第24話 いやむしろやましい事しかないか・・・

 最初に見た時よりだいぶ人も減った建物に戻って来た。

 普段は閉じたままの戸で中を見るのは初めてだったが、そもそも家では無く店舗の造りになっていた。広く取った土間の1フロアに、たぶん奥に部屋があると思われる戸の仕切り。店舗スペースと思われるメインの土間には商品を置くためであろう棚や台が並べられているが、肝心の商品はあまり見受けられなかった。

 他の村人との話しが終わったところでガブスさんがその商人らしき人へと話し掛ける。


『モーラ、少しいいかい?』


『はい、何でしょう?』


『この子がさっき話してたマサルだ。』


『ああ、この子ですか!初めまして行商をしているモーラといいます。』


『初めましてマサルです。』


『マサルが皮を売りたいのだが良いかい?』


『ええ、大丈夫ですよ。見せて頂いても宜しいですか?』



 俺は持ってきた皮を渡した。

 モーラといったこの行商人、見た目は20代後半~30代前半ぐらいだろうか?西洋人の見た目は分かり辛いが落ち着きや雰囲気を見た感じ、

 一通り“こなせる”一人前感はそれぐらいだと思われる。

 それにしても、さっき話してたとはいったい何を話していたのだろう。

 そんなやましい事は・・・いやむしろやましい事しかないか・・・。


 そんな痛みしかない腹を探られているかも知れないと考えたら、本当に胃が痛くなってきた頃に皮の検分が終わったのかモーラさんが、



『このウサギの皮は素晴らしい!傷も全く無いし、数も揃ってる。それにこっちは足兎か!』



 興奮した様子で皮の状態を褒めていた。どうやら思ったより状態が良かったらしい。

 それはそうだ、これらは全てあのイケメンが仕留めたものなのだから。どれも頭に一発で決めているので他が一切傷んでいないのだ。


『失礼!これは君が全部仕留めたのかい?』


『いえ、これは全部イエールさんが仕留めたもので、俺は狩りの手伝いをしていただけで・・・。』


『ああ、そうでしたか。確かにイエールさんならば納得です。』


(さすがイエールさん!村人以外にもその腕を認知されているとは・・・。)


 モーラさんも合点がいったのか、先程の興奮も少し落ち着いた様子。

 それに自分の事でもないのに何故か嬉しくなってしまうのは、ガブスさんの気持ちが少し分かった気がした。


『これでしたら・・・ウサギは1枚で大銅貨5枚。足兎は1枚で銀貨1枚でどうでしょうか?』



(おお!お金になるのか。あるのは聞いていたが、見る機会も使う機会の無かったからイマイチ価値は分らないが・・・。)


 そう思ってガブスさんを見ると無言で頷いていたので、


『はい、それでお願いします。』


 と答えた。ガブスさんは村長だし、幾らなんでもその人の前で無茶もするまいと思い素直にお返事しとく。


『ではこれを。』


 そういって渡されたのは銀色の硬貨とそれより一回り大きい、くすんだ茶色の大きめの硬貨が数枚づつ。

 名前からしてだいたいの想像はつくが一応ガブスさんを見ると笑顔でこちらを見ていたので提示された価格と間違いないのだろう。


『ありがとうございます。』

 とお礼をいうと、


『こちらこそありがとうございます。また手に入った際は是非お売り下さい。』

 と、相手がこんな子供にも関わらず丁寧に応対してくれた。

 異世界に於いても客商売はやはり印象商売なのかと感心してしまった。



 そんな風に感心していると、モーラさんは何か束を取出し、台に置いて墨と羽根ペンでそれに何かを書き出した。



『すみません。帳簿を控えておかないと後で困ってしまうので・・・。』


 と謝りながら字を書いていく。

 目の前で書かれているので見えているのだが、何を書いているのか全く分からなかった。



(言葉が通じるからもしかしたらイケるかと思ったが、読書きは出来ないみたいだな・・・。)



 淡い期待が打ち砕かれ少し消沈してしまう。さすがに読書きくらいは出来ないとこの先苦労しそうな気がするが、この村では使っているところを見た事がないし、そもそも識字率も低いのかもしれない。覚えるにも誰かに教われればいいが・・・


『なんだマサル、文字に興味があるのか?』

 とガブスさんが声を掛けてきた。


『はい。でも何を書いているのかサッパリ分らなくて・・・。』


『もし覚えたいのであれば私が教えても構わんが・・・。』


『本当ですか!?是非お願いします!』




 思わぬ申し出につい興奮してしまい喰い気味でお願いしてしまった。



 ガブスさんが若干引いている気がした。




 ・・・いろいろ言いたい事はあるが、

 アンタにだけは引かれたくない!

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