おさまらぬ怒り
正直、俺は怒り狂っていた。
以前に俺は帝王様とお会いしたことがある。その時はまだ幼子であり、オーファン様へ5歳となり初めて己の意思でお祈りを捧げる儀式をするために、両親と神殿へ赴いた時だった。
すでに俺の噂は広まり、周囲からとても人間に向けるものではない視線をあびせられた。
そんな中、偶然にも神殿へ来訪していた帝王様が現れた。エンドリー家は古くから仕える家であるためにお声をかけてくださり、なんと俺を周囲の目も気にせず抱き上げてくださったのだ。
俺を抱き上げる姿を衆目に晒すということは、''なりそこない''の俺を受け入れることを意味する。これにより直接的な被害は目に見えて減っていった。
あれが無ければ、とうの昔に殺されていてもおかしくはなかった。【スーパーアーマー】と巡り会えたあの事件も、結局は子どもと下っ端の行ったこと。そして積もりに積もってしまった激情も森の一件で砕かれた。
今や俺に直接的な害を与えようとする者はいなくなったが、それも帝王様があればこそ。
昔、父上は言っていた。『帝王様を守ることは国を守ること。王なくしては国は成り立たず、民が如何なる心情を掲げようと王の代わりを立てねば国は成り立たぬ』と。
故に、俺は騎士となった暁には命に変えても帝王様をお守りすると誓っていたのだ。
そして今だ。帝王様に仇なす者がこの闘技場にいる。そのためにクロエとカムイにも頼み徹底的に叩くつもりでいた。
カムイからは通信の魔道具で戦闘に入ったことがわかっている。クロエからはすでに『確保』の信号はもらった。
であれば、もはや渋ることは無い。存分に出て、暴れてくるとしよう。
俺は熱戦によって穴が開けられた上階から、他のトーナメント参加者たちと怪物が戦いを繰り広げる場内へと飛び降りて行った。
まさに絶体絶命である。魔法を封じられた参加者たちにはなすすべがなかった。
ロザリアの疾風も、グルドの搦手も、ノルエーマンの反射も、サランサの超火力も、そしてハイとロウの手腕も発揮されることは無い。
「ああ、まったく……嫌になっちまいますよホント」
「魔法封じるとか反則でしょ……」
できることと言えば封魔の攻撃を必死に避けること。しかし普段激しく動くことなどない彼らには、積み重なる疲労による倦怠感で動けなくなってきていた。
手に炎が宿る。熱戦の兆候に皆が射線から逃れようとするも、疲れきった足では動くことが叶わなかった。
その時、何かが凄まじい勢いで悪魔の前に降り立った。着地の際に砂埃が舞うも、背負った特大剣の一振りで払い除ける。
「君は…ドラングル、くん?」
この戦場で唯一対抗の手段を軸とする、ドラングルが特大剣を構えていた。
この悪魔が、カムイの言っていた封魔シルドロックとやらか。
いざ敵を前にして、湧き上がるのは怒り。ただそれだけが俺の内を焦がしてやまなかった。
俺がこの大会に出場しているのは、俺が騎士になるに相応しい実力を持つか否かを審査するためだ。
故に、この大会では魅せる必要があった。手札を見せず、強敵に当たった際に持ちうる手段を使いインパクトを与えるのが目的だった。
だと言うのに。結局大会は不埒者どもが掻き回し、もはや審議どころではなくなってしまった。
敵となりうる者共に手の内を知られぬよう、慣れぬ戦法まで用いてまであくまで身体能力の高いだけの一参加者と思わせ、こちらの行動に注視させない必要があった。
結果、台無しだ。こちらが動きを見せていない内にトンズラしていれば良かったものを、敵は俺を見なかったが一気に攻勢をかけてきてしまった。大会で実績をあげ、実力を示すという目論見が全てパーだ。
「……ォオ…ウオオォォオオオッ!!」
内にあるものを飲み込まず、叫びとしてぶつける。騎士にあるまじき行為であろうが、もはやこの激情を抑えることが困難。俺の怒りを叩き込んでやる。
「……もはや隠す必要も無くなった。このふざけた騒動を終わらせる。照覧あれ、ここに我が力を示しましょう」
シルドロックとやらに向き合い、特大剣を構える。悪魔もまた咆哮を放つも、今の俺にはちっとも響かない。いや、さらに怒りを増幅させた。
「……強大な悪魔?笑止千万」
「……不敬者が。我らが崇めるはオーファン。そして、ベテルギアス様は祝福を受けし帝王である。ところ構わず破壊の限りを尽くす貴様が喰うには上等すぎるわ。ぶをわきまえろ、下郎っ!!!」
足を振り下ろし地を揺らす。シルドロックは途中であった熱線を再び展開。俺へと放つ。
スキル【スーパーアーマー】【魔法防御壁】【状態異常無効】発動。
俺は真っ向から熱線の中へと飛び込んでいく。灼熱の奔流を突っ切って十分な距離まで接近した後、跳躍。
スキル【スーパーアーマー】【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】【痛撃】発動。
未だにとぼけた面をした悪魔の頭頂へ、俺は全霊をもって特大剣を振り下ろした。
地面へと埋まる悪魔。出だしは好調、ダメージもカムイの打撃といい勝負。ここからが本番だ。存分に暴れさせてもらおう。
「ォォオオオオッ!」
「ウオオォォオオオッ!」
頭を引き抜いた悪魔が咆哮する。俺もまた雄叫びをもって応えた。さあ、俺の怒りをたらふく食ってもらうぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます