第69話 それをお店の中で言うのはやめようね?

『あっ、マサルさん!何処に行ってたんですか、いきなり置いてかれて私、どうしたらいいか・・・。』



『お待たせしてすみませんでした。今日はお詫びに夕食をご馳走しようと思いまして、どうせならと俺が料理を作っていたんです。』



『マサルさんがですか!?』



『1人暮らしが長かったんで、こう見えて結構得意なんですよ。』



『1人暮らしって・・・マサルさん・・・。』



(あ、うっかり地球での事が出ちまった・・・。)



『・・・大変だったんですね・・・。』



 なんか勘違いされてしまったが・・・ま、いっか・・・



『そ、それより冷めない内に食べてみて下さい。』



『そ、そうですね!では、遠慮なく・・・。』



 まずはステーキから食べ始めたノエルさんは、一口食べて目を見開いていた。



『えっ!?あれ?これ、何のお肉ですか?スゴく美味しいです!凄く柔らかいのに噛む度に肉汁が溢れて、全然パサパサしてないですよ!?』



 ・・・何か、スゴく既視感を覚える・・・この後ノエルさんも口から光でも出るのかな・・・



『これは俺が獲ってきた牙猪ですよ。』



『えっ!?私が食べた事のある牙猪と全然違っててわかりませんでした。』



『これは“ヒレ”という部位で体の中心部分にあるお肉なんですが、他の部位と違って脂身が無くて柔らかいのが特徴なんです。』




 そう、この“ヒレ”・・・。闘牛の時にそのおいしさに感動した“芯”と同じ部位だ。


 全身筋肉の塊のような闘牛のどこにそんな柔らかい部位があるのかと、牙猪の査定を聞きにいった時についでにジャルタさんに聞いてみたら、地球でいうところの“ヒレ”に相当する事が分かった。ならばと、牙猪にもあるのかと思い確認したら、こちらはジャルタさんは知っていたがあまりメジャーでは無いとの事だった。


 多分だが牙猪は闘牛に比べ、食べられる部位が多いのでそこまで研究されていないのかもしれない。鑑定でも赤身、脂身双方で高評価だったし・・・。


 逆に闘牛の方は牙猪に比べて高ランクのなのに、そのまま食べられる部位が極端に少ないので採算を取る為にも可食部位の研究がされたのではないだろうか。

 ・・・知らんけど・・・。




 なので、地球でも女子ウケの良かった“ヒレ”はこちらの世界でも“ハマる”かと思ったが、結果は想像以上に良かった様だ。




『ヒレ・・・ですか。聞いたこと無い名前ですけど、こんなにおいしいお肉は初めて食べました!』



『喜んで貰えた様で俺も嬉しいですよ。こっちも俺が作ったんで食べて見てください。』





『・・・これも凄くおいしい・・・。とても優しくて、でも味が薄い訳じゃなくてなんだか色々な味が複雑に絡み合った感じがします。』




 やはり出汁の概念が無いのか、風味や旨味を意識したこの鍋も中々に評価が高そうだった。




『これ本当にマサルさんが作ったんですか?どれもこの町のお店で食べるものより断然おいしいですよ!』



(うん・・・周りも騒がしいからいいけど、それをその“お店”の中で言うのはやめようね?・・・。)



 折角ランバルさんとも打ち解けられて来たのに、水を差すような発言は控えて頂きたいものです・・・。




 こうしてノエルさんの不機嫌さもすっかり吹き飛んだ「美味いもんでも食わせとけ!」作戦は、無事成功したのだった。




 このあと、俺の料理に興味を持ったランバルさんから質問攻めにされたのは、また別のお話・・・。

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