第9話 彼の尊厳のため墓場まで持っていく所存です
――いろいろな事をガブスさんから教わった。
記憶喪失の線引きは中々難しかったが、凡そ聞きたい事は聞けた。
最初は主に日常生活での攻防だった。
・・・何事も“わかりません”で通すのは無理があるのだ・・・。
ドアの開け閉めから椅子や机の使い方ならば問題ない、最初にこの家に来た時に既に出来るところを見せているのだから。問題はまだ見せていない部分だ。
ガブスさんも良い人なのだ。それはそうだろう、見ず知らずの出会ったばかりの子供を引き取ろうというのだ。伊達や酔狂だけではない。
イエールさんが帰ったあと、二人になってガブスさんはまず家の中をいろいろ案内しながら説明してくれた。こちらも分らないと言った手前、なんでも知っていてはと思い、時折知らない振りをして説明を受けていた。・・・事件はこのあと起きたのだ。
あらかた家の中の説明は終わり今度は外へと、少し離れた位置に建てられた小屋に連れて行かれた。戸を開けた時ここが何なのかすぐに分かれば良かったのだが・・・一瞬遅れてその“匂い”に気づいたがもう遅い・・・。
俺の反応がイマイチなのが伝わったのか、知らないモノと判断されてしまった。
『見てなさい。』
そうひとこと言い、おもむろにガブスさんは小屋に入るとそのまま戸を閉める事無く、ズボンを躊躇いなく降ろすと中央にあるそこそこの大きさの瓶に跨り、
いきなり “排泄” をしだしたのだ。
目の前で、近距離で、それはもう流れるように自然に・・・
もうね、あまりに唐突に見せられて、静止も意思表示もなにも出来なかったよ・・・。
ただ言えるのは“排泄”だったということ。大とか小とかそんな細かいことはいえません。彼の尊厳のため墓場まで持っていく所存です。
(なんてもの・・・これ、もう知ってますとか言える状況じゃねえじゃん・・・)
30数年のキャリアでもその扉は開けてなかったのに、キレイなお姉ちゃんならまだしも初老のて・・・。
俺の“初めて”どんだけ奪っていく気よ・・・
『ここは、このように用を足す場所だ。』
・・・知ってます。そしてちょっと頬を赤くすなっ。
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