第53話 つまり―――貴様も永遠である。
スキル取得のアナウンスを聞いてからは劇的だった。
今までは“見えて”いても反応が出来なかったり、イメージした動きをトレースするのに違和感があったり、体捌きに関してもっと“こう出来たら”と感じでいた部分が、思い通り動ける様になったのだ。
俺の動きが先程とは明らかに変わった事に多少の動揺は見られるものの、ドールさんを崩すまでには至らず打ち合う時間だけが伸びていった。
俺が斬り掛かり、それをドールさんはいなす。
今度はドールさんが斬り掛かり、俺が木剣を使い弾く。ドールさんの木剣が上段方向に弾かれたのを視界の端で確認すると、ここが好機と振り上げた木剣を、そのまま袈裟斬りに振る。
すると、視界の下の方でドールさんの足が動くのが見える。
まるで先程の打ち合いをなぞる様な展開に、蹴りがまた柄に来る事を予測して柄から左手だけを外し、牽制に回す。
しかし予測したタイミングに蹴りは来ず、代わりにドールさんの木剣が俺の腹へと突き刺さっていた。
突然の事に身構える暇も無く、受けた衝撃のまま俺は吹き飛ばされた。
『がはっ!っつぅ・・・・。』
痛みに悶絶して立てないでいると赤く染まった空に鐘が鳴り響き、長かった訓練に終わりを告げた。すると、
『整列っ!』
習慣とは恐ろしいものだ・・・。疲労と痛みで朦朧としながら、されど号令を掛けられると動いてしまう体・・・。
訓練場には今、俺とドールさんしかいない。
カイル達は予定通り1週間前に訓練を終えて、ここから出て行っていた。
つまりこの号礼は俺だけに向けられたものなのだ。
痛みを残しながらもドールさんの前に立つ。
『本日を持って貴様はウ○虫を卒業し、冒険者である。
同じく卒業した者達は兄弟の絆に結ばれる・・・貴様らのくたばるその日まで。
どこにいようと貴様の兄弟だ。
多くのものは戦地へ向かい、ある者は2度と戻らない。
だが肝に銘じておけ。冒険者は死ぬ。死ぬ為に我々は存在する。
だが冒険者は永遠である。
つまり―――貴様も永遠である。』
・・・不覚にもウルッときてしまった・・・。30日が本当に長かった・・・。
辛かった日々を思い出す。
当初は本当に何の技術も覚悟も無く冒険者になろうとしてしまったが、1人前と認められた様な言葉を掛けられ、その辛かった日々が意味のあるものだったのだと感じる。
『マサル、卒業祝いだ。メシを食いに行くぞ。』
罵声に怒声、セクハラにモラハラ、まともに声を・・・名前を掛けられたのは30日振りだった。
あの辛い日々は、本当に終わったのだと改めて実感した。
さぁ行こう!ここからが俺の冒険者人生のスタートだ!
『サー、イエッサー!』
・・・習慣ってコワいよね・・・。
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