第42話  ワンチャンイケんじゃね?

 夕飯を手早く済ませ、その日は早めに休んだ。


 部屋に帰る前にフロントに立ち寄り、この町で話に出てきた“鐘”についてテラサさんに確認しておく。


 ガブスさんから聞いていたと通り、やはり町で管理されている時計の魔導具を頼りに、決まった時間に鐘を鳴らしている様で、朝6時と昼の12時、夕方の6時の計3回行っているらしい。



 そして翌朝、夜明けと共に目が覚める。習慣とは恐ろしいもので、既に起床時間は大体これぐらいになっていた。

 地球にいた頃は休みの日など昼過ぎまで寝ていたのに・・・まあその分、夜が長かったわけだが・・・。



 朝飯は夜明けから少しと言っていたのでまだ早いだろうと思い、身支度だけ整え宿屋の裏にある井戸で顔を洗い、部屋に戻って時間を潰す。


 荷物の整理でもしておこうと出してみるが、そもそもそんなに無いので直ぐに終わってしまう。

 俺が持って来た荷物といえば、ガブスさんが用意してくれた肩掛けカバンに、着替えと下着が2着づつと外套が1着、堅パンと干し肉が少しと水袋が1つ、イエールさんから貰った弓と矢筒に入った矢が10本、最後に貰ったダラスさんの形見のナイフが1本だけだった。



 ガブスさんは色々持たせようとしてくれたが、物の溢れた“あちら”とは違い、必要最低限の暮らし振りに見えた俺からすれば、何でも“はいはい”貰うわけにはいかなかった。


 あとは財布代わりの小袋に銀貨と大小の銅貨が数枚づつあるばかりなのを確認したところで、ボチボチ頃合いになったので下の食堂へと向かった。



 出てきた料理は・・・もう何も言うまい・・・ただ、料理チートをする決意を固めた事だけは確かだった。

 食べ終わりに昨日も給仕をしてくれた宿屋の娘に聞いたところ、どこの宿でも同じとの事だったので、俺の決意をより固める結果となったのは言うまでも無い。



 さて、朝6時に鐘が鳴るのは分かっているが、肝心の“現在”が分らないので早々にチェックアウトし、ギルドへ向かう事にする。


 道すがら、昨日とは違い明るい中での町の雰囲気を感じつつ歩いて行く。

 昨日は開いていた酒場の様な店はまだ閉まったままで、代わりに露天商が開店準備を進めていたり、早いトコではもう商売を始めている店もあった。



 食材を棚に並べる店や、何かを焼いているのか煙と香ばしい匂いを出している店など、見ていて飽きなかった。



 そうこうしている内に、目的地のギルドへと到着したのに合わせて、朝の6時を報せる鐘の音が町へと響き渡った。



 早速、中へと入り昨日と同じくギルドのカウンターへと向かおうとすると、建物の中は右側だけ人で溢れていた。そのアンバランスな光景に驚いていると、みなカウンターに並んでいる訳では無く、右側の壁にある掲示板のようなところを一様に見て仲間らしき人たち同士で話している様だった。


 人混みを横目にカウンターに並ぶ列に入ったら割と直ぐに呼ばれ、昨日と同じく金髪ショートボブの可愛い娘と対面した。



『おはようございます。』



『あっ、昨日の!おはようございます。適性試験ですね?』



 挨拶をしたらこちらが何も言う前に分かってくれた。

 ・・・これ、もしかしたらワンチャンイケんじゃね?・・・。



『はい。』



『では、こちらに名前と年齢、あと適性に申請する部類と使用武器をお書き下さい。字が書けない様でしたらこちらで代筆致しますがどうされますか?』



『自分で書きます。』


 そう答え自分で書いていく。

 項目に挙げられた“適性に申請する部類”というのがミソで、俺であれば“採取”というのが当てはまる。

 当然、狩猟や魔物の討伐なども項目として存在しているが、要はこの申請して合格した内容のみ、ギルドから出された依頼を受けられる様になるというわけだ。


 じゃあ何故、狩猟も申請しなかったかというと、俺ではまだシカやイノシシ等は狩れないからである。


 その点、採取であればイエールさんに教えて貰った知識に鑑定のスキルもあるので、そん所そこらの冒険者より余程採れるのではないか?という腹積もりからだった。



 書き込みが終わり受付嬢へと返すと、すぐに目を通される。

 自分の書いた字をガブスさん以外に見られるのが初めてな事に気付き、地味に恥ずかしい。


 そわそわしながら待っていると、



『内容は確認出来ました。では受験料の銀貨1枚を頂きますが、もし試験が不合格の場合でもお返しする事は出来ませんが宜しかったですか?』



『はい、大丈夫です。』



 そう答えながらお金を出す。



『はい、確かに頂きました。では試験官が来るまであちらで少しお待ち下さい。』



 そう言われ俺は横へと移動させられ、受付嬢は奥へと俺の書いた書類を持って引っ込んでいった。

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