第51話 1泊2食に鬼のシゴキ付き・・・

 とりあえず現状を理解しようと、カイルに話を聞く事にする。



『いろいろ聞きたい事はあるけど、とりあえず手違いって事でこの訓練を辞める事って・・・。』



『あの鬼にそれ言えるのか?』



(ですよねー・・・。)


『いや、でも普通始める前に説明ぐらいあっても・・・。』



『お前、年齢的にも普通に冒険者登録しに来た訳じゃ無いだろ。多分、適性試験とか。

 それを知っててこのエレナのギルドに来たって事は、ドールさんの事も知ってるって思われてもしょうがないんじゃないか?

 ギルドの表立って宣伝もしていない試験と、元A級冒険者の訓練、どっちが有名かなんて聞くまでも無いだろ。

 っておい、聞いてるのか?・・・

 何かブツブツ言ってる?』



 ・・・全くもってその通りだと思います。・・・

 ただ現実に居るのですよ・・・ここに。

 今はただ、呪詛の言葉を吐くのみ・・・

 想いよ届け!彼の者ガブスの元へ・・・



『何か目が死んでるようね・・・。』



『ああ。知らなかったってのは本当だったみたいだな・・・。』



 フィルニスとカイルは憐みの目を俺に向けていた。

 逃れられない事を悟り、こうなれば一層の事・・・



『あー、何を考えているか分からねーが、多分止めといた方が良いと思うぜ・・・。』



 ヤーマンが伏し目がちにそう忠告してきた。

 ・・・顔に出ていたのだろうか?とりあえず、すっとぼけて聞いてみる。



『な、何を止めた方が良いんだ?』



 すると、何故かみんな青い顔になりロレインなどは小刻みに震え出した。

 そんな中バインツが答えてくれた



『マサルは、多分逃げようと思ったんじゃないか?』



 図星に体が一瞬ピクついてしまう。尚も続けてバインツが、



『お、俺たちも覚悟はしてきたつもりだったんだが、3日目でとうとう限界が来てみんなで逃げようってなったんだ。夜、町が寝静まった頃に合わせて・・・。』



 フィルニスが続けて、



『みんなボロボロだったのよ・・・。このままじゃ確実に殺されるって思って、部屋を抜け出したの・・・。でも建物から出た所で、あの鬼がっ・・・。』



 その時の事を思い出したのか、青い顔から血の気が引いた白になると共に、頭を抱えうずくまり震え出してしまった。

 ・・・なにしてくれてんのよ・・・これ完全にトラウマになってるじゃない・・・。



『・・・つまり、そういう事だよ・・・逃げるなんてバカな真似は止めといた方が良い・・・。』



 カイルがそう締め括って話を切ったが、もう辺りはお通夜みたいな空気。

 ・・・えっ?どゆこと!?・・・


 とりあえず、なんとかこの空気を変えようと話を振る。



『そ、そういえばカイル達はあとどれ位で訓練が終われるんだ?』



『俺たちは今日で丁度6日目だ・・・。』



(おぉう・・・。まだ序盤も序盤じゃない・・・。)



 まだ“6日”という現実に一層落ちていく5人。もう訓練の話に触れる事すら叶わない様なので、大きく変える。・・・正直、動き過ぎて全然欲が沸かないが、



『みんな晩飯はどうしてるんだ?』



『・・・そうだな・・・飯食っておかねーと体がもたねーからな・・・。』



『・・・じゃあみんなで行くか。』



 女子2人はまだ顔色が優れないが、ヤーマンとカイルが乗ってくれたお陰で何とか気分を変える事が出来そうだ。




 5人に連れられ、ギルド内の飲食スペースに降りて来た。

 寝泊まり出来る部屋は、ギルドへ入って正面に見える業務スペースと飲食スペースを隔てる様にあった、中央の階段を上った所にあった。

 外出も外泊も禁止と言っていたのでどうするのかと思っていたが、この建物の中で全て賄えてしまうらしい・・・。



 既に仕事終わりの冒険者たちで満たされつつある飲食スペースに、空いた6人掛けのテーブルを見つけ早速座る。ここで気になったのでカイルに聞いてみる。



『この訓練はそれ自体もそうだが、宿泊や食事の費用はどうなってるんだ?』



『この訓練は、元々俺達みたいな駆け出し冒険者を育成する為に、ギルドが提供してるものだから訓練自体は無料だよ。ただ、食事や寝泊まりにはどうしても費用として掛かってしまうものがあるから、1日 1人 大銅貨1枚、1ヶ月だから銀貨3枚は払う事になってるんだ。

 これで朝と夜の2食と宿泊分が賄われるんだよ。』



(・・・1泊2食に鬼のシゴキ付き・・・どうせならキレイなお姉ちゃんが良かった・・・。

 ・・・ん?まさか・・・。)




『その食事って・・・。』




『はい!お待ちどうさま。6人分ね!』




 そう言って、ウエイトレスらしき女の子が持って来てくれたのは・・・




『・・・野菜と肉の塩スープだな・・・。』




 ・・・騒々しい店内でカイルの声が、やけに良く聞こえた・・・。




 ・・・ノォォォオーーー!・・・

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