新調武器の試し斬り

 依頼から明後日、屋敷までグルドさんが武器を袋に詰め配達してくれた。


「ほらよ、これがご注文の大剣二つだぜ。金はロブから貰ってるから、受け取る以外にはなんもいらねぇ」


 袋から取り出し、鞘から抜いてみる。ふむ、刃こぼれとかも無し。その辺りのメンテナンスはちゃんとしてくれているようだ。


「……ありがとうございました」

「おう。そんじゃあな。これからもご贔屓に」


 大剣を再び袋へ入れると、俺はさっそく中庭へと足を進めた。


 木剣では握りつぶしてしまったり、クロエやカムイの攻撃で簡単にへし折られたりと限界があったからなぁ。


 中庭では既にクロエとカムイが鍛錬を開始しており、模擬戦をしているようだった。


「だぁ!やっぱりちょこまかとウザったいなクロエ!」

「へっへーんだ!ドランに動き方の指導してもらったし、前みたいに簡単に捕まえられるとは思わないことだよ!」


 カムイはタフさと膂力が長けているが、クロエの素早さの前では無意味。攻撃で多少なりとも身体が仰け反り、怯んでしまうからこそ俺のような戦法がとれないのだ。


 ……こうして考えると【スーパーアーマー】様様だな。取得した経緯は嫌なものだったが、これがあるおかげで俺はここまで来れている。


「後ろガラ空きだぞー!」

「グヘッ!?」


 おっと、少し感傷に耽っていたな。模擬戦は今のところクロエが優勢。同じ上級の魔物でも持久力は圧倒的にクロエに分がある。疲労を待ってもその前に削られるのは目に見えているな。


 俺は大剣を取り出し刃を軽く撫でながら観戦する。どうやら2人は俺どころか周囲にまったく気を配っていないらしく、地面が抉れ備え付けられた長椅子等まで破壊しながら戦いを激化させていった。


「いい加減に……しろ!」

「え?うわわわ!?」


 っ!?何だと!?


 中級土魔術『グラウンドインパクト』


 カムイが勢いよく地面へ足を振り下ろす。次いで魔力が浸透し幾つもの土の柱が突き上げていった。


 クロエは自分へ向かう土柱を躱しきったようだが、土柱の林はカムイの姿も隠し動きづらくさせた。これは速さを売りにしている相手には刺さる魔法だろう。


 それにしても、まさか脳筋な部分があるカムイが魔術を使うとはな。適性は土属性か。確かに鍛錬で何度か模擬戦をしているなら、あの野生全開だったカムイでも魔術での足止めなどを考えるのかもしれないな。


「はっ!これなら自慢のスピードも半減するだろ!」

「……それはどうかなー?」


 しかしクロエには当てはまらない。土柱をすいすいと潜り抜け、瞬く間にカムイの背後をとった。


「……っは!?」

「隙ありぃ!」


 クロエが手を獣化し、カムイの背中へと叩きつけた。かなりの威力があったようで、土柱は折れ、カムイはその先にある土柱まで吹き飛んだ。


「こ…のっ!」


 カムイが獣化し土柱をクッションにして吹き飛ぶ速度を緩和、地面へ爪を突き立てて勢いを殺した。


「ふっはっはっはー!カムイの魔術には驚いたけれどね、ボクは森の中でドランと特訓をしたんだ!木々を避けながら走るのと同じ要領、この程度お茶の子さいさいさ!」

「こっっんの、お前を止めるために必死に魔力操作覚えたってのに!」


 さらには土柱を足場にピョンピョン飛び回るクロエ。カムイは土柱を破壊しながら追うが、一向に追いつく気配が無い。


「……これ以上はいけないな」


 中庭をどれだけ破壊すれば気が済むのか。そろそろ周りを見ていない二人に灸を据える必要がある。


 ついでにこの大剣の使い心地も試そうか。特大剣のような大きさでない分、そして騎士としても相応しい戦い方を模索しなければ。


「……やはり剣は手に馴染む」


 大剣を抜き、両手に構える。そしてスキル【振動】を発動。足を地面へ勢いよく振り下ろし、衝撃波を引き起こした。


「え、うわわっ!?」

「うおっ!?」


 衝撃波は地を舐め、土柱を尽く破壊していく。カムイは持ち前の直感で咄嗟に地面へ腕を突き立てる事で吹き飛びはしなかった。しかし、クロエは足場にしていた土柱が突如破壊されたことに対応できず、ちょうど下にいたカムイと頭を打ち付けた。


「━━━━━━━!」

「ッッ……ッッッ!」


 言葉とは言えぬ叫びと声にもならぬ叫び。人間体になった二人は頭を抑えのたうち回った。


「お、おふ……あ、あれ?ドラン?」

「いつつ……ドラン、今のってお前の仕業だよな!?急になんだ!」

「……周りをよく見ろ」

「ああ!?周りがなんだってん…だ……」

「……あっちゃ〜…」


 ようやく気づいたようだな、中庭の惨状に。ベンチなどの設置物は破壊され、木々は折れ、さらには土魔術なぞ使ったことで地面は荒れ放題。


 庭師の方々が頭を抱えて失神するレベル。誠に申し訳ない。


「……熱くなるのは良しとしよう。燻りが冷めやらないのも理解した。それで、だ……そんなに暴れたいなら俺が付き合ってやる阿呆ども」

「あ…ドラン、落ち着いて?ボクたち反省したからさ。ね、クロエ?」

「お、おう。だからその剣2本下ろせよ。な?」

「……そうか、反省したか。だがそれに関しては、もう遅いんだよ」


 スキル【スーパーアーマー】【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】【痛撃】【振動】を発動。


「……たまには最初から全開でいくのもいいと思わないか?」

「いやぁ、適度に力を抜くのも?ボクはいいと思うけどなぁ〜?」

「……まあそう言うな。気絶程度で留めてやる」

「逃げろ!」


 カムイがスキル【急加速】を発動しその場を離れんとする。俺は【獣走】を発動し素早く回り込みながら、剣で切り上げた。


 大きく宙を舞うカムイ。跳躍すると、目の前で腹をさらけ出している奴へとクロス状に斬り払った。吹き飛び地面へとめり込むカムイ。それを見たクロエは獣形態へと姿を変えた。


「こ、こうなれば!久しぶりのドランとの本気の特訓だと思ってやるよ!」

「……ああ。武器ありの久方ぶりの特訓だ…来いよ」

「っ!?や、やっぱり怖いなぁ〜!」


 クロエが凄まじい速度で俺の背後へと回る。振り向きざまに大剣を振るうが、クロエは跳躍して反対側へと身を移した。


「はぁっ!」


 クロエの鋭い爪が俺の背を襲う。しかし俺は攻撃を食らいながらも片方の剣をクロエの眼前に勢いよく突き立てた。


「うわぁっ!?」


 驚き少々後ろへ下がるクロエ。その動きを待っていたんだ。


 俺はもう片方の大剣で突きを放つ。こめかみに突き刺さるかと思われたその攻撃は、クロエの顔前で止まった。


「……終わりだ」

「え、あ、あはは。やっぱり強いねドランはああああ!?」


 瞬間、突きで発動した【振動】による衝撃波がクロエを吹き飛ばした。誰が寸止めで終わると言ったよ。


 しかし、獣のように駆けずり回ったりはしなかったが機動力を削ぐ代わりに防御や攻撃の手数は確かに増えたな。特大剣を振り回す方が性には合っているが。


 俺は大剣を収め、目を回す二人を担ぐとその場を後にした。後で庭師にも軽く謝っておかねばな。


 はいそこ、止めなかったお前も悪いとか言わない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る