第63話 あそこには・・・ツライ思い出が詰まっているから・・・
鍛冶師のヴィルドさんに気に入られ剣を手に入れる事が出来た。
・・・男の夢、ファンタジー感がやっと来た・・・タダより高いものにならない事を祈るばかりだが・・・。
空も赤くなり始め、1日の終わりに近づく。
ギルドに戻って買い取りの精算を済ませたいが、まだ今日の宿も決まっていないので先にそちらを片付けておきたい。
たぶん今日もお金さえ払えばギルドに泊まる事は出来るのだろうが・・・さすがに少しは離れたい・・・切実に・・・あそこには・・・ツライ思い出が詰まっているから・・・。
まあ、どうせ明日には顔を出すのだが・・・。
・・・ああー、不労所得が欲しい・・・。
という事で、この町へ初めて来た時にお世話になった宿屋“パーチ”へ向かう事にする。
他の宿屋も知らんしな。まあメシだけ問題だが・・・いや、寧ろそれが一番の問題か・・・。
それを考えたらギルドの方が良いのかもしれない。なんせ今日は俺が狩って来た牙猪の肉が出てくる可能性があるのだから。
(流石に買い取りの完了してない素材を卸しはしない・・・か?)
仮に卸していたとしても1日で全て無くなる事も無いだろうと結論付け、結局宿屋に向かう事にした。・・・決して串焼きで肉欲が満たされていた訳では無い・・・。
1回しか行ってないので少し不安だったが、無事パーチへ着く事が出来た。
『すみません。泊まりたいんですけど・・・。』
ドアを開けながらそう声を掛けると、前回と同じ様にフロントには女将のテラサさんが居た。
『いらっしゃいませ。あれ?お客さん、以前に泊られた・・・マサルさんですか?』
(おぉ!前回では、おっとり癒やし系天然女将の感じだったのにやはり客商売か・・・客の顔と名前を覚えてるとか、実は計算だったのか・・・?)
『はい、またお世話になりたいんですけど。』
『お部屋ですね、ありますよ。こうしてまた泊りに来てくれたって事は冒険者にはなれたんですか?』
『ええ、お陰さまで。まだ一番下っ端ですけど。』
『わぁー、凄いんですね!あら、ごめんなさいね。ウチの子とあまり変わらない様に見えたから、ずっと気になってたんですよ。』
(ああ、こんな子供が冒険者になろうとすれば印象に残るのは当然か・・・。)
危うくテラサさんにあらぬ疑いを掛けてしまう所だった。
・・・きっと“あっち”で碌でも無い目にあってきた所為だな・・・主に夜の蝶が相手の話だが・・・。
『冒険者にはなれたんですが、そのまま泊まり込みの訓練になってしまいまして・・・。』
『まあ、そうだったんですか。でも、冒険者になれて良かったですね!』
微笑み掛けられ、そんな事を言われてしまい思わず顔が赤くなってしまう。
年齢的にも“元”の方で言えばちょーど良いのだ。多分20代後半ぐらいに見える。
気にしだしたら余計に意識してしまう・・・。
『は、はい。で、ですのでまた当分のあい・・・』
『おい、仕込みを手伝ってく・・・あ、お客さんでしたか、すみませんね。』
『あら、手伝いが必要?』
『ああ、いやいい。お客さんを待たせちゃいかんでな。すみません、何も無い宿ですがどうぞゆっくりしていって下さい。』
『騒がしくてすみませんね。うちの食堂で出してる料理は主人が調理をしてるんですよ。
それで何のお話でしたかね?』
突然現れた男性はテラサさんの旦那さんだったらしい。そういえば食堂の女の子は娘さんだったか・・・。
『い、いえ、また1泊お願いします。』
・・・こうして俺の異世界での初恋は、人知れず終わりを迎えたのだった。
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