第52話 ただ無心に、ひたすらに・・・
それからの日々は本当に地獄だった・・・。
朝は日の出から変わり映えの無い食事をとり、早々に訓練場へ集合すると、朝一の罵声を浴びながら準備運動的にアップを済ませ、町の外へと向かい走る・・・走る・・・ひたすら走る・・・後ろから罵声と木剣を浴びながら・・・それでも走る・・・。
初日こそ走る時間が短かった為に何とかなっていたが、翌日からはそうはいかなかった。
どうやら朝から昼の鐘が鳴るまでが走り込みの時間となっていた様だが、しかしそんなに長く俺のスタミナが保つ筈も無く、割と早い段階から最後尾が俺の定位置となっていた。
訓練場へ戻ってからは、乱取り・・・乱取り・・・ひたすら乱取り・・・。
武器の扱いを教えてくれるというのは、どうやら昔ながらの“見て盗む”タイプの方針らしく、おn・・・ドールさんはいろいろな武器を使い、俺達を相手にしていた。
鑑定でスキルを見た時に、もしや、と思ったが“腕力強化”と“脚力強化”・・・
どうやら脳筋タイプの様です。ありがとうございました。
・・・まあ、実際そこまで脳筋だったらA級になどなれないとは思うが、手取り足取り教えてくれる様な事は無かった。
なので、何とか攻撃を受けない様に、こちらが攻撃した際にどうやって受けて、或いは流しているのか徹底的に観察した。自分の攻撃の時も、反撃を受けながらも、他の冒険者が攻撃している時も、ただ無心に、ひたすらに・・・。
訓練で体力を削られ、罵声で精神をすり減らし、その中でカイル達の言っていた3日目が確かに1番辛かった・・・彼らの心は既に折れていたし、俺も1人で逃げる勇気など持てる筈も無く、結局逃走を図る事も無く日々は過ぎていった。
日を追う毎に、外周での走るスピードは上がり、訓練での立ち回りや反撃のレベルも上がっていき、罵声も自身の事から親兄弟を蔑まれる内容まで盛り込まれていき、身も心も追い込まれていった。
余計な事を考える暇も無く、ただ目の前の事に文字通り“必死”に食らいついていった。
“目”も“耳”も“手”も“足”も全てを総動員し、木剣を持つドールさんを追い掛ける。
追う俺へドールさんは鋭い突きを繰り出すが、“見えて”いる俺はそれを肩を少し開く形で躱す。そのまま体格差のため剣先が下にある俺は、逆袈裟で斬り上げる様に木剣を振るうが、ドールさんは突きの前進動作を加速させ俺と体を入れ替える様に反転させ躱した。
だが加速する際の体重移動や足の動きで先に察した俺は、斬り上げた振りのまま今度は袈裟斬りに木剣を振るう。
ドールさんの木剣は未だ突きの流れのままだった為、受けも流しも間に合わないと思ったが、反転の軸足とは逆の足を振り上げ、俺の振り下ろす柄へ蹴りを当てて来た。
お互い体勢が崩れ、“また”仕切り直し・・・。
いつからか、俺はドールさんからの攻撃を直で受ける事が少なくなっていた。
そしてまた切り結ぶ・・・。
すると、またあの“声”が聞こえた・・・。
『スキル:身体強化を取得しました』
・・・俺が訓練に参加して、丁度30日目の事だった・・・。
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