第62話 確認は重要
『待たせたな、これだ。』
そう言って持って来たのは、豪華な装飾が成された一振りの剣だった。
『こいつの価値が分かるか?』
『ずいぶん豪華な造りですね。』
『今回は武器の良し悪しだからな、装飾はおまけだ。』
『では、抜いて見ても良いですか?』
『ああ、ほれ。』
そう言って手渡された剣をマジマジ見る。細部まで作り込まれた意匠はまさに職人技ともいうべき繊細さと精巧さで、素人目に見てもそれがどれだけ凄いことか分かる程。
(機械加工なんて無さそうな世界で、これだけの細工を施せる職人は凄いな・・・。)
『判断するのは中の剣だぞ。』
その技術力の高さに感心してしまい、ずっと装飾ばかり見てしまっていた所為で窘められてしまう。
『そうでしたね。では、抜かせて頂きます。』
鞘から抜くと銀色に輝く刀身があらわれた。
よく見る・・・じっと見る・・・穴があくほど見る・・・。
(さっぱり解らんな・・・まあ、結局最後は“先生”頼みだな。ちょっと反則臭いがスキルも立派な俺の力という事で・・・。)
誰にするでもない言い訳をしながら鑑定を掛ける。
出た鑑定結果がこれ
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名称:鉄の剣
説明:鉄を鍛えて作れた剣。
状態:良
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(・・・ん??どゆこと?)
出て来た鑑定結果に戸惑いを隠せない。最初に鑑定した剣とまるで同じに見える。
細部までこだわり抜いた意匠に、相当な業物を期待していたのだが・・・いや、或るいは裏をかいてゴミ屑の様な剣で装飾に騙される様に仕向けるとかならまだ分かるのだが・・・。
(え?バグったのか?)
確認の為に周囲の武器をもう一度鑑定してみると、種類や状態などはちゃんと変化が見られ鑑定はしっかりとされている様だった・・・まあ真偽の程は定かでは無いのだが・・・。
俺がそんな状態の為、答えを出し渋っていると、
『どうした?答えは決まったか?』
『えっと・・・どういう基準で価値の有無が決まるのでしょうか?』
想定していた極端に“良い物”や“悪い物”なら分かるが、根本的に“価値”の線引きが曖昧なところで、良いも悪い決められなかった、というのが本音。
『ほぅ・・・。では、お前さんが買おうとしている剣と比べたらどうだ?』
(俺が買おうとしてるのは“優”だったか。で、この豪勢な剣は“良”と・・・。置き方や置いてある数的に“良”の方がランクが下の様な気がする。自分が振った感じも“優”の方がしっくり来たしな・・・。)
『そうですね・・・。それなら、俺が買おうとしている剣の方が良い物・・・かなー・・・?』
どちらも良さげな表記のため、実際どちらが上なのかがいまいち掴めないので中途半端な答え方になってしまう。すると、
『はっきりせん奴だな!チャッと決めんか!』
『で、では、俺が買おうとしている剣の方が良い物・・・です。』
勢いに押され答えてしまった。すると何故かドワーフの店主は大声で笑い出した。
『わっはっはっ、そうか!お前さんが買おうとしてる剣の方が良い物か!』
(やだ、なにこの人コワいんですけど・・・。)
若干引いていると、ひとしきり笑って気が済んだのか、
『いやあ、悪い悪い。久しぶりに“見る目”のあるヤツにあったんで嬉しくてつい、な。
気に入った!この剣はお前さんにやるよ。』
そう言うと、俺が買おうとしていた剣を渡してきた。話の流れが分からず戸惑っていると、
『この“目利き”はな、俺の店で武器を買おうとする奴にはみんなするんだ。
だが、大半の奴はその外見に騙されて間違える。
嘆かわしいとは思わんか?剣とは本来こんな華美に飾るもんじゃない。本質をまるで分かっちゃいない奴が多すぎるんだ。
仮にこの豪勢な造りに惑わされなかったとしても、お前さんの様にその価値の線引きをした後に更に正確な判断を出来る奴は、ここ数年出会ってないな。』
どうやら2分の1の勝負には勝てたようで一安心。しかし、
『約束では半値でしたけど本当に頂いても良いんですか?』
後で返せと言われても困るので、確認は重要。
『ああ、問題無い。この装飾に騙されなかった時点で俺の剣を買う資格は十分だ。
さらに剣の本当の価値まで当てたんだ、試した詫びも込めて使ってくれ。』
『そうですか・・・。では、ありがたく使わせて頂きます。』
『おう。修理や新調を考えたらまたウチに来い。俺はヴィルド、ここの店主兼鍛冶師だ。』
『俺はマサルと言います。よろしくお願いします。』
こうして俺は、念願の剣を手に入れることが出来たのだった。
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