クロエの暴走?
「……これで今日の鍛錬は終わりだ」
「はーい」
ドランはそう言うと、気絶したカムイを抱き上げ屋敷の中へと入っていった。
魔闘会で強い敵に当たらなかったことで未だに火が燻ってるみたい。それを発散しようと、鍛錬中に必ずと言っていいほどドランに襲いかかるようになって、その度に地面に沈められているんだ。
前まではパワーとタフさでドランに攻勢を掛けれたカムイだけど、最近習得したスキル【振動】のせいで攻撃を崩されちゃうみたい。
踏み込み、腕の一薙ぎでいちいち衝撃波が辺り一面を吹き飛ばすようになっちゃった。ドランは大振りの攻撃を多用するから、そこを躱して隙を突くのが主な攻略法だったのに……それまで潰されちゃあ酷いものだよ。
まあそんなことは正直どうでもいいんだ。問題はその後だよ。
「んあー、いいなぁ…」
さっきのように気絶させられたカムイは、ドランにお姫様抱っこされて部屋に運ばれる。
あれは人間にとっては特別なものだということは知ってる。本で読んだ。
ドランにはまったくその気が無いのも知ってる。今までは頭を掴んで引きずってたもの。
騎士になるために今までのガサツな行動を改める』とか言って、真摯な行動を取るのだとか。
「……よし、頼んでみよ!」
思い立ったが吉日、いや即行動しないとね!すぐに動けなければ死ぬ、自然の鉄則だ。
「善は急げ。ドランを追いかけ…てぇっ!?」
あれ、なんか身体浮いてる。というかなにかに躓いた?それに真下にドランが置いてた器具が……。
「やっば」
眉間を襲う衝撃。それは人間体だったボクの気を刈り取った。
「………………」
軽く足で転がしてみる。額にたんこぶを作り、目を回したクロエの顔が現れた。
「……馬鹿だろ、お前」
一部始終を、俺は全て見ていた。何も無いところで躓き、俺の器具……ではなく、その横にあった大きめの石に頭を打ち付けていた。
出しっぱなしだった器具にぶつかったなら罪悪感も覚えただろうが、この状況には呆れてため息も出ない。
「……思えば、前々からどこか抜けていたな」
俺は部屋に運ぶため、クロエへ手を伸ばすのだった。
「ハッ!?」
あれ、ボク何やって……あ、そういえば転んで気絶したんだっけか。
「あれ、でもここってボクの部屋……まさか!」
ボクは跳ね起きて部屋を飛び出した。どうせドランのことだ、書斎で勉強でもしてるに違いない!
「クロエ様。廊下を走るだなんて、はしたないですよ」
「ごめーん!」
廊下の途中でメイドさんに注意されたけど、今はそれどころではないのです!だから軽く謝罪の言葉だけを通り過ぎざまに送らせてもらった。
「まったく……それにしても、はぁ…なんてかあいいの…」
何か聞こえた気がするけど、一秒後にはボクの頭からは消えていた。
「ドラーン!」
書斎の扉を開ける。中には予想通りドランが本を積み上げて読み耽っており、ボクの方へ目線を寄越した。
あ、これはうるさいって感じの目線だ。
「……頭大丈夫か」
「その言い方は誤解をうむということをお分かりかな?」
「……ワザとだ」
「だよね、知ってた。ってそれよりも!ボクを部屋に寝かせてくれたのってドラン?ドランだよね!?」
「……ああ」
「やっぱり!」
なんということだ!気絶していたのが残念でならないよ!
「むふふ。やっぱり優しいなぁドランは。もほほ」
「……優しい、か。俺はお前の醜態があまりにも見てられなかっただけだ」
「醜態って、酷いなぁ。ドランが器具を出しっぱなしだったのもいけないと思うよ〜?」
「……勘違いしているようだがな」
「え?なにさ」
「……お前は俺の器具ではなく、地面に埋まってた石で気絶したんだ」
「………ほ?」
「しかも何も無いところで転けていたな。カムイが見ていたら大爆笑していただろうさ」
「ほ…ほえ……」
「……その時は、俺は片手が塞がっていたからな。少々手荒だが、担がせてもらったぞ」
「ほあ、ほあああ!?待ってストップ!それ以上は言わないで!!」
え、つまりはどゆことさ。ボクが勝手に転んで、頭打って気絶して、しかもドランの言い分だと見られてたってこと!?
それにボクを担いだって……!
「そ、そんなぁ……カムイみたいに、お姫様抱っこしてもらえたって思ったのに……」
「……お姫様抱っこ?」
「うん。カムイはいっつもそれで運ばれてるし、ボクもして欲しかったんだよぉ…!」
「………………」
地面にへたりこんでしまった。ため息が止まらない。さっきまで凄く舞い上がってたのもバカみたいじゃないか。
「はぁ……ん?ドラン、どうしたの?」
「………………」
「え、ちょ、わわっ!?」
背中と足に手を回されて、抱き上げられた。あれ?これって……。
「……まだ腫れは引いてない。さっさと寝て治せ」
「……うん!えへへ、ドランやっぱり優しいなぁ」
「……このまま落としてやろうか」
「わわわ、待って待って!力緩めないで!ボクが悪かったから!」
もう、素直じゃないなぁ。思えば、森の中でもそんな時あったなぁ。あの時は素直に撫でてくれたりしたけど。
ドランは部屋まで運んでくれた。ベッドに下ろしてくれると、そのまま部屋を出ていこうとする。
「あ、待ってドラン」
「……まだ何かあるのか」
「えっとね、あの時みたいに撫でて欲しいなって」
シリューとの決戦日、ドランは未だに固くなっていたボクの頭を撫でて落ち着かせてくれた。
あの時以来、撫でてもらってない。ドランに撫でられるのは好きなんだ。
「……構わない」
「えへへ、ありがとう。それじゃあボクが寝るまで、よろしくね」
「……ああ」
鍛錬によってゴツゴツした手がボクの頭に乗せられる。うん、この不器用ながらも労わってくれてる感じが良いんだよね。これでも上級の魔物だから硬さも強さもドランぐらいがちょうどいいし。
「んむ……ドラン…」
「……なんだ」
「えへへ…大好き……」
「……そうか」
ゆっくり瞼が閉じていき……やがて心地よい微睡みに、ボクは身を委ねるのだった。
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