第13話 はい、でちゃいました
イエールさんと合流し、ガブスさんの家へと帰って来た俺たちは庭先にてウサギ?の解体準備をしていた。ここで疑問に思っていた事をイエールさんに聞いてみる。
『イエールさん、これは ウ、・・・うまそうですねっ!何という生き物ですか?』
(あぶねっ!危うく普通に名前で聞くとこだった。記憶喪失結構メンドイな・・・。)
面倒事を避ける為に吐いた嘘が既に面倒事という本末転倒な事実に・・・いや、もう既にいろいろあった後だが、軽く後悔し始める。
まあ気になったのは見た目にウサギと思われるそれは、だが俺の知っているモノと少し違うのだ。具体的に言えば後ろ足が一回り・・・いや、二回りは大きい気がする。
『ああ、これは足兎と言って魔物の仲間だよ。普通のウサギと違って後ろ足が極端に発達してるんだ。』
(これが魔物かっ!初めてみたけど足以外は普通に見えるな・・・。)
『魔物という事は、危険な生き物なんですが?』
『こいつは魔物の中では割と大人しい方でな、身に危険が迫った時にしかこちらに攻撃してこないんだ。その分臆病で、異変に気付くとすぐ逃げちゃうんだけど、逃げにも攻撃にも厄介なんだよ、この後ろ足は。』
狩るのが難しい獲物に誇らしいのか、嬉しそうな笑みを浮かべ語るイエールさん。
気付かれず接敵して、反撃や逃走されないよう一発で仕留める。なるほどイエールさんは優秀な狩人のようだ。
『普段は“吊るし”で捌くんだが、今日はマサルが見やすいように台の上でやるか?』
『そうですね。すみませんが作業台をお借りします。』
ガブスさんとイエールさんで準備がサクサクと進んでいく。
『じゃあ先ずは皮を剥ぐところから・・・』
そう言ってイエールさんは、足兎を仰向けにし、肛門付近からナイフを入れた。
皮だけを切るように真っすぐアゴ先まで切れ目を入れ、皮だけを左右に割く。四肢の第一関節に一周ナイフを入れ、そこから腹側の切れ目まで同じくナイフを入れる。
『足や背中は、むく様に引っ張れば剥がれるけど、それ以外はナイフで皮と身の間を切っていかないと剥がれないんだ。』
と、丁寧に教えてくれるイエールさん。・・・正直気分の良いものでは無い。軽く後悔しながらも、自分から頼んで教えて貰う以上 、目を逸らす訳にはいかない。
手際よく進められ、あっという間に皮を脱がされた足兎。
それを見てついに、
(おぉう・・・まぃ・・・ごぉろろロロロロrororyo・・・。)
・・・はい、でちゃいました。うん。いきなりはムリ!
しばし横になり回復を待つ。
『大丈夫か?マサル。』
『すみません。俺から教えて欲しいと頼んだのに・・・』
『気にすんな!最初は誰でもそうなる。』
『イエールの言う通り、初めての解体は誰でも気分が悪くなるものだ。』
多少落着きを取り戻し、二人に謝る。良くある事なのか二人とも俺が吐いた後も、何事も無かったかの様に俺の介抱と作業の続きをしていたが、一段落したらしい。
台の上にはキレイに部位毎切り取られた“肉”が並んでいた。
すると突然イエールさんがこんな事を言い出した。
『ガブスさん、明日狩りにマサルを連れて行きたいんですが良いですか?』
『狩りに?明日は種まきの予定だから畑は私一人でも構わないが、なんでまた?』
『マサルに狩りを見せようと思いまして・・・。』
『・・・そうか。私の方は構わない、マサルはどうだ?』
そう言って二人に見つめられる。
・・・そんな見んなよ。惚れてまうやろ・・・。
(これも経験か・・・。正直“いま”の“いま”で気分は乗らないが、色々やってみなきゃ分らんしな・・・)
『分りました。よろしくお願いします。』
折角誘ってくれたのだからと、心と胃を躍らし返事をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます