見習いの仕事ではない

 騎士と聞けば、それを好む者は多い。


 国を守る盾。邪を穿つ矛。国の象徴を背負う、言わば国の顔。


 騎士の奉仕は曇りなく、敬虔なる信仰のため戦い、その徳は深く国の懐を示す。


 騎士を見れば国がわかる。故に、騎士になるためにはあらゆる苦行と修行を積まねばならない。


 故に、あらゆる責め苦を、私は受け入れよう。







「……だがこれは聞いていない」

「何か言ったかしら〜!?」

「次はコレを着せましょう!」

「あらやだ!流石マリン副団長、お目が高いわ!」

「………………」


 騎士見習いとして、俺は……いや、私はヨルン騎士団へ入団した。


 この騎士団は見掛けを尊ぶ。それはよい。騎士が汚い身形をしていては君主に、引いては国に泥を塗る。


 だが、些か神経質な部分がある。汚れは親の仇という目で拭い、騎士団の象徴である純白の軽鎧が輝きを失えばすぐさま磨き上げる。


 怠ればヨルン団長かマリン副団長から『お仕置き』という名の火炎魔法が飛んでくる。それによって煤けた己の軽鎧を磨き上げることで許しを得るのだ。


 さて、私が今いる状態なのだがこれまた説明がしづらい……いや、恥ずかしいというべき事が起こっている。


 まあお察しだろう。いわゆる着せ替え人形とやらにされている。


「こっちの軽鎧はかなり似合うと思うのですが……」

「ノンノン。彼に軽鎧はナンセンスだわ。重厚な鎧を付けてこそ、よりドラングルちゃんは輝くのよ!」

「しかし全身を鋼鉄で覆うのも…」

「なら軽鎧をベースに盾形状の…」

「特注品ですか。では手甲は…」


 私を置いて己の世界に入っていくお二人。それを野次馬のように見物する団員たち。なるべく心を無にして立っていた私は肩を優しく叩かれた。古参の一人、テナンタ殿だ。


「諦めろ。この騎士団に入った者は必ずこれを受けるのだ」

「……しかし見た限りでは皆様の鎧も随分と違う様子。同じ鎧でなければ統率力と一体感を表さぬのでは?」

「団長が言うに、それぞれの個性に合った鎧を着させ、動きで一体感を示すことであらゆる者を隔てなく受け入れると示すのが狙いらしい」

「……しかし」

「ああ、その通り。ただの方便、二人の趣味だクソッタレ」


 重厚な鎧から出る幼い顔が良いだの、細さの残る筋肉が苦もなく重い鎧を操るのが良いだの、聞くに絶えない会話が聞こえる。


 幼いとは言うが、一応確認すると私はもう齢17。既に成人近い年齢だ。


「よし、これで良いわね!」

「よしじゃないぞ団長」

「はい!それではコレが貴方の鎧ですよ!大事にしてくださいね!」

「誠実っぽい言葉を出しても顔がダラしないことになってるぞ副団長」


 渡されたのは少々豪華な鎧だった。肩当てや胸当てには装飾があり、しかし布の面積が金属面よりも多いため動きやすそうだ。


「金属は魔法力や魔力に強いミスリルと鉄の合金を使っているわ!」

「なかなか豪快な戦い方をするそうですし、軽鎧と重鎧の特徴を合わせ持つ鎧こそいいと思ったんです!」


 見掛けを重視するためクリスティーヌ騎士団と比べ嘲笑の対象にされることも多い。


 しかしその実態は、デザインや機能の両面において最高の防具を用立てる。外面だけでなく、内面もしっかりと見て対応するからこそ、団内の信頼は厚い。


「……しかし、いつの間に取り出しましたがどこから?」

「副団長と一緒に魔法連携でちょちょいとね」

「……魔法連携、ですか」


『魔法連携』とは、二人以上が魔法を掛け合わせ行うことができる技。心の底から通じ合ったもの同士でないと成功しないとされ、使える者は滅多に居ない。大抵が生まれを同じくする双子や兄弟であったそうだが、ヨルン団長と副団長の出自は異なる。


「世界でただ一つ、貴方だけの一着。大事にしてね」

「……はい」

「入ったばかりで分からないことばかりだと思うけど、貴方は見習い。修練はもちろん、雑用その他もやってもらうけど、騎士になるためには覚えなきゃいけない。精進しなさい」

「……はい」


 変人率いる奇抜な騎士団。それが世の人が持つ印象だ。


 しかしこうして少しばかりでも触れてみてわかった。彼らは個性的ではあるが、やはり騎士団。その中には確かな芯があり、朗らかな性の内に真剣味を隠している。


 尊敬すべき先人たち。彼らに師事することができるのは幸運であろう。


「でもコッチも試してみましょう!」

「いっそ全団員の鎧を新調してみましょうか!」

『結構です』


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