第56話 尊いわぁ・・・
二日酔いも幾分か落ち着いてきたので、昨夜の事を思い出しギルドの受付に行く事にする。
酔いを醒ますため少しぼーっとしていた所為か先程より人は増え、ギルドには少しづつ冒険者が集まり出している様だった。
『おはようございます。』
『あ、マサルさん。おはようございます。』
受付もまだ列が出来ておらず、ノエルさんがいたので声を掛ける。
『昨日は遅くまで飲まれていた様ですね?』
(?何だか少しトゲがあるな・・・。)
いつもより少し違和感を覚えるが、見当がつかない。
『ええ、まあドールさんも強くてこのまま永遠に飲み続けるのかと思いましたよ。』
ザルな人と飲む時に抱く感覚は、異世界でも変わらないのだと悟った。
『そういう事では無く、マサルさんはまだ10歳なんですよ?』
(あれ?こっちの世界でも「お酒は二十歳になってから!」とかあったのか?ドールさんも普通に勧めてくるもんだから勝手に無いのかと思ってた・・・。)
『すみません、田舎から出て来たもので一般常識を知らずについ。お酒には年齢制限があったんですかね?』
『い、いえ、そういうものはありませんけど・・・か、体が基本の冒険者が、まだ体の出来上がっていない子供の内にお酒を飲んで成長に影響が出たら、ど、どうするんですか!』
顔を赤くしながら必死に捲くし立てるノエルさん。
・・・尊いわぁ・・・朝から良いもん見れたぜ・・・。
(・・・確かに子供の体にどんな影響が出るのか分からんしな・・・まったく飲めんのも寂しいが何事も程々が一番か・・・。)
『そうですね、体調を崩しては元も子も無いですからね少し控え様と思います。昨日のは訓練の卒業祝いという事で大目に見て下さい。』
俺がそう言うと、少し目をパチパチさせながら、
『わ、分かって頂けたのなら結構です。』
相変わらず顔を赤くして、だがどこか満足そうに頷きながら納得してくれた。
・・・一体、彼女のどこの琴線に触れたのか分らないが機嫌が直ったのなら良しとしよう。
今さらオッサンの俺が今どき女子の心情を理解しようなどとムリがあるのだ。いや、今どき異世界女子か・・・余計にハードルが上がったな・・・。
大体なんだよ、「○○しかかたん!」って!
結局、勝つのかよ、勝たねーのかよ、どっちだよ!
・・・いかんいかん、本題を忘れるところだった。
『それで、ドールさんから訓練の卒業に合わせて、俺の冒険者登録に付いてる採取限定の解除を言われたんですけど・・・。』
『えっ?あ、ああはい。そ、それはこちらでも伺っていますよ。手続きをしますか?』
少しシドロモドロとしながらも、既に話は聞いていた様で手続きはすんなりと出来そうだった。
『そ、そのまま解除が出来るのであればお願いします。』
訓練に参加した流れを思い出し、暗に求められる“当然知ってますよね?”を警戒し疑心暗鬼になってしまうのはしょうがない事だと思う。
『?はい。戦闘技術の確認で、ドールさんから問題無いと報告を受けていますし、何より訓練場にてその風景をギルド側として私も見ていましたので・・・と、とりあえず解除の申請はこのまま行えます。』
何故か途中からまた顔を赤くさせ、後半は目を俯かせ早口に捲し立てられてしまった。
とりあえず、後出しジャンケン的にも無さそうなのでこのまま手続きをしてもらう事にした。
暫くして、奥に行っていたノエルさんが預けていた俺の冒険者証を持って戻って来た。
『こちらが更新された冒険者証になります。ご確認下さい。』
そう言って渡された冒険者証を見ると材質は木のままだったが、表面に刻まれていた“採取限定”の文字は消え、名前だけになっていた。
『確かに。ありがとうございます。』
『い、いえ。そ、それで今日はこれからどうされますか?』
手続きを待っている間に冒険者は増え、これからみんな活動し出す頃なのだろう。
二日酔いも落ち着いてきたし、この1ヶ月は訓練で金銭的には格安で過ごせたが、今日からまた宿や生活に金も掛かる為、遊んでばかりもいられない。剣術も折角身に着けた事だし、剣も欲しいのだ!・・・よって、
『・・・そうですね、依頼を受けてみようかと思います。』
『そうですか!では、依頼の受注について説明させて頂きますね!』
そう言って、嬉しそうに説明を始めたノエルさんに、何故だか微笑ましい感覚を持ってしまうのであった。
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