第14話 現代ファッションは異世界では不評の様です
翌朝、支度を済ませガブスさんの家で待っているとイエールさんが迎えに来てくれた。
『おはようございます。』
『ああ、イエールか。おはよう。』
『おはようございます、イエールさん。』
『マサル、もう行けるか?』
『はい。でも俺は何も道具を持ってませんけど・・・。』
『マサルは今日、見学がメインだから道具はいいよ、最初に会った時みたいな服じゃなきゃな!』
現代ファッションは異世界では不評の様です。
思わず苦笑いを浮かべ、そんな風にからかわれながら二人で狩りへと出発した。
森へと入ると、イエールさんが先行し索敵しながら進んだ。相変わらず周囲を警戒しながら、それでも歩く速度は早かった。
しばらく進むと、イエールさんが無言でこちらに手の平を見える様に挙げ、止まるよう指示をしてきた。
『いたぞ。』
イエールさんが声を落とし、短くそう言った視線の先にはウサギがいた。
『あれは普通のウサギですか?』
昨日ほど後ろ足も大きくなく、見た目にも普通に見えたのでこちらも声を潜め聞いてみる。
『ああ。狩るぞ。』
そう言うと、肩に掛けられた矢筒から矢を2本取出し1本をそのまま、もう1本を弓に番える。狙いを定め、矢を離すと見事ウサギに命中し――そのまま仕留めた。
すると、その仕留めたウサギの近くにもう一匹、別のウサギが現れた。
(もう一匹いたのか!)
どうするのかと思いイエールに声を掛けようとしたが、
『イエールさん、あれは・・・』
『いや、あれはいい。』
そう言い、俺の言葉を途中で止めた。
別のウサギは射抜かれたウサギの周りを様子を伺う様にいたが、異変に気付き逃げて行った。
仕留めたウサギの元へ行き、回収をするとすぐに移動を開始した。
川辺へと移動し一息つく。最初に出会ったものと同じか分からないが、ここも水が澄んでいてとても綺麗だった。
水際まで足早に来ると、ウサギの首の辺りをナイフで一突きし、後ろ足だけで持ち上げて、血抜きを始めた。
『仕留めてから早く血を抜かないと肉が臭くなるんだ。』
そう言いながら、流れ出た血を川へと流す。
『あの場ですぐに抜いてはダメなんですか?』
『血の匂いは他の生き物を呼んじまうからな。
ここなら血も水に流されて匂いも紛れるから、川が近くにあるならこういう風にするんだ。』
成程、それもそうか。捕食者は何も人だけではないのだ。そう関心していると、ふと先程の事が気になり聞いてみた。
『さっきのウサギは何故狩らなかったんですか?』
『ああ、あれは必要ないからだ。』
『・・・必要ない・・・ですか?』
『ああ。』
正直、意味が分らなかった。必要という意味では、動物性タンパク質を得る意味でも、またそんな概念が無いにしろ、単に食材の肉としても獲っておくべきだと思ったから・・・。
腑に落ちないのが伝わったのか、イエールさんはその意味を教えてくれた。
『肉は確かに貴重だ。特にこんな商人すらたまにしか来ない様な村じゃ尚更な。手に入れるには自分で狩るしかないし、その狩りも必ず獲れる訳じゃない。だから狩れそうな獲物がいたら狩る・・・でもそれは、それが必要だからじゃないだろ?』
そこで、はっとする・・・。
必要なモノを必要な分だけ――それは近年、工業化の世界で進められた経営理念。ムダを省いたそれは、つまり究極のミニマリストの生き方のそれと同じなのだ。
既に必要な量の獲物は仕留めてあり、それ以上は生肉のままでは保存も効かず、加工をするにもこんな森では塩も有限なのだろう。それに過度な乱獲にでもなれば生態系の瓦解に繋がるのはこの世界でも同じだろうから・・・。
と、イエールさんの言わんとする事を察し、自身の考えの甘さを感していると、
『まあ村のみんなで分け合うには、全然足りないんだけどな!』
と言いながらおどけて笑ってみせた後、少しこちらを伺うような雰囲気を出しイエールさんは続けた。
『少しは気分も晴れたか?』
『えっ?』
『昨日の事だよ。畑でも頑張ってたみたいだし、その後の足兎でもそうだ。何か無理してんじゃねーかと思ってな・・・。言ったろ?少しづつ思い出していけばいいって。不安なのはわからなくもねーけど、子供が気を使うんじゃねーよ。』
・・・イエールさんは心配してくれていたのだ。この狩りも本当の所は、俺の気晴らしの為に連れ出す口実だったのだろう。
見た目には年端もいかぬ子供なのだ、頼まれたとはいえ色々ショッキングなものを見せてしまったと、責任を感じているのかもしれない・・・。
イエールさんの優しさに、無意識に感じていたストレスみたいなものに気付かされる・・・。
・・・30も過ぎて部下や後輩ができると、やって当たり前、出来て当然。そんな無言の期待とプレッシャーを感じる様になって、最近では素直に“出来ません”、“やれません”、なんて言葉を口にする事は出来なくなっていた・・・。
『・・・ありがとうございます。少し考え過ぎていたのかも知れません。』
俺の言葉に笑顔で応えるイエールさんを見て、少し肩の荷が下りるのを感じた。
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