8話 真実という名の悲劇。
─扉を開いた先は、同じ景色の白い世界が広がっていた。
だが、同じ景色の中にも新しい物があった。それは─
神々しいオーラをまとう女性がそこにいた。
「よく来ました。それと“この世界”では初めまして、でしたよね?」
その女性は俺にそう声を掛けた。
「…この世界?何を言ってるんだ?」
俺は何を言われているのか全く理解できなかった。
「…忘れているのも当然でしょう。改めて自己紹介させていただきます。私の名前は、クリスティーナ・エルクレアです。」
その名前を聞いたとき、忘却の中の封印されし記憶の鎖が外れ、俺は思いだす。初めてこの世界に召喚された時のことを─
* * *
気がつくと、何もない白い世界に俺はいた。ほんの少し、目を閉じただけだ。開いた時には今の状況になっていた。
「どこだよ、ここ…。まさか、死んだのか…?」
ありえない話ではない。気づいたらここにいたこの状況を考えると、死んだときの記憶が無いだけで…
もしかしたら、車にでも轢かれたのかもしれない。
「初めまして、神楽遙音さん。」
そんなことを考えていると、目の前から声がかかる。
「うおっ!?だ、誰だ…?」
俺は突然の声に驚いてしまう。
「あぁ、すみません。驚かしてしまいましたか…?私の名前はクリスティーナ・エルクレアと言います。」
「…神様ですか?」
白い世界に女性…そう思うのは当然だろう。
「はい、正確には異世界の、ですが…」
「…異世界?」
その言葉を聞いて、俺はもしかしたら死んだんじゃなく、召喚されたという可能性を考える。そして、その考えは当たっていた。
「貴方は、死んでいません。私がこの世界、エルクレアに召喚しました。」
その言葉を聞いたとき、自分は死んでないという安心感と共に自分はこれからどうするのだろうという不安感が襲った。
「俺をなんで召喚したんだ?」
「貴方にはこの世界を救ってほしいんです。」
「…どういうことだ?」
「ほんの少し前に、この世界に”邪神”が現れました。魔王城に、邪神は、乗り込み、そして魔王城を乗っ取りました。」
「…魔王は?」
「殺されました。」
「魔王ですら敵わなかった奴だろ?そんな奴に俺が勝てるのか?」
ただの人間の俺がそんな奴に敵うわけないだろう。それどころか、確実に一撃で死ぬ。
「それは大丈夫です。“ステータスオープン”と、言ってみてください。貴方のステータスが、表示されます。」
そう言われ、俺は『ステータスオープン』と言った。すると、目の前にステータスが表示された。
#
カグラ・ハルト Lv1 種族:人間
HP:450/450
MP:680/680
STR:980
VIT:430
AGI:330
DEX:520
INT:780
MND:850
LUK:ー99999:Errer
属性:
スキル:
#
「…強くないか?これ…」
俺はスキルやステータスを見て唖然とする。
「ちなみに、魔王の死亡時点でのステータス平均は400万です。」
「…届かなくね?普通に…」
「いえ、貴方の能力創造(スキルクリエイター)があれば大丈夫です。これから私の言うスキルを造って下さい。」
クリスティーナは、造るスキルを教えてくれた。
「分かった。“
俺は教えてもらった通りのスキルを造る。そして、スキルが造られる。造ったのは、【成長促進】、【経験値倍増】だ。
「このスキルがあれば、レベル100ぐらいには魔王を超えるでしょう。レベルもすぐに上がるはずです。」
「確かにこれなら勝てる可能性もあるな。」
「はい。…そろそろ時間ですね。貴方の所持品は【アイテム・ボックス】に入っています。悲しき現実に行き当たりますが心を折らないで、頑張って下さい。」
「?それってどういう─」
そこで俺の意識は暗転した。
* * *
「そう、だ…思いだした…でも、何で忘れてたんだ…?」
ふと、疑問に思った。するとクリスティーナが予想もしていない事を言った。
「それは貴方が
「…は?」
聞き間違いだろうか?世界をやり直してきた?それも
「事実です。」
しかし、クリスティーナは、きっぱり言った。
「…なんで、俺はそんなにやり直した?勝てなかったのか!?だからやり直したのか!?」
「…少し、落ち着いてください。説明します。」
俺は深呼吸して自分を落ち着かせる。
「貴方は邪神に勝てなかった。ですが、本当なら勝っていた。…“メフィアとエミリア”という少女がいなければ。」
「どういう事だ?」
「貴方は、メフィアとエミリアを救うために世界をやり直しました。幾度となく。」
そこまで聞いて、理解する。二人が邪神と戦うと死ぬと。そこで気付く。今、この瞬間にもメフィア達は戦っているのだと。
「そうだ…メフィア達は、今地上で戦っている!俺を地上に戻してくれ!」
「安心してください。地上の1分はこちらで1時間なので。…それに今、貴方が戻っても返り討ちに合うだけです。」
「時間が余裕ってのは分かったけど、返り討ちってどういう意味だ?」
俺はステータスを見ると結構強いはずだ。だけど、返り討ちに合う?
「彼女は、貴方よりも強いです。ステータスだと貴方が勝っているでしょう。しかし、スキルや技術的な問題で貴方は敗北します。ですので、この“99999年分の記憶”を取り戻していただきます。」
クリスティーナは、そう言うと指をパチン、と鳴らした。その直後、1つの扉が現れる。そこには、【邪神】と書かれていた。
「その中に入って下さい。」
「…分かった。」
俺は意を決し、中に入った。
* * *
………一体、どうしてこうなってしまったのだろう。地面にひざまずきながら俺はそんなことを思った。…一体今回で、何度目のやり直しだ?何十?何万?もう、知るか。俺は俯いていた顔を上げ、辺りを見渡す。
青かったはずの魔界の空は、不吉な赤色に染まり、メフィアとエミリアがかつて住んでいた魔王城は崩れ、…そして、俺の目の前には、横たわるメフィアとエミリアがいた。…息一つせず、静かに。
「――いつまで、その子達の所でひざまずいているの?」
突然声が降りかかる。俺はソイツを睨みつける。…メフィアとエミリアを殺した張本人である、邪神・篠原美珠希(しのはらみずき)を。
「…いつまで?回復するまでだ。」
「無理。回復なんてしないよ。この【ラグナロク・ヴォイド】で殺したら、
美珠希の言ってることはもっともだった。でも、信じない。…いや、信じたくないだけなのかもしれない。
…それでも俺は蘇生魔法をかけ続ける。…
でもありえない。二人のステータスを視たら…
#
メフィア・スレイル Lv631 種族:吸血鬼
HP:0/460000:状態固定。
MP:32000/1350000
STR:65000
VIT:38000
AGI:1200000
DEX:440000
INT:990000
MND:750000
LUK:470
属性:魔王
スキル:
#
#
エミリア・スレイル Lv799種族:吸血鬼
HP:0/57000:状態固定。
MP:37800/130000
STR:40000
VIT:9800
AGI:64000
DEX:34000
INT:49000
MND:78000
LUK:500
属性:魔王
スキル:
#
「はは…【状態固定】か…」
俺の口からは苦笑が漏れた。
「ね?何度やり直そうと、この“運命”は、変わらない。」
「そんなことない。…運命は変えられる。」
「無理よ。『ひ○らし』の見過ぎじゃないの?はぁ…ねぇ、『トロッコのジレンマ』って知ってる?」
「………?」
俺はその言葉の意図に気付かなかった。
「5人を助けるために他の1人を殺してもよいか。簡単に言えば『ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?』っていうこと。この場合は、“私”という暴走トロッコの犠牲者が“遥音”じゃなく、その子達になった。それだけよ。」
美珠希の話には説得力があった。しかし、認めたくはなかった。…認めてしまったら─それは、諦めることとなんら変わらないからだ。
「…犠牲になるのは、俺…だったのかもな。」
「…またやり直すの?何度やったって運命は変わらないのに…」
「当たり前だ。…二人を救う運命がたった一つあるとしたら、それを当てるまで何度だって、やり直す。─“
俺は再び禁忌のスキルを口にする。最後に美珠希が、
「【パラドックス】に呑まれるよ、遥音…。」
そう言った。だから俺は意識が完全に無くなる前に言い放った。
「─俺は【パラドックス】なんかに呑まれない!」
その言葉を最後に、“この世界”の神楽遥音とその記憶は死んだ。
* * *
─それが、『邪神』の内容だった。
「なんで…邪神が…美珠希なんだよ…」
ショックを受けながらも、俺は思い返す。篠原美珠希との出会いを。
─美珠希と初めて接触したのは、今から2年前。中学1年の頃だ。
小学生の頃は別の市に住んでいた俺は、転校していじめられないか、それだけが心配だった。俺は軽度のアスペルガー症候群を幼稚園の頃から患っていた。それについていじめられないか心配だったのだ。
入学から1ヶ月後。彼女は、突然長かった髪を切って学校に来たのだ。その途端、彼女をクラスメイトは、『失恋した』などと、言われていた。…俺もそれに便乗してしまった。そして、すぐに後悔した。これは自分が嫌がっていた“いじめ”じゃないか、と。
アスペルガーだから?そんなのは関係ない。それはただの言い訳だ。
俺は彼女に謝りに行った。許してもらうまで謝り続けるつもりだった。…だが、
『もう、いいよ。』
と、彼女は言った。こんなにもあっさりと許してもらえたのが信じられなかった。
それから2年が経ち、美珠希は、俺に告白をしてきた。断る理由もなく、俺も美珠希の事が気になっていたので、俺はその告白を受け入れた。
俺達はカップルとなった。とても幸せだった。“数ヶ月”は…
悲劇が起きたのだ。
あの日は、美珠希と一緒にデートしている時だった。信号待ちしている時、鋭い視線を感じ、俺は後ろを振り向いた。しかし、その瞬間その視線は消え、気のせいだろうと思い、前を見ると赤信号なのに道路を走る美珠希が目に入る。その先には猫がいた。動物好きの美珠希は、きっと無視することができなかったんだと思う。しかし…
「ッ!美珠希!危ねぇ!」
大型トラックが猛スピードで迫ってきていた。俺は美珠希に手を伸ばす。あと少しで手が触れる。そして手が触れた時だった。突然後ろから、
「おい!ボウズ!死にてぇのか!?危ねぇだろ!」
ガタイの良いおじさんに抱きかかえられ、手が離れる。そして─
「はる─」
グチャッ
最後の言葉の途中で猫もろとも美珠希は、トラックに潰された。それから俺は、後悔していた。あの時、『おじさんの手を振りほどいてでも美珠希の手を握って引き寄せれば助けられたんじゃないか?』と。
「─ルトさん?ハルトさん!」
「あっ…、え?なんだ?」
「大丈夫ですか?何度も呼びかけたのですが…」
考え込んでいたから気づかなかったのか…。
「次は、この扉に入ってください。」
いつの間にか目の前には扉が現れていた。そこには、『記憶解放』と書かれていた。
「この中に入ると、文字通り今までのやり直してきた記憶が、脳に流れてきます。それと…」
クリスティーナは間を置いて言った。
「『時間矛盾(タイム・パラドックス)』ですが、もう使えません。ですので、今回が最後ですよ?」
何故、使えないのか気になったが時間があまりないため、俺は頷いて扉の中に入った。
* * *
…扉の中は真っ暗で何も見えなかった。しかし、その直後、これまで経験して事のない、もの凄い頭痛に襲われる。
「ぐ…ッ…うぁ…ッ」
だが、その頭痛はただの頭痛ではなかった。99999年分の“遥音”の経験と記憶が全て頭に流れて元に戻ろうとしているのだ。
─元々の“あの頃の神楽遥音”に。
どれくらい経っただろうか…頭痛は治まり、逆に体からは力が満ち溢れていた。
「“ステータスオープン”」
#
カグラ・ハルト Lv999…???種族:超越者
HP:99999/99999
MP:99999/99999
STR:99999
VIT:99999
AGI:99999
DEX:99999
INT:99999
MND:99999
LUK:ー99999:Errer
属性:魔神
スキル:
#
ステータスは99999年分の強さを持っていた。
「スキルが、増えてるな。“神眼”で視てみるか。」
俺はスキルを鑑定する。
#
超越者 レアリティ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
すべてのLUKを除くステータスが99999になる。
使用MPが1/10になる。
魔神 レアリティ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
全ての魔法を操ることが出きる。
一定時間ステータスを上昇させる魔神化する事が可能。
魔神化 レアリティ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
30分間、自身のステータスを999倍にし、大気中の魔力が視えるようになる『魔力眼』が魔神化している間使えるようになる。その間、自身の右眼が紅くなる。なお、その前に受けた傷は癒える。
(魔神化の後は、反動として2時間は魔神化出来ない。)
魔力眼 レアリティ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔神化の時だけ使える特別スキル。大気中の魔力を目視できるようになる。
魔法を使うとき魔力が集まるので、相手がなんの魔法を使うのか分かる。
武術総合 レアリティ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
全ての武術を扱うことが出来る。
#
「この『魔神化』は、強いな。でも、これであの堕天使を倒せる力を手に入れたぜ…っと…」
気が付くと、再び白い世界へと戻されていた。しかし…
「…クリスティーナ?どこだ?」
俺は辺りを見渡した。しかし、クリスティーナは、どこにもいなかった。その時だった。
「よぉ、ハルト。」
突然後方から声が降りかかった。…この世界で99999年生きたからだろうか?その声はとても懐かしく感じた。
俺は振り向いた。そして目を見開く。
「何ていう顔してんだよ?僕の声を聞いて驚いたか?」
そんなことを言う、その顔を見て俺の目から涙が溢れた。
あの時、ケンカして仲直りも出来ずに、異世界へと召喚されて、会うことなどもう叶わないと思っていた。
─だけど今、目の前にいる。俺のかけがえのない親友が。
「…雪奈っ!」
俺は雪奈の元へ駆け寄った。そして力強く抱きしめる。
「どうしたよ?いきなり抱きついてきて。…泣くなよな。こっちまでもらい泣きそうだからさ。」
雪奈は、そう言って俺の背中と頭を撫でる。…まるで幼子をなだめるみたいに。
それが温かくて俺はしばらく泣きじゃくっていた。
そして体を離すと、俺は言った。─あの時、すぐに言えなかった言葉を。言えずにずっと後悔し続けた言葉を─。
「雪奈、あの時は、“ごめん”!」
後悔していた言葉をようやく、口にすることが出来た。後悔は今、この瞬間時を超えて消え去ったのだった。
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