第16話 反省はしている、だが後悔はしていない

 ガブスさんはイエールさんとウサギを解体する事になり、夕飯の支度は俺一人となった。手伝いが欲しかった訳ではないが、一人で作るとなるといろいろ先に確認しておかねばなるまい。ひと様のお勝手を勝手に(ダジャレジャナイヨ)使う訳にはいかないのだ。


『ガブスさん、食材や調味料は・・・』


『ああ。地下蔵に入っているものなら好きに使って構わないよ。香草も必要なら裏庭で育てているのがあるから一度見てみるといい、あと昨日の足兎の肉もまだ残っているが・・・。』


 喰い気味に被せて応えたガブスさんはどこかテンション高めだが、足兎の辺りで減速しだした。


 昨夜は足兎の解体で気分が悪くなり、晩飯どころでは無かったし、それでガブスさんも気を使ってか今朝も具は野菜だけのスープを作ってくれていたので、実はまだ食べていないのだ。なので正直に、



『どんな味なのか楽しみですね!』


 と答えたら、ガブスさんも嬉しそうな笑顔になった。



 するとイエールさんが、


『それならこのウサギも料理してくれ。美味く頼むぞ?』

 イエールさんも少しテンションが高い。


(・・・そうか昨日は結局おれがダウンした所為で、折角差し入れてくれたのに食べてないから・・・それは悪いことをした・・・じゃあ、)


『分りました。腕によりをかけて作ります。』



『期待してるぞ!後で切り分けたらコイツも持って行くからな!』


 ウサギを見せながらそう言うと、イエールさんは嬉々として作業台へと向かって行った。



(さて、何を作ろうかな?)


 家へと入り何を作ろうかと考えながら、まずは材料の確認をするため地下蔵を見る事にした。地下蔵は家の中の土間を掘って作ってあり、基本は畑で収穫したものをそのまま使う為か余り大きくはなかった。ガブスさんが食事を作っているところを見ていたが、食材も調味料も大体地球のものと同じそう・・・まあ圧倒的に種類は少ないのだが、それでも数種の根菜に乾燥ナッツ、小麦粉と塩に果実酢はあったが香辛料の類は見られなかった。存在しないのか高級品だから無いのかは分からないが、このままでは塩味と酢だけの食に絶望の未来しか見えないので切に有って欲しいと願うばかりだ。


 一通り地下蔵の確認は終わり、次に裏庭の香草を見に行く事にした。裏庭に行くと、きれいに整備された一区画があり直ぐに分かった。


(香草はあんまり知らないんだけどなー)


 そんな事を考えながら何が植えられているのかとりあえず流し見していると、


(あれ?これ何か見た事ある様な・・・これなら・・・。)


 何となく見た事がある香草を見つけたので料理に使うため数枝だけ採取し、早速調理に取りかかる。



 竈の中の灰をかき分け種火の着いた炭を取り出し、小枝と木くずで火を起こす。


 こんなとき魔法が使えたらと思うが使えないものはしょうがない、今後の自分に期待しよう。


 ・・・この世界に魔法があると聞いた晩、秘かにいろいろ試してみたがまるでダメだった。


 それこそ手をかざし思いつく限りの魔法名を叫んだが、ダメージを負ったのは厨二に悶絶したオレの心だけだったのだ。・・・



 気を取り直し鍋に水を溜め、足兎の骨と地下蔵にあった野菜・・・芋と人参、玉ねぎの皮を剥き、その剥いた皮を鍋に入れ火にかけ煮込み灰汁を丁寧に取りつつ出汁を取る。次に足兎の肉を取り出すが思った通り発達した後ろ足は堅そうだった為、叩いて繊維を壊しておく。本当はバターや牛乳が良かったが無かった為、乾燥ナッツをすり潰し水を足して別の鍋で煮てアーモンドミルクもどきを作る。これに足兎からとれた脂と小麦粉を少しづつ混ぜホワイトソースもどきを作る。出汁とホワイトソースを合わせ、切ってあった野菜と足兎の肉を入れて煮込む。塩を入れ味を整えたら、足兎のホワイトシチューの完成だ。

 とりあえず味見をして・・・


(うーん。やっぱ臭みは多少残るし、コクや旨味もちょっと物足りないけど味自体これはこれで悪くないと思うし、まあこんなもんかな。)


 とりあえず自分判定で及第点は採れたので、後はこの世界の人の口に合うかだが・・・如何せんこの世界で食べた料理はガブスさんの手料理だけなので少し不安。しかも薄い塩味の野菜スープとたまに堅いパンのヘビーローテーション。・・・もう正直ゲンナリです。なので得意では無いが、長年の一人暮らしで多少は心得もあるので試した次第。



 そうこうしていると、イエールさんがやって来た。


『マサル、ウサギの肉切り分けて来たぞ!』



『ありがとうございます。直ぐ調理するので待ってて下さい。』


 そう声をかけウサギの肉を受け取る。色々考えたがやはり採っておいた香草を使って焼く事にした。肉を叩き柔らかくして、塩を振る。熱した鍋にウサギの脂を入れ、溶けたら肉と香草を一緒に焼く。裏返し両面焼けたら、ウサギ肉のステーキの完成だ。



 出来上がった料理を器へ盛り、机へ並べる。



『片方は見た事無い料理だな・・・。』



『ああ。私もこんな料理は見た事がない・・・。』



 イエールさんとガブスさんは初めて見るホワイトシチューに少し戸惑っている様だった。


(まあこうなるよねー。あまりの食生活ギャップについ本気になってしまった・・・記憶喪失なのに・・・反省はしている、だが後悔はしていない!)


 このままだと薄塩野菜スープと堅パン地獄から逃れられないのでしょうがないと割り切り、


『いろいろと試してみたら何か出来ちゃいました。ちゃんと味見はしてますから。』


 とりあえずとぼけて誤魔化しとく。



『まあ味見してるなら・・・』


 そういってイエールさんは恐る恐るスプーンを口へと運んだ。そして一瞬止まったかと思うと、今度は無言で食べ始めた。それも物凄い勢いで。


 それを見たガブスさんも一口食べたかと思うと突然、




『う、美味いぞぉぉぉぉぉぉー!!』




 口から光が出た気がした。この世界で初めて魔法的な何かを見た気がしたが、同じく飯を食うたび口から光を出していたあの爺さんも、実は異世界出身だったのかもしれない・・・。

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