第64話 まあ吝かでは無い・・・
軽い傷心を引きずりながらチェックインを済ませ、部屋へと入る。
暗い部屋の中を探り探り進み木窓を開け、黄昏時に一人黄昏る。
ここでふと武器屋での事を思い出し、最近自分の鑑定をしていない事に気付く。
久しぶりに鑑定を掛けてみると、
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個体名:マサル
種族:人族
性別:男
年齢:10歳
職業:冒険者、狩人
称号:異世界転生者、墓場まで持って行く者
状態:正常
取得スキル:思考加速、並列処理、異世界言語理解、探査、鑑定、身体強化
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(??あれ?なんか変わってる?身体強化が増えてるだけじゃないのか?)
最後に鑑定した時より、職業とスキルが変わっている様だった。
職業は家事や農夫見習いが無くなり、狩人も見習いが外れ冒険者が増えていた。
従事していないものは消えていくのだろうか・・・?
問題はスキルの方である。視覚強化に聴覚強化、腕力強化に脚力強化が無くなっているのだ。スキルには消失という概念があるのだろうか?慌てて外を見ながら“目”を意識してみる。すると“変わらず”遠くまで“見る”ことができた。
(あれ?視覚強化が有った時と同じく使える・・・。)
・・・考えられるのは、似たようなスキル“身体強化”に統合されたという事・・・とか?
ここで“他の”スキルを試す訳にもいかないので、まだ分からないが・・・。
(まあ明日、外へ出た時にでも確認すれば良いだろう。今さら慌てたところで何も変わらんしな・・・。)
そんな事を考えていると外から夕方の鐘の鳴る音が聞こえてきた。
この宿は夕方の鐘が鳴る頃に夕食の準備が出来上がっていたはずなので、食堂へと移動する事にした。
食堂へと着くと、ちらほら席は埋まり出している様だった。
前と同じくフロアを行き来する女の子へ鍵を見せながら声を掛ける。
『すみません。』
『はい!あ、宿泊のお客さんですね。少々お待ち下さい!』
だが、ここで前と同じ轍は踏まない!
『あっ!いや、ちょっと待って下さい。』
『はい?何でしょう?』
『宿泊客は他の料理を注文出来たりしませんかね?』
『あ。お客さん前にも泊まった事のある人ですよね?
お母さんの説明が足りて無くて・・・。もしかして料理の説明も・・・ああ!ごめんなさい。そこは私が気付くべきだったんだ・・・。』
俺の事を覚えてくれていた様だが、何やら急に謝られてしまった。
『お客さんごめんなさい。お母さんが食事の説明を忘れていた時点で気付けば良かったんですけど・・・私も説明が足りていなくて・・・。
宿泊のお客さんには2食の食事が付くんですけど、追加でお金を頂ければメニューの変更は出来るんです。』
(おお!やっぱり出来たー!まあ別料金はしょうがないな・・・サービスにそこまで求めるのもな・・・。)
宿泊客以外の食事客もいる辺り、メニューが他にもあるとは思っていたのだ・・・気が付いたのは前回のチェックアウトをした後、だったが・・・。
だから今回は最初から聞いてみようと思っていたのだ。
『いえ、いいんですよ。俺も聞かなかったのが悪いんですから。』
他の料理が食べられる事が分かり、今の機嫌は悪くない、いや寧ろハッピーハッピーだ!
・・・そしてモンキッキーも何処へ・・・。
『そんな!お客さんは何も悪くありませんよ。ちょっと待っていて下さい!』
そう言われ、女の子は奥へ引っ込んでしまった。
(いや、注文さえ取ってくれればいいんですけど・・・。)
既視感のある状況にどうしたものかと待っていると、奥から女の子と男の人・・・先程会ったテラサさんの旦那さんが一緒にやって来た。
『ああ!こりゃさっきのお客さん。重ね重ねすみませんね。私はここの主人のランバルという者です。話は娘から聞きました、家族でご迷惑をお掛けしてすみませんでした。』
『い、いえ、そんな大した事では無いですよ。』
『いいや、聞けば前に泊って頂いて折角また来て頂いたのに、何も出来ないでは申し訳ない。こんな物でお詫びになるか分りませんが、これはウチの名物の料理でお口に合うか分かりませんが、ぜひ食べていって下さい。』
『そんな、わざわざすみません。』
そう言って差し出された料理をみる。
・・・正直、自分の食べたい料理を注文したかったが、名物というのであれば・・・まあ吝かでは無い・・・。
『それではごゆっくり。』
俺が料理を受け取ると主人・・・ランバルさんは厨房へと帰っていった。夕方のかき入れ時にわざわざ出て来てくれるあたり、良い人なのだと思う。
すると、ランバルさんを見送った女の子が、
『私はテリーチェって言います、本当にごめんなさい。』
申し訳なさそうに女の子・・・テリーチェが謝ってきた。
『気にしてないよ。・・・それより、俺はマサル。冒険者をしてるんだけど、多分しばらくはここにお世話になると思うんだ。だから年も近そうだし普通に話してくれないか?』
『ホントに!?・・・わかった、じゃあそうする!年の近いお客さんって今までいなかったから、なんか嬉しいわ!何かあったらまた呼んでね!』
そう言ってテリーチェは仕事へと戻って行ったが、年端もいかない女の子の悲しそうな顔に、連泊が決まってしまった・・・。
『マサル!ありがとね!』
行ったと思ったテリーチェが振り返り、そう言ったかと思うと今度こそ本当に仕事へと戻って行った。
女の子の成長は早いとは聞いていたが、どうやら異世界でもそれは変わらないらしい・・・。
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