第67話 冒険者活動はお休みとなりそうです

 結局買い取りは、皮と肉と魔石を残してもらった。皮と肉に関しては相当量あったので、防具を作れるだけの皮とひと抱えの肉に留めた。


 魔石については、何気に初めて見るので少し感動した。あの巨体から取れるのだからと期待していたが、僅か碁石程度の大きさしか無かった。

 魔物のランクで言えば足兎のひとつ上でしかないので、当然と言えば当然か・・・。


 魔石は赤みのある半透明なクリスタルの様に見え、宝石のような華やかさがあった。


 選別も終わったのでジャルタさんに礼を言い、買い取りのお金を受け取りに行こうとしたら待ったが掛った。




『お前さん、ここに来る前にノエルには会って来たのか?』



『はい、先に受付へ顔を出したので、査定が終わっている事もそこで教えて貰いました。』



『そうか・・・。嬢ちゃん何か言って無かったかい?』



『?いえ、特には・・・。

 ・・・しいて言えば、いつもと少し雰囲気が違う様に感じましたけど・・・。』



『そうか・・・。まあ、本人が何も言ってないのなら別に良いんだがな。』



『え、なんですか?すごく気になるじゃないですか。』



『・・・いや、昨日コイツの査定を出すのにお前さんが出て行った後、ずいぶん待っていた様なんだよ。お前さんが帰ってくるのを・・・。』



『えっ!?それって・・・。』



『夕方の鐘も鳴って、今日はもう来ないだろうって言ったんだがまだ自分の仕事も残っているから、ついでに待ってるって言って聞かなくてな・・・。』




 ノエルさんに感じていたちょっとした違和感に漸く合点がいった・・・。




(これやったわー・・・。確かにちょっと変だなとは思ったけど・・・。)




『・・・どーしましょ・・・。』




 堪らず問いかけとも、独り言とも取れる言葉が漏れてしまった。




『まあ、約束していた訳じゃないし気にしてもしょうが無いだろ。』




 ジャルタさんにそう言われるも、割り切れる筈もなくウンウン唸っていると・・・




『はぁー、じゃあこんなのはどうだ?・・・』




 そう続けてもたらされたジャルタさんの案に、半信半疑ながら乗ってみる事にした。

 そうと決まれば色々準備が必要なので早々に行動開始。

 ・・・今日はどうやら冒険者活動はお休みとなりそうです・・・。



 ジャルタさんに必要なものを伝えると、売っていそうな店を教えて貰えたので早速買出しに走る。


 これに合わせて場所も必要だったのでパーチに戻り、ランバルさんに相談する。

 やりたい事を伝えると、「面白そうだから。」と快諾。割にあの人もノリが良かった。・・・面白そうって・・・。



 準備に時間が掛かるので先に取り掛かり、良き所でギルドに戻って来たのがちょうど今。

 時刻は既に夕方になっていた




 建物へと入ると、ちょうど波の合間だったのか冒険者の数もそこまで多くなく、すぐにノエルさんとコンタクトがとれた。




『ノエルさん少し良いですか?』



『マサルさん!ジャルタさんの所へ行ったきり、いったい何処へ行かれてたんですか?』




 朝とは変わり感情が表面化していた。・・・おもに悪い方へと・・・。

 とりあえずここは作戦を信じて、まずは宥めるのが先決と、




『すみませんでした!今日の事もそうですが、昨日の事も。ジャルタさんから伺いました、俺が来るのを待っていてくれたって・・・。連絡も入れず本当にすみませんでした!』




 精神誠意、徹頭徹尾、謝る。“大きい”声で・・・。




『ちょっ、ちょっとマサルさん!顔を上げて下さい!』




 波の合間とはいえ、仕事終わりの冒険者はそれなりにいる訳で、俺の“声”につられ何事かと周囲がざわつき出した。




『いえっ!俺は本当に自分勝手でどうしようもないクズです!ギルドの皆さんの力添えがあって、初めて依頼が受けれるのに、何も考えず行動してしまいました!』




 何だ、何だと、ギャラリーがざわざわしているのが聞こえて来る。

 周りにはアホな事をした新人冒険者が、ギルド職員にお説教をされている様に見えているのだろう。そこかしこで「あいつ誰だ?」とか「あのノエルちゃんを怒らせるなんて一体なにをしでかしたんだ?」とか言う声が聞こえる。中には「あいつはアレだろ?例の新人冒険者の・・・」などと言う不穏な声も聞こえてきたが、とりあえず今はスルーしとく事にする。




『わっ、分かりましたからっ!もう気にしていませんから顔を上げてください!』




 耐え切れずといった感じで一応のお許しをノエルさんから頂戴した。しかし本番はこれから。




『本当ですか!?ありがとうございます!でもこのままじゃ俺の気が済まないので、お詫びをさせて下さい!』



『えっ!?お、お詫びですか!?い、いいですよそんなの!』



『いえ!そうはいきません。是非させて下さい!』




 その後、何度かのターンを繰り返し、俺が折れる様子が無いのを察して、遂にはノエルさんの方が根負けした。




『わかりました!受ければ良いんですね、受ければ!』




 半ばヤケッぱちの感は否めないが何とかここまで来れた。




『では、今日の仕事終わりにお時間を頂いても宜しいですか?』





 ・・・こうして俺は、美人受付嬢のアフターを勝ち取る事に成功したのだった・・・。

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