第54話 このスピード感、まさに理想的・・・
『好きなものを頼め!今日は卒業祝いだから俺の奢りだ!』
場所は最早通いなれたギルド内の飲食スペース。
好きなものを頼めと言われても、この店に何があるのか分らない・・・いや、むしろこの世界にか・・・。ならば、
『どんな料理があるのか分らないので、ドールさんのお勧めでお願いします。』
『ん?そうか?じゃあ・・・。』
そういってドールさんはウエイトレスの女の子を呼び、色々注文していた。
聞き終えた女の子は厨房の方へ行ったかと思うと直ぐに戻って来て、
『はい!お待ちどうさま。エールね!』
とりあえずビール、ならぬエールを持って来た。
・・・このスピード感、まさに理想的・・・。
『酒は飲めるか?まあ冒険者たるものエールぐらいは飲めんとバカにされるからな!とりあえずいっとけ!』
新入社員で行った時の歓迎会を思い出す。先輩が同じ様な事を言っていた気がする・・・何歳で社会人になったのかは割愛させて頂きます・・・。
『『カンパーイ!』』
『―――ングッ、ングッ、プハッ!』
ビールとはまた少し違う感じがするが、久し振りの酒にテンションが上がる。
『おう、いけるじゃないか!ドンドン飲めよ!
・・・で、お前また福音を聞いたな?』
『ブホォッ!』
駆けつけ2杯目を行きだした所でそんな事を言うものだから、盛大に撒き散らしてしまった。
『勿体ねえなー、奢ってやるとは言ったが吐くなよ。』
自分のコップはしっかり持って、安全圏に退避しながら文句を吐くドールさん。
『い、いきなり何を言い出すんですかっ!?』
『いや前も言ったが、秘密にしたいのか誇示したいのかどっちなんだよ・・・。
最後のあれ、明らかに動きが変わってただろ。
・・・少し本気を出しちまったじゃねえか。』
(・・・あれでまだ本気じゃ無かったのか・・・。)
背中に冷たいものが流れるのを感じた。
『あまりポンポン使うのは勧めないぞ?
福音に頼った戦い方をして、身を滅ぼしたヤツを何人も知ってるからな。』
エールを煽りながら伏し目がちにそう言うドールさんを見て、訓練に誘われた時の事を思い出す。
「―――個人的にも、これで死ぬ奴が減るならと引き受けたのが始まりだしな―――」
これまでに幾人もの知り合いが“そう”なっていったのだろう。
“死”が近い世界なのだと改めて感じた。
『・・・今度は普通の指導をお願いしても良いですか?』
俺の言葉に少し驚きの表情を見せ、“あの時”と同じくニカッと笑い、
『今度は“兄弟”だからな。終わったら奢れよ?』
自分のコップを俺のコップ当てながらそう言うドールさんは、どこか嬉しそうに見えたのだった。
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