第38話 つい癖で言ってしまった

 建物の中は以外に広く、右側には銀行や市役所の様に職員らしき人が並んで座るカウンターと、その奥の壁の向こうにも事務処理する別の職員が見える。


 反対の左側手前には複合施設にある様な、机と椅子のセットが複数置かれた飲食スペースと、その奥にバーカウンターがあった。裏の壁には間口あり人の姿が見えるが、こちらは飲食スペース向けの厨房になっている様だ。


 その2つの施設を真ん中の階段で分けているようで、上にも人影がちらほら見える。


 夕方の為か、飲食スペースは人で埋まって満員御礼の様で、そこかしこでしゃべり声や笑い声が飛び交い酒場の様相を呈していた。こちらの酒やお店で出される食事に興味を惹かれつつも、まずは用件を済ませねばと右側へ歩いて行く。


 こちらも向こう程では無いがそれなりに人がいた。皆、手にズタ袋や、なかには裸で魔物であろうモノの一部を持っているので、冒険者のクエスト報告的なものと予想される。


 ギルド職員のカウンターに並ぶように列を成してしるので、自分もそれに倣って最後尾につく。



 こういうところでお決まりの先輩冒険者からイチャモンの云々や騒動の巻き込まれなど、色々起きそうだと身構えていたが、実にすんなり淡々と列は解消され自分の番になってしまった。・・・実際、絡まれても迷惑な話だがテンプレよー・・・。



『次の方。』



 そう呼ばれたので、職員の待つカウンターへと向かう。



『・・・えっと、どういったご用件でしょうか?』



 そう、戸惑いながらも応対してくれたのは、20代くらいの可愛らしい女性だった。


 金髪のショートボブに大きな瞳は青く、西洋人らしく鼻筋の通ったお人形さんの様な外見で、そのレベルの高さに思わず見惚れてしまった。



『あの・・・ご用件を・・・。』



『ああ、すみません。つい見惚れてしまって・・・あ・・・。』



 ボーっとしてた為、つい癖で言ってしまった。


 どうも、30も中盤を過ぎた辺りからこういった事を恥ずかし気も無く言える様になってきてしまった。昔、上司に飲みに連れて行って貰った時に、居酒屋のおねーちゃんにこんな風に絡んでいた上司を見た時は、一緒にいて恥ずかしかった思いをした筈なのに、今は自分がやる側になってしまっていた・・・。



『えっ!?お、大人をからかうもんじゃありません!』



 顔を赤くし、怒る姿にそれでも可愛さを感じてしまう・・・。



『す、すみません!からかうつもりはありません!そうだ、ぼ、冒険者登録をしたいんですが!』



 あまりにウブな反応にこちらまで恥ずかしくなってしまい、ドモッてしまった。

 危うく目的を見失いそうだったが、なんとか踏みとどまった自分を褒めてあげたい。



『ぼ、冒険者登録って・・・あなたがですか?』



『はい。』



『失礼ですが、おいくつですか?』



『10歳です。』



『・・・確かに冒険者登録に年齢制限はありませんが、力量や適性の無い者にまで登録出来るほど、誰でもいい訳ではありません。』




 先程までの赤い顔は消え、今は真剣に職務を全うしようとする姿に、中身はオッサンの俺でもキュンキュンしてしまう。

だがこれは既に“聞いていた話”だったので問題ない。




『はい、それは知っています。ですので“適性試験”を受けさせて下さい。』




 こうして俺は冒険者になる為、



「 美人受付嬢とコンタクト ~荒ぐ声と赤面に揺らぐ女~ 」



 に見事成功するのであった。

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