新たな武具を求めて

 少年を介抱した後、俺はクロエ・カムイと合流。帝王様に外傷はほとんど無く、一度帰城し日を改めて事件の収束と魔闘会の中止を発表するという。


 俺は両親の安否を確認した後、帝王様の勅命により帰城の護衛を言い渡された。そのまま玉座の間にて、クロエ・カムイ共に帝王様に謁見している。


「ドラングルよ。そこな魔物2人と共によくぞ、深淵の眷属と悪魔を打ち払ってくれた。未曾有の危機を脱した此度の働きは、一軍を退けた事に等しい物である。よって褒美を取らせよう。欲する物を言うがよい」

「……身に余る光栄です。では不躾ながらも一つだけ願いをお聞きいただきたく」

「ふむ、一つか。申せ」

「……先の上級悪魔、封魔シルドロックとの戦いにより用立てた剣を失ってしまいました。そのためどうか、頑丈で巨大な剣『特大剣』を賜りたいのです」

「ほぅ……『特大剣』というと、お主が魔闘会にて使用していたあの武器のことだな」

「……ご存知の通り、私は魔法が使えません。そのためスキルによる身体強化で戦闘を行います。巨大な武器は相性が良く、しかしこの時世では金銭面も機能面でも良質な物は入手しづらいのです」

「なるほど……うむ。その願い、きっと叶えよう」

「……ありがとうございます」


 これでもあの特大剣には屋敷一つの値段がかかったのだ。あれほどの巨大な武器を作れる鍛冶師の少なさ、材料の量と質、取り扱う店も知る人ぞ知るのみの裏方。


 値段は当然釣り上がり、結局前回は自分のみの力では手に入れられず、父上に藁にもすがる思いで頼んだのだ。


 結果は1日ともたずに破壊されてしまったわけだが。


「しかし、てっきり騎士の爵位を賜りたいと言うかと思っていたのだがな」

「……今回の件で私の実力がどれほどかは理解いただけたかと。しかし、騎士として覚えるべきものは数多い。以前の話の通り、まずは騎士見習いから始めさせていただきたく」

「ほう。お主にとって、軽々しくも騎士になることは忌むべきものだと」

「……はい。騎士とは国を守る盾であり、国に迫る敵を討つ矛。騎士の装い振る舞いで国の品格が問われます。対し私は確かに力を示しましたが、殴る蹴る叩き付けると野蛮な戦いでした。最低限の抑えと静の動きを覚えなければ、騎士になる事などとても……」

「おお、なんと立派な心意気か…!」

「これほどの気概を持つ者はそうおるまい!」


 他の重鎮の方々も口々に俺を讃えてくれる。しかし、長年様々な負の感情を向けられて来た俺は、その目の奥に秘められている感情を敏感に感じ取った。


『恐怖』『侮辱』の念。


 魔法すら使えない''できそこない''。しかし珍妙なスキルを使用して上級悪魔を叩き潰す。さらには後ろに付いている二体の上級の魔物。


 良い感情を向けられることはないだろうと思っていたが、まあ仕方がないか。魔法は庶民ですら扱える日常に無くてはならないもの。それが大した取り柄も無い小貴族、エンドリー家の跡取りともなれば。


 それでもその''なりそこない''がいずれ騎士の爵位を持つことを良しとし、この場で帝王様に黙って肯定の意を示すのは流石といったところか。


「よかろう。こちらも受け入れ準備を整えたい。また追って報せを送る故、下がってよい」

「……はっ!」


 許しをもらい、俺はクロエ・カムイと共に退室した。


「はぁ、やっっっと終わりかぁ。肩凝るし眠いしで大変だったなぁ」

「そうだね〜……はぁ、お家帰ったら少し寝ちゃおうかな」

「……帝王様の前だ。あれぐらい我慢してもらいたいんだが」

「でもよ、オレたちは魔物だぞ?人間の統治者に、しかもオレたちより弱い奴に頭下げるのがなぁ…」

「だが俺と『愛玩の契約』を結び、確かにこの帝都で暮らしているんだ。その辺りはわかっているんだよな?」

「まあなぁ……」


 俺たちは城を出て、屋敷へと真っ直ぐ帰る……事はせずに、人気の少ない路地へと入っていく。


「んあ?なんでこんな所に来るんだ?」

「カムイ……ドランが新しい武器を探すって言ってたじゃないか」

「あ、そうだった。だけどあの王様にくれって言ってたろ?」

「……その間、鍛錬はどうするつもりだ」

「あ、そーか。支障が出るよな」


 やがて小さな店に辿り着く。俺は扉を開けたりせずに、軽くノックして客が来たことを知らせる。


 扉に付いている小さな窓が開けられ、こちらの顔を確認される。次いで鍵を開ける音と共にゲントさんが扉を開け現れた。


「ようドラン。武器が入り用か?」

「……今回の敵は手強かったので、特大剣がお釈迦になりました」

「うっわ、かなり頑丈だったはずだが……ってか、誰だそこのお二人さんは」


 ああ、クロエとカムイの紹介を忘れていたな。さすがは武器を扱う商人と言うべきか、2人の実力を見抜いたのか少々距離を取り何時でも逃げ出せる用意があるようだ。


 といってもゲントさんの速さでクロエに敵うかと言われればNOを叩き付けるが。


「……俺と契約を結んでる魔物だ。言葉も通じるし、勝手に暴れたりしない」

「怖くないよ〜」

「ねみぃ……」

「……らしいな。ならいい、中に入りな」


 店内に入ると、前回よりも品数を増やしたのか様々な武器が揃っているのが見てとれた。内装も変わっており、少々広いスペースができている。


「どうせデカくて頑丈な奴って言うんだろ?」

「……お察しの通りで。今回は二つほど買おうかと」

「ふむ……特大剣は生憎もう無くてな。今のところお前に合いそうなのは剣槍・グレイブ・大斧2種・大剣・大槌と言ったところか」

「……前回の二本は?」

「ありゃもう売ったよ。鉄が足りねぇってんで二つと他にも色んなものを貴族様が買ってった」

「……そうですか。振ってみても?」

「おう。そのためにあそこに場所空けたんだ」


 俺はまず剣槍を手に取った。俺の身の丈程の長さがあり、その半分近くが両刃の剣となっている。槍の持ち手は中々しっかりと作り込まれているようで、太く重い。しかし長いため引くもよし振り回すもよしだ。


 次にグレイブ。これも槍の先端が斧のような片刃となっており、斧槍に近い。これもまた突くも薙ぎ払うもよしだが、剣槍と比べると扱い勝手の良さを重視しているため威力は落ちる。


 大斧は両手斧と片手斧があり、両手斧は槍のような長さに先端の巨大な斧での破壊力がある。片手斧は両手斧ほどの大きさは無いが、超至近距離でも対応はできそうだ。しかし両手斧の方が威力は上だろう。


 大剣は二本あった。片手ずつ持って振り回すも振り下ろすもよし。しかしこの二振りを買うならば、他の武器は買わず特大剣完成を待った方が良さそうだ。


 最後に大槌。剣槍やグレイブなどと比べると振り回しにくいが、先端の大きな鉄塊は刃とは違った破壊力がある。スキル【振動】などとは相性が良さそうだ。


「どれにする。どれも重さ威力共に中々のもんだ」

「……ふむ」


 どれもこれも良さそうだ。ふむ、これは悩むな……。


 しばらく熟考した後、俺は武器を二つ選んだ。


「よし、なら後日家に届けるよ。ロブから話は聞いてる。金はアイツから貰い次第送るよ」

「……ありがとうございました」


 店内をウロウロしていたクロエとカムイを連れ、俺は礼を言って外へ出る。さあ、少し鍛錬で身体を整えつつ連絡を待つか。

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