第40話 それでもまた行っちゃうんだけどね

 ギルドの受付嬢に宿屋の情報を教えて貰えたので、名残惜しくも早速向かう事にする。



 建物の中でも感じていたが、外へ出ると空はだいぶ暗くなってきていた。


 急いで向かおうと思っていたら、建物の中からギルド職員が出て来て、入口付近の壁に向かい何やらやり始めた。するとその職員越しに明かりが見え始め辺りを照らしだした。


 火とは違う灯りの見え方が気になって、その職員に声を掛ける。



『すみません。それは火の灯りですか?』



『え?ああ、これは灯りの魔導具だよ。』



 突然声を掛けられ驚いた様子の男性職員は、相手が子供だと気づくと、色々と優しく教えてくれた。




 どうやらこの魔導具は割とポピュラーな物だった様で、この町では一般家庭にまで普及しているらしい。


(・・・あの村基準で文明レベルを判断するのは止めた方がよさそうだな・・・。)


 そんな事を思いながら説明を聞いていると、ふと今まで気にしていなかった所も気が付き、ついでに聞いてみる事にした。



『魔導具はどうやって動いているんですか?』



 すると、男性職員は少し困った顔をしながら教えてくれた。



『詳しい原理は私にも分からないんだけど、決められた動作を魔石の力によって動かしてるって聞いたね。』



 魔石の部分が気になり更に詳しく聞いていくと、どうやら魔物には漏れなくあるらしい。


 ・・・足兎を解体した際にそんなモノは見つけられなかったのでその事も聞いてみたら、足兎にも心臓の付近に魔石が有るには有るらしい。ただ小さすぎて意図して探さないと、まず見落としてしまうのだとか。


 それに魔石はその大きさに比例して魔素=エネルギーの含有量が増える傾向にあるらしく、足兎ほど小さい魔石だと使い道が無いので、わざわざ採取まではしないというのが実情の様だった。



 いろいろ教えてくれた男性職員に礼を言って、今度こそ宿屋へ向かう。



 しかし、村では夜に明かりなど何も無く、まさに「暗くなったら寝て、明るくなったら起きる」を体現していたので、これは嬉しい発見だった。


 まあ明るいとは言っても、日本の歌舞いちゃってる某繁華街ほどではないが・・・。

あそこは正におとなの遊園地だったな・・・いや、遊園地は表の顔か・・・中に入ればバイキングやお化け屋敷もあるわけで・・・楽しい気持ちのままお家に帰れたのは一体何割あっただろう・・・それでもまた行っちゃうんだけどね・・・。


 戻って、


 そこまで明るいわけではなく、普通の家の玄関にある物と同じくらいで、せいぜい半径2~3m程度照らすだけの簡素なものだった。



 そんな事を考えつつ歩いていると、どうやら目的地へ着いた様だった。



 受付嬢に教えて貰った通り、看板にベッドの絵が彫られた木造2階建ての建物があった。

 聞いていた通りの場所にあったので、間違いないとは思うが一応確認しておく。



『いらっしゃいませ!』



『すみません、こちらは “パーチ” という宿屋でしょうか?』



 中へと入ると受付が直ぐにあり、そこにいた店員らしき女性が居たので早速聞いてみた。



『はいそうですよ。初めての方ですか?』



『はい、冒険者ギルドで紹介してもらって来ました。』



『ああ!冒険者さん・・・ですか?』



 語尾になるに連れ疑問系になっていった。

 おっとりした癒し系のキレイな年上女性に、上から下まで嘗め回すように見られてしまった・・・イヤンッ・・・。



『いえ、明日試験を受けて合格すれば・・・ですね。』



『ああ、なるほど。ではお泊りですか?』



『はい、部屋は空いてますか?』



『ええ、大丈夫ですよ。』



 とりあえず野宿は回避できそうだ。



『一泊いくらになりますか?』



『朝と夜の2食付で銀貨2枚になります。』



(今日は何とかなりそうだけど、早めに仕事見つけないとヤバイな・・・。)



『わかりました、じゃあ一泊お願いします。』


 そう言ってお金を払う。



『ありがとうございます。私はここの女将のテラサと申します。宜しくお願い致します。』



『俺はマサルと言います。宜しくお願いします。』



『マサル様ですね。夕飯はここの隣の部屋が食堂になっておりますので、こちらのお部屋の鍵を見せて頂ければ、そのままお食べ頂けます。』



 そう言って渡された鍵は、金属の丸棒を折り曲げ、回し手の部分と差し込む部分が一本物で形成された作りで差し込み部分に歯が数個付いた、アニメで見る様なデフォルメされた「ザ・鍵」と、部屋番号が彫られた四角い木の棒のキーホルダーだった。


 ・・・なんか昔のホテルの鍵に付いていた四角いプラスチック棒のキーホルダーを思い出してしまった。・・・なんであんなにデカかったんだろ・・・。




 そんな下らない事を思いつつ、キレイな癒やし系女将に癒され、キーホルダーの部分を握り、鍵をブンブン回しながらご機嫌に部屋へと向かうのだった。

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