第18話 メッチャそれなんですケド!?

 料理チートをかましてから数日、ガブスさんと畑で農作業したりイエールさんと森に行って狩りの仕方を教わったりして過ごしていた。

 そして今日も、


『おはようございます。マサルはいますか?』


 イエールさんが狩りのお迎えに来ていた。


『おはようございます。今日も宜しくお願いします。』


『おはよう、イエール。今日もマサルを頼んだよ。』



 ・・・自分の適応能力に感心してしまう。まあ新しい事に取り組むのは割と楽しかったのだ。そして今日も森へ行くと。




 森へ着くとイエールさんが、


『今日はマサルに獲物を探してもらう。』


 と宣言されてしまった。ここ数日、狩りの時はイエールさんから色々な事を教わっていた。

 足跡や排泄物の見つけ方から、どういった獲物であるか判断し、その数や進行方向の読み取り等々である。


 そんな直ぐに出来るとは思っていないとは思うが、少し緊張しながら了承の意を示し森の中を進む。教えて貰った事を思い返しながら生き物の痕跡を探していると糞をみつけた。


『イエールさん、これは!』


『ああ。足兎のだろうな。どれくらい経っているか分るか?』


『そうですね・・・。まだ乾いていないですし、今朝方くらいですか?』


『正解だ。中々飲み込みが早いな。』


 などと褒められ少し嬉しくなりながら周辺を探してみる事にした。


『まあ、足兎は普通のウサギと違って行動範囲が広いから、もういないかもしれないけどな。』


 とイエールさんに言われたので少し遠くの方まで意識して探してみる。すると遠くの方に何かが動くモノが見えた。


『イエールさん、あそこの木の影に何かいませんか?』


『ん?どこの木だ?』


『ほら、あの少し曲がった木の根元です。』


『え?曲がった木なんて無いぞ?・・・もしかしてその曲がった木って真ん中に洞があるヤツか?』


『そうです。根元に何かいませんか?』


『マサル・・・お前もしかして“目”の福音を聞いたんじゃないか?』


『え?・・・“目”の福音ってなんですか?』


『その名の通り、目が良くなる福音だよ。お前の言った木はここからまだ大分先にある木の筈だ。俺にはまだ見えないぐらいな。』



(・・・そういえば最初にこの森で川を見つけた時も、とても見える位置じゃなかった筈なのに光の反射に気がついたんだっけ・・・じゃあもしかして・・・)


 そう思うと今度は聞く事に集中してみた。すると、いろいろな音が聞こえる様になり、ここからでは聞こえる筈のない川の音まで聞こえてきた。


(!?聞こえた!?これはもしかして、あの白い世界で聞いたのはやっぱり“福音”って事か!?)


 急に繋がり出した点と点に少し興奮しつつも、イエールさんに聞いてみる。


『“目”の福音は珍しくは無いんですか?』


『そうだな・・・聞いた話しだと大きい町の見張り台で働く兵士とか狩人でもたまにいるみたいだな。俺の親父もそうだったよ。』


『イエールさんのお父さんもですか?』


『ああ。もう死んじまったが、昔一緒に狩りに行った時なんかはその“目”の凄さをよく見せてもらったよ。今のマサルみたいに、俺じゃ見つける事も出来ない遠くの獲物を素早く見つけたりな!』


 どこか懐かしむ様に話すイエールさんを見て、


(イエールさんのお父さんはもう亡くなっていたのか・・・。“目”についてもう少し聞きたいけどあんまり深く突っ込むのも、な・・・。)


 と思い、『そうなんですか・・・』と返すに留めて、もう一つの方も聞いてみる事にした。


『“目”の福音があるってことは“耳”もあったりするんですかね?』


『ああ、“耳”の福音の話しも聞いた事はあるな。どういったヤツがその福音を聞いたのかは知らないが、もし“目”と“耳”の両方とも福音を聞いたヤツがいるなら、きっと良い狩人になれるのにな!』


 と、冗談でも言う様にイエールさんは笑っていた。



(メッチャそれなんですケド!?・・・ウソ、まさか・・・)


 イヤな予感がしたので聞いてみた。


『福音って2つ以上聞くことってあるんですかね?』


『ん?少なくとも俺はそんな話し聞いた事ないな。』



(でたー。やっぱそうかー。これバレたら絶対面倒いパティーンのヤツやん!・・・ひと先ずこの事は黙っておくしかないか・・・。)



 そう結論付けると、相談したいが出来ないもどかしさを感じながらも、今まで想像や妄想の類いでしかなかった特別な力に少なからず心が躍るのを感じてしまうのであった。

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