第15話 すみません。止めときます。
狩りも終わり村へと帰ってきた俺とイエールさんを、ガブスさんが先に見つけ声を掛けてきた。
『イエールもマサルもご苦労様。狩りはどうだった?』
『ウサギが一羽、獲れましたよ。』
イエールさんが自慢げにウサギを持ち上げガブスさんに見せる。
それを見てガブスさんが驚きながら、
『さすがイエールだな。頭に一撃か!』
『やっぱり凄い事なんですか?』
ガブスさんの言葉に俺も思わず聞いてしまった。
俺自身 弓矢の経験など無く何となく難しそうな事は分かっていたが、異世界人補正みたいなので皆ズバズバ当てるものなのかと思っていたら、こちらの世界でも特別らしい。
『ああ。イエールは狩りの時に“福音”を聞いているからな!きっと女神様のご加護のお陰だろう。』
もちろん日々の努力があってこそだが、と続けながら自分の事の様に誇らしげに語るガブスさん。
(この間、教えてくれた“福音”か。イエールさんは聞いた事があるのか!)
そう思うと、イエールさんに気になっていた事を聞いてみた。
『イエールさんは“福音” を聞いた事があるんですか?』
『ああ。なんだ?“福音”に興味があるのか?』
『はい。どんな“音”が聞こえて来たんですか?』
『んーー。そうだな・・・前の事だしよく覚えてねーけど・・・音っていうか、昔村に来た吟遊詩人が語りながら弾いてた楽器の感じに似てた気がするな・・・。』
(っ!?楽器が何なのかは分からないが、俺が最初に聞いた“音”と同じじゃないか?何か曲のようなメロディーみたいな感じだったし・・・)
堪らずその次の事についても聞いてみた。
『その時、“声”も聞こえたりしませんでしたか?』
『声?いや、そんなのは聞こえなかった筈だが・・・。なにか思い当たる節でもあるのか?』
『い、いいえ。どんなモノが聞こえて来るのか気になって・・・。』
『そうか。まあ、マサルもいずれ聞こえてくる時が来るさ!』
そう言って肩を叩いて来るイエールさんに苦笑いを返しながら、俺は別の事を考えていた。
(もしイエールさんの聞いた“音”と俺が聞いた“音”が同じだったとしたら、
俺は“何に”対して聞こえたんだろう?)
ガブスさんの話では何かに“従事”している時に聞こえてくる様だし、イエールさんも“狩り”の時だったのだ。聞こえてくる条件の一つだとは思われるが、自分の時はどうだろうか・・・あの時は体もまともに動かせず何かに“従事”などできる筈なかったのだが・・・。
そんな事を考えていると、ふと、ひとつの仮定に行き着いた。
それは、俺が聞いた“声”が言っていた事。
もし、この世界では認知されていない“スキル”というものが、実は存在していたとしたら・・・
もし、その“スキル”の“異世界言語理解”のお陰でこの世界の言葉・・・より簡素にいえば、ガブスさんやイエールさんと会話が出来ていたのだとしたら・・・
もし、“異世界言語理解”が“人”だけではなく、それ以外も対象だったとしたら・・・
もし、“福音”が単に“音”ではなく、どこかの“言語”だったとしたら・・・
もし、その“福音”が“スキル”の獲得を告げるものだとしたら・・・
考えれば考える程、辻褄が合う様な気がしてくる・・・。
一人で考え込んでいるとイエールさんが、
『すみません、今日もコイツを解体するのに場所をお借りしてもいいですか?』
と、ウサギを見せながらガブスさんへお願いをしていた。
『ああ、構わないよ。今日は・・・』
と言いつつ、ガブスさんがこちらを伺う様に見てきた。俺が少し迷っていると、イエールさんは何も言わず優しい笑顔で俺を見ていた。俺は何とも言えない優しさを感じながら、
『今日は、・・・すみません。止めときます。』
と解体の講習は辞退し、続けて、
『その代わり今日は俺が夕飯の用意をします。』
と返した。それを見たイエールさんはどこか満足そうに頷き、ガブスさんは少し驚きそして優しい顔付きになりながら、
『・・・分かった。今日一日で随分といい顔になったな・・・。では夕飯はマサルに任せるよ。』
と、言ってくれた。
“慣れ”は必要だが“無理”をさせまいとするイエールさんに優しさを、ガブスさんに親の影を見た気がしたのだった。
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