第28話 オゥ、ジーザス・・・

 文字の勉強から数日、今日はイエールさんと森へ狩りに来ていた。


 イエールさんも毎日狩りに行く訳では無く、畑の作業もこなしていた。メインは狩りの様だが、人手の要るタイミングでは畑も手伝っているのだ。


 因みにイエールさんが畑の日は、もれなく俺も狩りは休みとなっていた。流石に一人で森へ入るのはまだダメらしい。まあ自衛も儘ならないのではそうだろう。


 しかし気になるのは狩りで獲れる獲物がウサギや足兎ばかりで他を見た事がないことだ。この森には他に生き物がいないのだろうか?イエールさんに聞いてみる。


『イエールさん。この森にはウサギや足兎しか居ないんですか?』


『いや、動物だとシカやイノシシ、魔物だと稀に牙猪や狂鹿なんかが居るな。』



(ウサギに兎、イノシシに猪、シカに鹿・・・。動物と魔物に因果関係でもあるのだろうか?

 ・・・っていうか、)



『ウサギ以外にも居るんですか?』


『ああ。昨日もイノシシを獲ったぞ?』


『えっ!?昨日も狩りに行ったんですか?

 俺は行ってないですよね?』


『そりゃ誘ってねーからな。』



(・・・オゥ、ジーザス・・・。

 なんだこの気持ちの揺さ振られは・・・

 これもう完全に片思いのヤキモチみたいじゃない・・・

 同性相手にここまでするなんて!イケメン恐ろしい子!)



 戻って、


『どうして誘ってくれなかったんですか?』


『ウサギ以外のヤツらは基本、弓では狩らないんだよ。罠を使って捕獲して止めを刺すって感じで、“探して狩る”ってやり方じゃ無いから誘わなかったんだ。』


『そうなんですか。でもなんで弓で狩らないんですか?』


『弓じゃ仕留めきれないからな。矢1本で止められなきゃ2射目にはもう逃げてるんだよ。』


『イエールさんでも1発で仕留められないんですか!?』


『俺を何だと思ってんだよ。確かに“頭” で良ければ当てる自信はあるが、頭でも限られた一部に当たらなきゃ動きを止める事は出来ないんだ。』


『そうだったんですか・・・。』


『ほっとくと森から出て畑まで被害に遭うからな。罠で定期的に間引いてるんだ。』



(それで他の生き物に遭遇しなかったのか・・・。)



 疑問も晴れて納得していると、



『まあそれが通じるのも“動物”までだな。“魔物”だったらそもそも罠に掛からないから。』


 軽く笑いながらそう続けていた。


『罠を回避する位、知恵が回るって事ですか?』


『いや、単純に“力”が違うんだよ。木や縄で動きを止めとくには限界があるからな。』


(あー、罠って鉄檻とかじゃないのか。地球のイメージで鉄製品だと勝手に思い込んでたけど、入手もそんなに簡単じゃないか・・・。ん?じゃあ、)


『魔物にはなんで遭遇しないんですかね?』


『餌となる“獲物”を間引いてるからな。』


『・・・そういう事ですか。』


(つまり、害獣駆除が畑を守り、食卓を豊かにし、素材も獲れて、魔物被害も解消すると・・・一石何鳥よ。)


『それでも絶対じゃないがな。稀に残っちまうヤツもいるからその時は冒険者ギルドへ討伐依頼を出すんだ。』


(おぉー!キターッ!冒険者、ギルド、討伐依頼あるのかー!もっと詳しくプリーズ!)


『ぼっ、冒険者ギルドとは?』


『?何か目ぇコエーよ・・・。冒険者ギルドはそのまま冒険者を取り纏める組織だな。仕事を頼みたいヤツは先ずギルドに依頼をして、ギルドから所属する冒険者へその仕事を回す。

 受けるかどうかは冒険者次第だが、ギルド自体は色んな仕事を受け付けてくれるよ。

 まあこの村じゃ魔物討伐となると俺らじゃどうにもならないし、専門にやってるヤツの方が安全で確実だからそういう組織に依頼するんだ。』



(おおっ!それそれ!それこそまさに冒険者!)



 自身が見聞きした物語の仕事に、少し・・・いや大分テンションが上がってしまい若干イエールさんに引かれてしまった。でも俺は引かない!



『冒険者には魔物討伐を依頼する事が多いんですか?』


『ウチの村は、って事だよ。依頼するにはそれなりに金も掛かるしな。ギルドがある町や大きい街なんかはもっと色々あるさ。それこそ町の中でする手伝い仕事やちょっとした採取や採掘、町から町への移動の護衛とかな。』



(よし!魔物との戦闘特化型の世界の方だったらどうしようかと思ったが、これなら俺でも冒険者になれるんじゃない?)




 村での生活に特に不満はないがこの先ずっとこのまま・・・とは流石に虫が良すぎると思う。自身で生きる糧を得る為に、出来る事の選択肢は多ければ多い方が良いはずだから・・・ってのはウソです。いや、ウソは言いすぎたゴメンナサイ。ホントは2割くらいです。8割メッチャ興味あります。だってこの世界も、人も、町も、魔法だって、このスキルの事だって、まだ何一つ満足いく程、触れてすらいないのだから・・・。




 ・・・ただ、自分を拾ってくれて、目を掛け狩りの“いろは”を教えてくれたイエールさんや、住む家と暖かい食事を与えてくれて、自身の亡くなった息子と俺を重ねるガブスさん。

 この恩人を切り捨ててまで行くのはどうなのだろう・・・。




 空想の世界を自由に旅をし、色々な物や人に触れ合いながら時に泣き、時に笑い人生を謳歌する・・・そんな夢物語にハマったのは、自身のリアルが醜くも残酷なまでに“現実”だった所為かもしれない・・・。




 自身の親にも、ましてやイエールさんやガブスさんにも思うところがある訳ではない。どちらにも感謝や恩が返しきれない程あるのだから・・・。




 ただ俺は“世界”が変わっても“俺の世界”が変わらない事に少し悲しくなっただけだ・・・。




 そう、生きることが、




『・・・拙いなぁ・・・。』





『ん?何か言ったか?』



『いえっ!なんでもありません。』



『そうか?じゃあ進むか!』



『はい。』



 ・・・そうして俺は暗い水の中を進む様な感覚を、この世界でも感じるのであった。

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