第2話 準備段階的なところ

 まどろみの中、瞼に感じる明るさにつられ目を開けるとそこは一面の白い世界だった。

 上下左右の区別が無く重力の感覚も無い、伸びた身体はいま自分が立っているのか寝ているのかさえ分からない状態。


 夢か幻か分らない中で思ったのは、

「戦闘民族の修行部屋??」

 そんなくだらない事をぼーっとした頭の隅で思いながら周りを尚も見直す。


 相変わらずの白い世界。特に変化を見つける事も出来ずにいると、ふとこの白塗りの世界で唯一色味のある自身の服や手足が視界に入る。

 自分で着ていても違和感のある、且つ何度着ても着馴れない。この風景とは真逆のそれは明らかにこの“世界”では浮いていた。


 確かに重力の感覚は無いが、ことは出来る。手を開いたり閉じたりすれば感触もある。顔や体を触ってみればいつも通りの感触が返ってきたがことは出来なかった・・・。


 感覚的には否応なく現実と認識しているのに、生理的にはどうしようもなくそれを否定する。

 ・・・突然の不幸に似ているそれは、理解の追付かない頭を保護する為か気持ちを悪くさせた。


 ことここに来て少しの不快と少なくない焦りを覚え始めた。

 いかんせん周囲に見えるものがいつも通りからかけ離れ過ぎていて現実味を帯びていない。


 耳をすまし他に何かしら得られる情報はないかと集中していると

 突然、頭に直接“音”が響いた


『***:********』


『***:********』


(!?今のは何だ? 何かのメロディーのような歌のような?)


(いやそれよりいま直接頭に“聞こえ”なかったか?)


(やっぱり夢か?いや、でも現実の様な気が・・・ドッキリとか?)


(そういえばどこかで聞いた話だと白い世界に閉じ込められ続けると精神崩壊をするって言ってなかったっけ?)


(どこかの研究機関の治験で拉致された?)


(確かにこんな所にずっといたら気が狂いそうだな)


(いやいやこのご時世に誘拐とか、しかも大の大人のしかも男をわざわざ?)


(こんなに明るくても暗闇より恐怖心を煽られるものなのか・・・)


(そもそもどうやってここに来たんだ?確かコンビニへ行こうとして家を出て・・・)


 この不可解な状況と突然の現象に瞬間的な考えがいくつも浮かび次々と流れていくが、疑問に疑問が重なり余計に混乱しながらもあれこれ考えていると

 また頭に直接“音”が響いた


『***:********』


『***:********』


 まただ!でもさっきと少し違う気がする?

さっきのはもっとこう・・・


 訳が分からないなりに、唯一この白塗りの世界で変化のある現象について色々と模索していると、今度は頭に直接“声”が聞こえた。


『スキル:世界言語理解を取得しました』


 それはたしかに“声”で、でも明らかに人ではなく機械的で抑揚のない感じだった。


 いやいやそれより何て言った?スキル?世界言語理解を取得?


 !?あぁやっぱり夢か。流石にこれはないよな。


 漫画やアニメはそれなりに好きだったが何故か大人になるにつれ見なくなっていき、また若い頃の様にドラマや映画などは何となく集中できなくなって、まして続きものなど殊更敬遠しがちになっていたし、ゲームも一時期はやっていたが今ではそもそも本体すらなく、強いていえば携帯アプリのを少し。もちろん無課金ものでそれも嗜む程度でいたが、そんな中ここ最近ハマっていたのが携帯小説だった。それも今ありがちの異世界ものだ。


 この『非現実的世界観』に聞こえてきたお決まり『天の声』のラノベ的展開は、よく見る“それ”では割とポピュラーなヤツだ。

 おおかた転生ものの最初の部分、神界とか精神世界とかそういうところで神やら精霊やらから色々な特殊能力をもらって現世へと行くまでの、いわば準備段階的なところ。


 しかし、我ながら夢なのに貰ったのが『世界言語理解』だけとは・・・

 たしかに異世界ものではコミニュケーションとるのに鉄板で必要だろうけど、チョイスが渋すぎでしょ・・・

 もっとこうカッコイイ攻撃系のとかチートっぽい万能系のヤツとかさんざん読んできただろうに。


 自分の想像力の無さに自嘲してしまう。

 そうこうしている内にまたあの“声”が聞こえてきた


『個体名:***の***への**を開始します』


 その“声”の終わりと同時に意識が遠くなっていった。

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