第25話 えも言われぬ魅力があるのです

 買取も無事終わり、折角村外の人間と話しが出来るのだからと色々聞いてみる事にする。



『モーラさんは行商というと色々な所へ行かれた事があるんですか?』


『そうですね、今はこのキャベルと私が住んでいるエレナという町を中継して領都のネザーウッドを行き来しているだけですが、若い頃はいろいろ王国内を回って行商の旅をしていましたよ。』


(ここは確か王国の東にあるノリッジ辺境伯領の村だったっけ?領都はネザーウッドっていうのか・・・。それにモーラさんが住んでいる町は位置的にはこの村と領都の間ぐらいのイメージって事かな・・・。)


 漠然としてはいるが地理的なものが少しづつ見えてきた気がする。



『この村からエレナとネザーウッドまでは遠いんですか?』


『そこまでではないですよ。この村からエレナまでは馬車で大体1日ぐらいですし、ネザーウッドもエレナからなら同じくらいですから。』


(成る程、馬車の時速は分らんが頑張れば徒歩で行けなくもないか?・・・というか移動手段はやはり馬車がベターなのか・・・。)

 そんな事を考察しているとモーラさんが、


『他の町や領都が気になりますか?』


『いえ、まあ。他を知らないので・・・。』


 ちょっとガツガツし過ぎたかと思い、話題を変える。


『そうだ!折角皮の買い取りでお金もあるので、何か必要なものがあれば買いたいんですが・・・。』


 と言ってガブスさんに視線を向けると、


『それはマサルが稼いだお金だから自分の為に使えばいいよ。』


 と言われてしまい、どうしたものかと迷っているとモーラさんが、


『いつも買って頂ける品は大体決まっているので今は目新しいのはありませんが、欲しいものがあれば言って頂ければ次に来る時には仕入れて来る事も出来ますよ。』


 さすがに行商で売れるか分からないものを仕入れはしないかと納得し、とりあえず今ある商品を確認する為にモーラさんにお声掛けしとく。


『今ある商品を見せて頂いても良いですか?』


『ええ、どうぞご覧下さい。と、言っても馬車から降ろしてない分もありますので、ここにはそれ程ありませんが・・・。』


『全部並べるわけではないんですか?』


『はい。今晩ここに泊ったら明日の朝にはまた出発してしまうので手間を減らすために、手に取って確認が必要なものや軽いもの以外は降ろしてないんです。』



(どうりで品数が少ない訳だ。じゃあ・・・。)



『そうなんですね。』と返しつつとりあえず陳列された方の商品を確認する。



 斧や鉈、ナイフや鍋といった金属製の道具類が数種あるだけの様だ。鉄製品と思われるそれらは村で入手するには困難なのだろう。やはり品数は多くはなかったがナイフには一瞬惹かれた。やっぱり男の子ですから、えも言われぬ魅力があるのです。


 ただあまり詳しくは無いがやはり地球で見た事があるものより数段質が劣るように見えてしまい、結局自分の琴線に触れるものも無かったので直ぐに一通り見終えてしまった。

 するとモーラさんもそれに気づいたのか、


『馬車の方も見てみますか?』

 と言ってくれたのでお言葉に甘えて見させてもらう。


 店先に止めてある、馬の外された幌付きの馬車がそれのようで、モーラさんに案内される


『こちらもそんなに種類がある訳ではありませんがどうぞ。』


 そう言って箱や瓶の中を見せてくれる。

 やはりメインの取引は塩のようで他にはドライフルーツや乾燥ナッツなど、こちらは食品系が載せてあるようだった。


(やっぱり食材の保存方法は冷蔵技術が無ければ世界が変わろうと変わらないものか・・・。)


 と、現代地球に慣れきった人間からすれば物足りなさを感じてしまう食糧事情に落胆の影を落としていると、


『何かお探しのものでもありましたか?』


 と、モーラさんが聞いて来る。さすが商人、機微に聡い。とりあえず聞くだけ聞いてみようと、


『えっと・・・香辛料ってあったりしますかね?』


 俺の言葉に少し驚きの顔を見せつつも、


『香辛料というと・・・』


 おずおず、といった感じで聞き返してくるので、


『胡椒とか、そういうのって有ったりしませか?』


 と、聞いてみる。もうこの感じは無い可能性が高そうで、若干気持ちも折れつつ一縷の望みに掛けてズバリお問い合わせ。すると、


『申し訳ありません。残念ながら私は取引をさせて頂いておりませんのでご希望に沿う事は叶わないかも知れません。』


 と、申し訳なさそうにお詫びをされてしまった。とりあえず聞いてみただけなのに、ここまで恐縮されてしまうとこちらとしても居心地が悪い。


 それこそ服屋でテキトーに見てただけなのに試着までさせられて『やっぱり要りません』なんて言い出せないくらいには悪い。・・・そっとしといてよ・・・。


『いえ、無いのであれば構いません。』


 なるべくソフトに(全然気にしてないよー)風に返しておく。


 とりあえず得られた情報から、取引が無いとはそもそも香辛料自体存在しないのか、はたまた仕入れ先を持ってないのかどっちの意味だろうと悩んでいると、



『失礼ですが、マサル・・・様は貴族家の方でいらっしゃいますか?』



 いきなり斜め上のお問い合わせを頂くのであった。

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