第65話 あれ?・・・雨でも降ってるのかな・・・

 薄暗い部屋の中を、木窓の隙間からぼんやりと光が差し込む。

 人々が動き出し、町が目覚めて行く朝焼け時。階下の音も合わさり微睡みの中、徐々に意識が覚醒されていく。


 そして今日も変わらず日の出と共に起床する。




 顔を洗う為に井戸へ行くと、




『マサル!おはよ、早いのね。もう少ししたら食事の支度が出来るわよ!』




 朝食の準備の為か既に働き出していたテリーチェと会った。忙しいのか言うだけ言って直ぐに行ってしまったが・・・。


 昨夜はテリーチェに若干してやられた感があったのは否めないが、宿の人や環境など概ね満足のいくものだったので、さして問題も無い。根無し草の身、どうせどこかに宿を借りるのだ、これで女の子から悲しい顔を消してあげられるのなら安いものだ。

 ・・・ロリコンジャナイヨ・・・。




 そういえばお詫びとしてサービスして貰った名物の料理は良かった。

 いや、寧ろあれが有ったからこの宿が良いのだ。

 簡単に言えばクリームシチューだった。しかし、俺がキャベルでガブスさんやイエールさんに振舞った“なんちゃって”では無く、ちゃんとシチューだったのだ。


 俺が作った時は脂も牛乳も無かったので、それこそ本当になんちゃってだったのだが、昨夜食べたモノは獣臭さも無く、クリーミーでコクもしっかりある本物だった。


 ランバルさんが店の名物というのも頷けた。後でテリーチェに聞いたら、あれにパンが付いて食事客の場合、大銅貨5枚のところ宿泊客は大銅貨2枚で良いというのだから迷う余地は無かった。


 値段でいえば昨日食べた串焼き2本分だが、代替でいえばそんなもの比では無いだろう。




 そんな事を考えながら、今朝も塩味の肉と野菜スープを頂き元気に出社する・・・。


 ・・・美味いよ、確かにシチューは美味いけど、流石に毎食はチガウ・・・。




 ちなみに部屋は追加で2泊押さえておく事にした。

 格好よく1ヶ月・・・せめて1週間分ぐらいをスパーンと払いたかったが、如何せん無い袖は振れないのであります、はい。


 そして今日も社畜な1日が始まるのです・・・。



 ・・・これ、場所が変わっただけで、やってる事は変わってないんじゃ・・・。



 ・・・あれ?・・・雨でも降ってるのかな・・・。




 ・・・少し情緒の波が激し過ぎて、溺れそうになりながらもギルドへと着いた。



 この時間の建屋の中は相変わらず冒険者が多く、各自依頼を選んだり、仲間らしきグループで話していたり様々だった。受付の列も出来始めていたので、慌てて自分も並ぶ。


 良く見ると受付は他にも2つあるのだが、ここの列だけ少し長い様な気がする・・・。

 他の方が空いているのだから、皆そちらへ行けばいいのに・・・と思いつつ、自分も移らずそのままキープ。すると、いつの間にか自分の番が来て、




『あ、おはようございます。マサルさん。』




『おはようございます。』




 ノエルさんに呼ばれていた。




『査定の方はもう終わっていますか?』



『はい、もう出来ていますよ。では薬草の依頼完了の登録もしますので、冒険者証をお借りしても宜しいですか?』



『はい、おねがいします。』




 俺の冒険者証を持って奥へ行ったノエルさんが少しして戻って来た。




『お待たせしました。ではまずこちらの冒険者証を先にお返ししますね。

 それと今回の買い取り額で、まずは薬草ですが前回より少し鮮度が落ちていますので、回復草が全部で銀貨4枚と大銅貨5枚、魔草が銀貨6枚となりますが宜しかったですか?』




(前回が確か回復草が銀貨5枚で魔草が銀貨7枚と大銅貨5枚だったか・・・

 回復草は1割、魔草に至っては2割も落ちるのか・・・鮮度が重要とは聞いていたが中々シビアだな・・・。)




 今回は牙猪を持って帰って来る為にしょうが無かったとはいえ、やはり採取の順番は重要なのだと思い知った。




『はい、大丈夫です。それでお願いします。』




『ではまず薬草分のお金ですね。合わせて大銀貨1枚と大銅貨5枚になります。お確かめ下さい。』




『・・・はい、確かに。ありがとうございます。』




『こちらこそ、ありがとうございます。あと牙猪の買い取りの方ですが、素材の中で売られない部分があったかと思いますが?』




『・・・はい、皮を自分用に取っておこうと思いまして・・・。』




『では一度、現物でお売りにならない分を選んで頂いてから清算させて頂きたいので、昨日の外の買い取り場までお越し頂いて宜しいですか?解体したジャルタさんもそちらにいますので。』




『分りました、行ってみます。』




 ・・・また、少しノエルさんに違和感を感じたまま、俺は外の買い取りカウンターへと向かったのだった。

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