第21話 どうやらパッキンが壊れた様です

 狩りは探査のスキルを手に入れてから劇的に楽になった。まあどちらも俺一人では活用しきれていないのだが・・・。

“探査”は採取素材だけでなく狩猟の獲物も対象の様で、見つけるのがとても簡単になったが弓がまだ使えない俺はイエールさんに仕留めをお願いしなければならず、採取も発見は容易くなったが種類を全て覚えきれている訳ではないので、採取の仕方に戸惑ってしまうのだ。


 葉だけ採るもの、根から採るもの、触るとカブれてしまうものや、一緒に保管してはならない組み合わせ等々・・・そもそも採取してもそれが“何”なのか分からなければ使う事も出来ない訳で・・・絶賛イエールさんから狩人としてのノウハウをご指導ご鞭撻賜っている最中であります、はい。



『獲物も山菜や薬草も見つけるのは早くなったが、それ以外が追い付いてなくて何かアベコベだな?』


 とはイエールさんの言である。


 完全にスキル頼りな所に若干の後ろめたさを感じてはいるが、あるものは活用していかなければいつまでも人に頼ってばかりはいられないのだ。・・・人に頼り切った活用の仕方をしていてなんだが・・・。


 まあ最近ではイエールさんから貰ったお下がりの弓を練習してはいるのだがまだ実戦投入には至っていない。

 そして今日はガブスさんのお手伝いをしていると。



『じゃあこの瓶をあの荷車で畑まで運んでくれるか?』


『はい、わかりました。』



 思い出のあの小屋にあった瓶。下水処理施設の無いこの村で排泄物をどう処理しているのかといえば、やはりというか畑の堆肥としていた様で、今はガブスさんにその瓶の運搬を任されたところ。

 定期的に運ぶためそこまで大きい訳では無いが“中身”が詰まった状態では流石に重い。移動自体は片側に傾けて回せば進めるが、荷車への積み下ろしだけは持ち上げなければならない為なかなかハードである。水洗の有難みが良く分るというものだ。


 畑の近くにある肥溜めへと瓶の中を空けながら、もうね、エゲつない臭気に鼻を通り越して目に染みちゃって目と鼻から汁がダダ漏れ状態。どうやらパッキンが壊れた様です。・・・しかし、この世界には寄生虫というものは存在しないのだろうか?少し心配になる・・・。


 空になった瓶を荷車へと載せ直し、ふと自分の体を見直す。畑仕事や家の雑事、狩りでは森を駆け、弓の練習などもする様になり体を使う機会が多かった。今も天然のバンプアップのお陰で少し盛れている様に見える。別に筋肉を付ける為に頑張っていた訳では無いが目で見える変化は自分が頑張った証しの様で少し嬉しいものだ。

 そんな事を考えていると、



『スキル:腕力強化を取得しました』



 またも“声”が聞こえてきた。



(うぉ!?完全に油断しとったわー。)



 何度目かになるも未だ突然の“声”には慣れず驚いてしまう。それより又も聞こえた“声”に、


(今度は腕力強化か・・・。その名の通りなら・・・)


 そう思うと今し方、荷車へ載せた瓶を見る。中は空とは言え近くに手頃なものは無い為これを持ち上げてみる。すると、


(軽っ!?さっきと比べて段違いだ!)


 空とはいえソコソコの重さを感じた先程とは打って変わって、片手で振り回せる程の軽さになった事に感動すらしてしまう。まるでキャッチボールでもするかの様に簡単に取り回せるのだ。試しに軽く真上にちょっとだけ投げてみる。キャッチをしても特別に重さが増える事も無く軽く感じたまま。もうちょっと、もうちょっと・・・これがいけなかった。

 調子に乗りどんどん高く投げていたら・・・。いや、気をつけてはいたのだ!真上に、真上に“向き”に気をつけて。ただ落ちて来る時に空気の抵抗か向きが変わり“口”が下に・・・。


 もう究極の選択ですよ。向きが変わってもキャッチは出来る。だが空にしたとはいえキレイに洗ったわけでは無いその瓶の中には未だ付着したままの“あれ”が残っており、キャッチにより急に止められた運動エネルギーは果たして受け止められる“壁”が無ければどうなるのか・・・。かといって避ければ落ちて割れてしまうのは明らかなわけで・・・。ここまで1秒にも満たない中で出した結論は、全身を使い衝撃を吸収しながらキャッチする、という考え得る中で現実的、且つ最善の結果を得られそうなもの・・・っていうかこれしか思いつかんかっただけだがこれに賭けた。



(うぉぉぉ!やるしかねぇ!割るのは一番の下策!とりあえずキャッチ!そしてクッションのイメージだ!)



 持て得る限りの“力”を総動員しようと無駄に“目”と“耳”の力も使う。集中力が増し瓶が落ちる風切り音や細かなキズなど事細かな情報が流れ込んで来る。まるでスローモーションのように落ちる速度が遅くなった瓶に驚きながら、手に届く位置まで来るのを見て爪先立ちだった足首、ひざ、腰、そしてキャッチの為に抱え込む様にした腕や上半身を使い、文字通り全身をクッションの様にして瓶の落下衝撃をイナス動きをする。




 瓶は見事キャッチ出来た。スローモーションの中、安堵しながらやっぱりイナシきれない汚物にゆっくり蹂躙されながら




『スキル:脚力強化を取得しました』




『もう少し早く欲しかった・・・。』




“声”は空しく響くのだった。

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