第41話 そして子持ちだったか・・・

部屋は2階との事で階段を上り、“201”と書かれたドアの前に立つ。


キーホルダーと見比べ、鍵を開けドアを開くと、中は暗く良く見えなかった。外で見た玄関灯の様な照明器具が下のフロントや階段の上がった所にもあったので、部屋の中にもあるのかと思い探してみると、ドアのすぐ横の壁にそれらしいものがあった。


(あったけど、問題はどうやって使うのか分からんって事だな・・・。)



とりあえず触ってみる。撫で回す。まさぐり、いじくり回し、もてあそんでみるが、うんともすんとも・・・


そっとドアを閉め、来た道を戻りフロントで女将のテラサにヘルプ。



『すみません。灯りの点け方が分らないんですけど・・・。』



『あ!灯りがご入り用でしたか?申し訳ありません、説明しておりませんでした。灯りとお湯は別料金となっておりまして、お声掛けを頂ければご用意させて頂きます。灯りの方は、お客様で魔石をご用意頂ければ、お金は結構で御座います。』



そう申し訳なさそうにテラサさんは説明してくれた。



『そうだったんですか。・・・わかりました、では今日は止めておきます。・・・因みにいくらになりますか?』



まだ仕事も決まっていないので今日の所は止めとくが、気になったので値段だけ確認しとく。



『灯りが大銅貨5枚と、お湯は大銅貨1枚になります。』



(魔石の値段が大銅貨5枚って事か・・・高いのか?んー市場調査が急務だな・・・。)



『分りました、ありがとうございます。このまま食事をしたいんですけど大丈夫ですか?』



『はい、大丈夫ですよ。朝は日の出から少し、夜は夕方の鐘が鳴れば準備が出来ておりますのでご自由にどうぞ。』



礼を告げ、隣の食堂へと向かう。


中に入るとそこは多くの客で賑わっていた。

宿泊客だけでなく一般客も入っている様だ。空いているカウンターに座り店員らしき女のコに声を掛ける。



『すみません、食事をしたいんですけど。』


部屋の鍵を見せながらいうと、


『はーい、宿泊のお客さんですね。少しお待ち下さい。』


そう返事をすると、そのまま奥に行ってしまった。


(あれ?注文取ってくれないの?)


疑問に思っていると、先程の女のコが手にお皿を持って戻って来た。


『お待たせしましたー。』


持って来たお皿を目の前に置かれ、ナニコレ状態の俺を見て女のコが聞いてきた。


『お客さん、ウチの宿に泊まるのは初めてですか?』


肯定の返事をすると『ああ、またお母さん忘れて・・・』と呟き、教えてくれた。


宿泊客の食事は決まっているらしく、鍵を見せるだけで料理が運ばれてくる様になっていたのを、どうやらこの娘の母、テラサさんが説明するのを忘れていたらしい。


『ごめんなさい。初めてのお客さんには説明する事になってたんですけど・・・。』


先程の一件といい、おっとり癒やし系はこちらの世界でも抜けているらしい。そして子持ちだったか・・・。それにしても、


『まだ小さいのにしっかりしてるんだね。』


『?お客さんとあんまり歳は変わらないと思いますけど・・・?』


うっかりオッサンの気持ちのまま言葉が出てしまった。「そ、そうだね。」と流しつつ笑って誤魔化しとく。


『?ご用があればまた呼んで下さい。』



少し不審がられながらも、女のコは仕事へと戻って行った。


気を取り直し、目の前に置かれた料理を見る。

野菜や肉が入ったスープとパンだった。・・・スゴい既視感を感じる。食べてみるまでまだ分からない、とスープに口をつけるが・・・はい、見た目通り塩味のスープでした。ありがとうございます。


やや塩味を強く感じるが基本的には同じ味付けで、まあパンが多少柔らかくなったのはありがたかったが、違いはその程度だった。


(サービスだからなのか・・・?あぁー、早く金を稼げようになって、もっと美味いもの食べたい・・・。)



切実にそう思うのであった。

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