第4話 キンキンに冷えてやがる!
恐る恐る森から抜け出し、河原へと近づくと遠目からでは見えていなかった川の実体が見えてきた。
水はこの上なく透き通り、段階的に深くなっているのか薄水色から天色へとうつろう様は、こんな状況でも一瞬すべてを忘れ見惚れてしまうほどに美しかった。
(これは・・・こんなに綺麗なものが見られるとは・・・)
しばし立ち尽くしたのち我に返り水際まで近付く。しゃがんで両手で水を掬ってみれば思いのほか冷たい事に驚きつつ耐え切れずその水に口をつける。
川底まで見透すことができるとはいえ、一抹の不安があったのも事実だったがそんな事などどうでも良くなるほどに美味かった。
(キンキンに冷えてやがる!)
思わず顔が劇画調になりそうな位には衝撃的だった。
その後も無心で飲み続け人心地つくまでに幾ばくかの時間が掛った。
(ふぅーっ、生き返ったー。)
そこで初めて水面に写るソレに違和感を覚えた。
最近ではさして意識して見ていなかったが、改めてマジマジと確認すると明らかに記憶に残るモノと違うことに気がついた。
(えっ!?なんか顔が若くなってない??)
気になり出せば色々出てくるもので、言うほど元からそんなにあった訳ではないが、今まで気にもしてなかった手も細かなシワが無くなっていたり、服も靴もブカブカで一度しっかり背を伸ばし立ってみると目線も低くなっているようだった。
いや、言い訳をするならば目覚めてここへ来るまで警戒のため常に身をかがめていたし、服も普段着ない割りに準備もなく突然着る機会が多い為、多少サイズにゆとりを持たせたものを買っていたし、靴はまぁ・・・そこは・・・あれだ・・・。
・・・つまり何が言いたいのかというと、どんだけテンパって浮き足立っていたのかと・・・。
(はぁーー)
軽いため息と共にしゃがみ込み、もう一度よくよく水面に写る自身の顔を確認すると・・・見間違いではなくやはり若くなっている。
別人の顔でもなく、自身の若い頃の顔・・・小学生だろうか?たぶん4~5年生くらいだと思う。
これで確信した、やはり転生しているらしい。まさか自分がすることになろうとは・・・
説明も同意も無くいきなりとは・・・リアルはやはり優しくないらしい・・・。
考えていた最悪のパターンに軽く目眩を覚えながら、もう一度あの白い世界での出来事を思い出す。
(確か世界言語理解だったか?スキルとか言ってたよな・・・)
転生は、まぁ多分、きっと、九分九厘そうなのだろう。自身の姿形が確かにここまで変わっていては認めるしかないが、問題はここが日本か或いは地球のどこかなのか、はたまた異世界なのか・・・。もうほぼあの声のせいで答えは出てしまっていそうだが、今度はそれを認めてしまうとこの状況が問題になってくる。
およそ人里の気配がない森の中で、救助を期待出来ないまま10歳ぐらいの子供が得体の知れない生き物がいるかもしれない森を抜け自活し生き抜いていく・・・。
(・・・これ何てムリゲー?)
仮に異世界でなくても詰んでいると思うのは自分だけだろうか?
焦燥と不安が段々と膨らんでいき、どうすれば良いのかまとまらない頭で考えていた所為だろう、注意力が散漫になっていた。
気付いた時には既に遅く、茂みが揺れ、草の擦れる音がしていた。何かがいる気配に一気に意識は引き戻され、同時に血の気が引くのが分かった。
(しまった!こんなところで突っ立ってる場合じゃなかった!)
後悔の中、揺れる茂みにただただ視線を向けることしか出来ずにいると、出てきたそれはこちらに気付き言葉をかけてきた。
『こんなところに・・・子供か!?』
・・・緊張と飲み過ぎた水のせいか、少し、ほんの少し、パンツの合わせの内側、布一枚分が湿った気がしないでもない気がした。
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