業か、俺には知る由も無いが彼女のその生き様は、年下ながら尊敬の念さえ抱いた。
『もう大丈夫ですよ、とりあえず中に入りましょうか。』
俺がそう促すと、静かに頷き建物へと案内してくれた。
通されたのは孤児院の食堂らしき場所。ここで俺は持って来た荷物を降ろし取り出しながら、
『とりあえず、皆お腹も空いている様ですし夕食の準備でもしましょうか。』
持って来た包みを開き、肉を見せながら提案した。
『!マサルさま、それは・・・』
『オリビアさん、俺はそんな大層な人間ではありません。ですから敬称なんて必要ありませんよ。』
俺はオリビアさんの言葉を遮り、他に持って来た食材を出しながら思いを伝える。しかし、
『ですが、相手を敬い慈しむ心を否定されては・・・』
お互いに譲らず、このまま平行線かと思われたが、最後は“さん”付けで互いに折れ、落ち着いた。
・・・さすが1人で全てを背負って来ただけの事はある。可憐でお淑やかに見えて、実は“芯”がしっかりしているのには少し笑ってしまった。
『何が可笑しいんですか?マ、マサルさん。』
まだ言い慣れないのか、少し恥ずかしそうに名前を呼ばれてこちらも意識してしまう。
『い、いえ、オリビアさんも見かけによらず結構ガンコな所があるんだな、と思いまして。』
『が、頑固って!マ、マサルさんの方こそ・・・』
最後は尻すぼみになりながらモニョモニョと、うらめしそうに此方を見る姿にオリビアさんの新しい一面が見られて何だか得した気持ちになってしまう。
オリビアさんのこんな姿を見れただけでも格好つけた甲斐があったのかもしれない。
『では、子供達もお腹を空かせているようですし、早速夕食の準備をしましょうか?』
『も、もう!・・・そうですね、私もお手伝い致します!』
・・・こうして俺は、地球でも感じた事のない幸せな夕食作りを始めるのであった。
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