ドラングルvs封魔シルドロック

 森での死闘を終え、鍛錬を再開した俺はスキルを二つ獲得していた。


 一つが先程も発動させていた【痛撃】だ。これの効果は攻撃によって相手の内部へ与えるダメージを倍増させるというもの。自身が一月以内で定められた痛みを蓄積させると獲得できる。


【痛撃】を発動すれば脳や内蔵へのダメージが上がり、戦いも決着がつきやすい。


 しかしこの悪魔、封魔シルドロックとやらは大して怯みはしなかった。代わりに感じる魔法力が減少したことから予想するに、魔法力を犠牲にダメージを受けるか逸らすかしているのだろう。


 しかし、奴が放った攻撃はその全てが魔物の扱う魔術。使用されたのも魔法力ではなく魔力だった。


 つまりは身代わり。宿主をダメージの捌け口にして自分は助かっているということだ。


 しかしこれに怒っている暇はない。考えるべきはどうやって悪魔を倒すか。


「……少々厄介だな」

「ォォオオオッ!」


 動かない俺に痺れを切らしたのか、シルドロックが爪に火炎を纏い突進してくる。俺は爪の軌道を読み特大剣で受け止めた。


「……む」


 巨体らしくその力は強く、そこそこの衝撃が俺の腕を震わせた。しかし俺が反応したのはそこではない。


 ジュウウッという音とともに特大剣が溶かされていく。どうやら爪に纏っている火炎ら凄まじい熱を秘めているようだ。俺は受け止めていたシルドロックの腕を蹴り上げると、すぐさま距離をとった。


 爪とせめぎ合っていた特大剣は半ばまで歪み、欠けている。これではもう使えまい。魔闘会のために父上に買わせたというのに、短い命だったな。


 スキルは基本、装備している武器防具にまで効果は及ばない。あくまで獲得した人にのみ作用するのだ。


 そのためにスキル【状態異常無効】の効果が特大剣には及ばず、その熱を防ぐことが出来ていなかった。先程の熱戦を受けた時も、俺の纏っていた服が焼かれ今や上半身が剥き出しとなっていた。魔石などの特別な素材を使用した得物であれば話は別だが、生憎この特大剣は普通の鋼のみを素材としている。


 これからは最低でも武器を2本、後は着替えを持っておいた方がいいかもしれない。また父上に買わせるか。


 さて、もはや使えない剣はもう要らない。短い間だったが、お勤めご苦労様だな。


 俺はひん曲がった特大剣を大きく振りかぶり、シルドロックへとぶん投げた。


「ォオッ!?」


 咄嗟に腕から火炎を出し特大剣を焼き溶かす。しかしその火炎を突き破って、俺は跳躍の勢いのままにシルドロックの顔を掴み壁へと叩きつけた。


「……む?」


 ふと違和感を覚えたのと同時に、俺の身体を奴が掴みぶん投げた。空中をクルリと舞い着地すると、奴は手を地面へ叩きつけ魔力を放出する。


 上級炎魔術『フレアストーム』


 地面から次々と火柱が噴き上がった。不規則に発生するものとこちらを狙ったものが数本。下手に躱すのは危ない。しかし動かなければいずれ火に飲まれるだろう。


 ではどうするか?そう、躱さなければいい。


「……この手に限る」

「ォォオオオッ!?」


 火柱にぶち当たろうが全く意に介することなく強引に突貫。さらにはスキル【獣走】を発動し不規則に左右へ飛びながら迫った。素早い動きと火柱で視線を切り、相手の虚も突ける。


 尽く火柱に被弾するが、所詮は魔術。我がスキル【スーパーアーマー】【魔法防御壁】【状態異常無効】の前では威力に優れた上級も形無しだ。


 シルドロックは両手に火を点しその場から動かない。魔術の発動が切れるか俺が姿を現す時を待っているのか。たとえ不意打ちを受けたとしても耐えられると踏み、カウンターを狙っているらしい。


 やがて火柱の噴出が収まり視界が確保される。周囲へ目を走らせ、手に点す火を束ね熱線を放とうとするシルドロック。


「オ……?」


 しかし俺を視界に捉えることはできなかった。俺は十分接近した後、火柱で姿を隠しながらスキルを発動し高く跳躍したのだ。俺は奴の頭上で大きく足を振り上げている。


「……どこを見ている、木偶の坊!」

「オゴッ⁉」


 スキル【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】【痛撃】……そしてもう一つ、【振動】を発動。


 かかと落としがシルドロックへと突き刺さった。それと同時に衝撃波が発生し奴の全身を地へと叩き付けた。


 スキル【振動】。種別を問わず『力』を用いた行動に合わせ揺れを発生させる。魔法を撃てばその方向へ魔法の属性を伴った魔法力の波動が放たれ、敵を殴れば相手の体内を揺らす。『力』の大きさにその威力は比例し、一定のラインを越えれば衝撃波を発生させるようになる。一定以上の力で何かを揺らすことが獲得の条件だ。俺はあの森でカムイと決着をつけた際に獲得した。


「オオ…ゴ…」

「……やはりか」


 ダメージでふらつくシルドロックを見て俺は確信した。


【獣走】を発動し、シルドロックへと迫る。奴も迎撃せんと炎爪を振るうが、俺は紙一重で躱し股下をくぐり抜ける。そして跳躍、奴が振り向くと同時に頭上を飛び越え背後をとった。


 スキル【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】【痛撃】【振動】を発動。


 勢いよく踏み込みシルドロックの背を蹴り飛ばす。さらに追撃を加えるべく跳躍し、壁に顔を埋めた奴の後頭部へ飛び膝蹴りを叩き込んだ。


 壁一面に亀裂が入り一般観客席にまで広がっていく。しかしまだ終わらない。力の抜けたシルドロックの足を掴み引き抜くと、その勢いのまま地面へと叩きつける。仰向けに倒れた奴へジャンプし手を組んで振り下ろした。


 奴の目がこちらを向く。それと同時に魔法力が発動した。俺はすぐさま【振動】を発動。組んだ手を離し横へ薙ぐことで衝撃波を発生、奴の上から離脱した。


「……なるほど。俺の攻撃を認識し魔法力を発動させねば身代わりは出来ないと」


 先程までの攻防で、奴の死角から攻撃を叩き込んだ際に魔法力の活動が感じられなかった。そして身代わりをした際にはダメージを受けた様子は見せなかったというのに、明らかに顔を歪め身体にも傷がついている。


 つまり奴を欺ければ、こちらの攻撃は宿主である少年を打つことは無いということだ。団長や他の参加者たちに使わなかったのは『封印』の力があった故か。


 種がわかればどうとでもなる。そして俺がカラクリに気づいたことを察したのだろう。膨大な魔力を畝らせ空へと羽ばたいた。


 その両手に魔力が集中する。それはやがて火球を形作り、たちまちこの闘技場を飲み込めるほどにまで膨張した。


「……危険視。目障りな俺ごと目的を果たそうというわけか」


 敵勢は帝王様と二大騎士団長の抹殺を狙っている。簡単には倒れない俺に余裕を絶たれて大きく出るつもりらしい。


 俺は勢いよく地面へと片腕を差し込み、スキル【獣走】と【振動】を発動。素早く一周すると、もう片方の腕も突き入れ力を入れて引き上げようとする。


 スキル【スーパーアーマー】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】発動。もちうる全力を持って腕を上げる。


 やがて地面は円状に入った亀裂で分かれ、巨大な岩石となって引き抜かれた。俺が岩石を上へ放り投げるのと同時に火球が発射される。


 最上級炎魔術『ギガフレア』


 火球から紅炎が幾つも降り注ぎ、それは岩石を溶かしていく。やがて火球と衝突し、岩石はドロドロに溶け少しばかり勢いを削ぐのみに終わった。


 しかしそれで充分。スキル【魔法防御壁】【状態異常無効】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】【振動】を発動。


 地面に少々埋まるほどに踏み込み、火球へと跳躍。元から発動している【スーパーアーマー】と【魔法防御壁】【状態異常無効】によって紅炎を受けながらも、大きく右腕を引き絞った。


 今ある全力を込めて、腕を振るう。力は【振動】によって衝撃波へと変換され、拳圧は風の砲弾となり火球と衝突。その中心をくり抜き、巨大な爆発を引き起こす。さらにはその先にいるシルドロックに直撃。空高く吹き飛ばしたのだった。


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