第55話 これがホントの“這う這うの体”か・・・
久し振りの二日酔いで目が覚める。昨夜はドールさんに付き合い遅くまで飲んでいた。
結局スキルに関しては、あれ以上突っ込んでは聞いて来なかった。さすがは大人、不文律を優先してくれるあたり、その辺の輩とは違うのだった。
夜も遅かったので、訓練で借りていた部屋をそのままもう1日借りて、起きたのが今。
ここでも習慣は抜けない様で、ちょうど夜明け時に目が覚めた。
気持ちが悪いので水が飲みたいが、歩くのも辛いので這って行く。
・・・これがホントの“
ギルドの裏、訓練場の隅にある井戸までやって来て、やっと水にありつける。
道中、すでに動き出していた職員や冒険者に不審な目で見られながらだったが、そんなトコに気を割く余裕も無かったのでノーカンだと思う・・・。
水を飲んだ事で少し気分もマシになり、昨日の事を思い出す。
ドールさんとの事もそうだが、それよりもお任せで出して貰った料理の方だ。
たまたま入荷していたらしい“闘牛”という魔物の肉を使った料理が出されたのだが、これが絶品だった。
この魔物、“闘牛”というだけあって動きの活発な魔物らしく、肉の大部分は赤身で筋肉質なのだが、“芯”と呼ばれる稀少部位は赤身だが柔らかいという最高の肉質の部分があり、それがちょうどあるからと出されたのだ。
~・~・~・~・~
切り分けられたレアに焼かれたステーキを、塩のみの味付けで食べる。
安い外国産の赤身と筋が入り乱れた肉を主戦場としていた身には、最初何が起きているのか分らなかった。
普段食べ慣れていた赤身の固い締まった肉質を裏切り、まず歯に僅かな抵抗しか見せず簡単に噛み切れてしまう事に驚き、噛む毎に肉汁が出て肉の旨味を感じる事に感動した。
気付いた時には皿が空になっていた程、無心で食べていたのだ。
(はっ!・・・もっと大事に食べれば良かった・・・。)
『なんだ、もう食ったのか?』
『はい・・・。』
『俺もまだだったんだぞ。・・・そんなに美味かったのか?』
『はい!』
ドールさんの分まで食べていた事に一瞬焦ったが、自分が美味いと思うモノが褒められた事に気分が良いのか、逆に機嫌が良くなっていた。
『ここはギルドにある食堂だからな、痛み易いものや卸すのに半端な量の食材は、稀にこんな風に出してくれるんだ。まあ俺達冒険者の特権ってヤツだな!』
『この魔物の肉は、あまり出回らないんですか?』
『全身筋肉の塊だからな、食材として見るならそのまま食べられる部位が少なすぎて、一部の愛好家が採取の依頼を出すくらいで、通常依頼として採取を頼むヤツはいないんだ。
今回も討伐依頼として処理されたものが回って来たって感じだったからな。』
『そうなんですか・・・。』
『・・・言っとくが、お前じゃまだ無理だぞ。闘牛はC級の魔物だからな。
それでなくてもお前は採取限定だろ。』
『依頼として受けられないだけですよね?
あっ・・・まさか、自分のランク以上の魔物と戦うと罰則があったりするんですか?』
『それは無いが、だからまだと言っただろうが。実力としては問題無くてもお前、実戦経験がまるでないだろ?』
『まあ・・・そうですね・・・。ん?実力は問題無いんですか?』
『福音の真偽は置いといて、“元”とはいえA級の俺とあれだけ打ち合えて、いまさらC級の魔物ごときに遅れはとらんだろ。』
不意に実力を認められ、驚きつつも喜びに満ちていく感覚。
『じゃあ!』
『いくら実力があろうと、それを発揮出来なきゃ・・・お前、死ぬぞ。』
そう言ったドールさんの冷たい目に、言葉を続けられず飲み込む事しか出来なかった。
『とりあえず、この1ヶ月で剣の腕は上がったが、それは訓練での事だ。実戦とは違うのは分かるだろ?』
『・・・はい。』
『だから、まずはF級から討伐して来い。』
『え?それって・・・。』
『採取限定の解除だ!』
こうして俺は依頼を1度も受ける事無く、採取限定から通常冒険者へとジョブチェンジするのだった。
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