第58話 間違えて呼んじゃいそう・・・
初クエと久々の外界にテンションも上がる。
(イヤッホーイ!自由ーだー!)
足取りも気持ちも軽やかに門へと向かう。採取に必要な物は試験の時に行った道具屋で既に調達済みなので抜かりは無い。
門へと着き他の冒険者に習い、冒険者証を見せて通過しようとすると呼び止められてしまった。
『ちょっと待て、お前マサルだな?』
そう声を掛けてきたのは、最初にこの町へ来た時にもいた門番・・・衛士のカルスさんだった。
『はい・・・えっと、カルスさん・・・ですか?』
『何で疑問形なんだ。まあいい、それより冒険者登録は出来たんだろう?』
名前が咄嗟に出ずちょっと変な感じになってしまった。
『え?はい、出来ました。』
『じゃあ割符の返却をしていってくれ。』
(あ、やったわ・・・というか・・・)
『すみません、忘れてました。
それに1週間ごとの再徴税の支払いもしてなかったですよね・・・?』
そう入町税は1週間ごとに再徴税されると言っていたのを思い出したのだ。完全に抜けとった・・・。
『ああ、そっちは大丈夫だ。ドールさんの訓練を受けていたんだろ?
それに冒険者の登録も1週間以内に終わっていた様だし、徴税対象からは既に外れているよ。』
(良かったー。脱税でいきなりお縄とかシャレにならんしな・・・。ん?)
『そうだったんですか。・・・あの、訓練の事とか登録の事とかどうして知ってるんですか?』
『ん?ああ、訓練で他の冒険者と一緒になっただろ?カイルは俺のいとこなんだ。
いつまでも来ないし、町を出た様子も無いから心配してたんだが・・・まあ最後に見た時にドールさんと一緒だったと報告を受けていたから予想はしていたんだが、1週間前にカイル達が出て来た時に聞いたんだよ。』
(おおー、カイルのいとこだったのか・・・カルスさんにカイル・・・間違えて呼んじゃいそう・・・。)
『そうだったんですか。カイル達は元気ですか?』
『ま、まあな・・・そ、それより割符は持っているか?』
『?はい、これですよね?』
『ああ、ちょっと待っていてくれ。』
少し待つとカルスさんがお金を持って戻って来た。
『待たせたね、確認が取れたよ。はい、これが返却金だ。』
銀貨を返して貰い、やっと門を通る事が出来た。
とりあえず試験の時に行った森へと向かう。
森の入口へと着き、風下を確認して中へと入って行く。
“探査”や“目”を使いサクサク採取を進める。今回も早く終わってしまった為、少し悩む。
折角森にまで来たのにこのまま帰っても良いものか、しかし採取は済んでしまっているので素材の鮮度を考えれば早いに越したことは無い・・・悩んだ末、少し探索してから戻る事にした。
(こんな事なら採取を後回しにすれば良かったな・・・。)
たらればを思いつつ慎重にだが素早く探索を進める。草むらや雑多な低木が多く視界が悪い・・・久々の探索というのと、その視界の悪さの所為も重なり、気付くのが遅れてしまった。
目の前の藪から軽トラ程の大きさの猪が突然出て来たのだ。
余りの大きさに驚いて一瞬思考が飛ぶ。向こうもこちらを警戒してか、様子を見ているお陰で何とか意識を戻す事が出来た。
大きさもさる事ながら、何よりその下顎から天を突かんとする程に伸びた牙に目を引かれる。この二つの特徴から考えられるのは、猪の魔物・・・牙猪だ。
もはやこの距離で視認されては逃げるのはムリだろう・・・覚悟を決めるしかない!
決めてからの行動は早かった。
肩に掛けた矢筒から矢を2本出し、1本を持ったままもう1本を弓に番える。牙猪も危険を察知したのか、こちらへと突進してくるが、俺の方が少し早い。
新しく取得した“身体強化”はまだ検分も終わっていないが、それを含めて総動員で矢を放つ。
矢は牙猪へ当たっている様だが、それを確認する間も無く横っ飛びに避けると、今まで自分がいた場所に突っ込んでいく牙猪。
ゆっくりと体を起こしこちらへと顔を向ける。
すかさずもう1本の矢を番えすぐ放つ。そして矢筒から次を取出し繰り返す。
(恐え・・・早く!次!次!次!・・・。)
一心不乱に射続ける。ふと、矢筒が空になっている事に気付き我に帰る。
牙猪は眉間に何本もの矢が刺さっており、事切れたのかゆっくりとその場に倒れていった。
(た、助かったのか?)
こうして俺は、初めて牙猪を討伐する事に成功したのだった。
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