第71話 そんなに大層なもんじゃありませんよ

 俺が受けた“塩漬け”依頼は、この町の孤児院からのものだった。

 現金収益の無い施設の為か報酬は大銅貨5枚と、僅か串焼き5本分の額しか無かった。


 額の少なさで言えば、いわゆる小間使いの依頼が多いので大銅貨~銀貨辺りが相場の様だが、拘束時間、仕事内容的にやはりこの価格では受けてくれる冒険者がいなかった様だ。


 肝心の仕事内容は、施設で管理している畑の開墾がメインらしい。

 食糧事情がやはり芳しく無く、自給自足をするにも力仕事がネックになっている様だった。




 教えて貰った場所に行くと、教会の様な造りの木造の建物があった。

 宗教建造物は世界が変わっても行き着く所は同じなのかと、しみじみ感じた。


 そう言えばこの世界の宗教は大きく2つに分かれているらしい。

 1つは原初より続くとされている旧女神信仰の“ティアプス教”。

 もう1つは、そのティアプス教から派生した新女神信仰の“カズム教”である。


 俺のいるファーガス王国はティアプス教の本部も置かれている為、国民のほとんどがこの宗教との事。

 逆に聖教国はカズム教を国教と定め教皇が元首を兼ねているので、この両国はあまり仲が良くないらしい。

 宗教が国として独立するのは、やはりあるあるなのだろうか・・・?


 ともあれ、こうして王国にある教会ということは十中八九、前者のティアプス教だと思われる。仮にカズム教だったとしたら、そもそも建物がもっと立派なものらしい。

 バックに国どころか自身が国なのだ、威厳を示す為にも相応の建物を建てていると聞いていた。




 外で眺めていても始まらないので、中へと入ってみる。

 地球で見た事があるのは友人の結婚式で訪れた“なんちゃって”礼拝堂しかないが、造りは似た様な感じだった。入り口正面が通路になっており両脇に長椅子が列を成している。正面通路の先には一段高くなった場所に祭壇があり、女神と思しき彫像が据えられていた。




(あれが女神ティアプスか・・・。)




 美術品に対する審美眼などは持ち合わせてなどいないが、ディティールの造り込みなど素人目に見ても、作り手の熱意と力量は目を見張るものがあった。


 そんな風に女神像に魅入っていると、後ろから声を掛けられた。




『礼拝でいらっしゃいますか?』




 振り返るとそこには修道服の様な白と黒を基調とした服に身を包み、同じくその色に合わせた頭巾をかぶった女性が立っていた。




『いえ、私は冒険者のマサルと言います。依頼を受けて伺ったのですが、こちらの施設の方でしょうか?』



『まあ!依頼を受けてくださった冒険者の方ですか!申し遅れました。私、この教会と孤児院の管理代行を任されております、オリビアと申します。』




 修道服や頭巾をかぶっているため全体は分からないが、名前の由来かオリーブ色の大きなタレ目に、特徴的な泣きボクロと白く透き通るような素肌。鈴を転がす様な声は、上品さと可憐さを併せ持った雰囲気を感じさせた。その容姿から20代前半くらいかと思われるが、落ち着いた感じがそれより少し上に見せている様だった。




『管理“代行”ですか?』



『はい。本来であれば司祭様がそれを担うのですが、当教会には前任者の司祭様がお亡くなりになられてから、未だ後任の司祭様をお迎えする事が出来ておりませんのでその間、代わりに私がその任を代行する様にと仰せつかっております。』



『そうなんですか。他に職員の方などは・・・。』



『いまは教会、孤児院含め私1人しかおりませんので他には・・・。

 ですので、どうしても及ばない部分が出てしまい、それをお願いしたく冒険者ギルドへ依頼をさせて頂いたのですが・・・やはり満足に依頼料もご用意出来ませんでしたので半ば諦めかけておりました・・・。

 でも、こうして受けて下さる方にお会い出来て、マサルさまと神のお導きに感謝を致します。』




 俺に向かい、手を組み祈る様な姿になるオリビアさんを見て、



(教会と孤児院の経営をこんなに若い子が1人で・・・。俺がこれ位の歳の時は、何も考えず週末の飲みに全精力を傾けていた気がするな・・・。

 ・・・俺なんか、そんなに大層なもんじゃありませんよ・・・。)




『・・・それで、俺は何をすれば良いですか?』




『?そうですね・・・依頼でも書かせて頂いた畑作業をお願いしても宜しいですか?』



『分りました。では、早速取り掛かろうと思います。』




 こうして俺は、自分の浅はかな人生に軽く嫌悪感を抱きながら、シスターの後を付いて行くのだった・・・。

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