ダークホース

 40余命によるバトルロワイヤル。どこにいようと誰かの目についてしまうこの試合では、真に強いものたちだけが生き残る。


 周囲の状況、敵の体勢、その他全ての情報を更新しながら自分の戦いに集中する。


 それは並大抵の者ができることではないが、流石は帝国最強を目指す者たち。横槍を軽く捌きながら魔法の撃ち合いを並行している。



 私は第4ブロックのため、共通控え室にて投影術による映像を見ていた。


 魔法が飛び交う闘技場の様子は、もはや一種の戦争とも見まごうばかりの苛烈さを私たちへと見せつけていた。


「毎度の事ながら、バトロワはキツいなぁ」

「そうだなぁ……一体一の方がまだ楽だ」


 画面の近くにいた参加者たちが呟く。バトルロワイヤルでは、相手がどれほど強くとも勝算がついてしまう。


 仲間をつくり、数で押しつぶすもよし。死角からの強烈な一撃で、場外に出すもよし。


 人数が多ければ多いほどやり方は増える。それがトーナメント戦では通用しないため、運良く勝ち上がった者は結局敗退することになるのだが。


 それでも、強者をバトルロワイヤルで倒すことができるのは大きなステータスとなるため、格上だろうと果敢に挑む者は少なくない。


 まあ、そう簡単に倒されてくれるほど甘い者などいないが。


 第1ブロックの試合はしばらく大した動きがなかったが……ふと、気になる人物を見つけた。


 齢15にも満たないような少年。フードの付いた黒いローブを纏っていたためにその姿はわかりづらかったが、明らかにこんな大会に出るような歳ではない風貌だ。


 体の動かし方もぎこちなく、魔法もほとんど使っていない。なぜこの大会に参加できたのだろうか。一般参加の者であれば、応募の際に軽く審査を受けているはずだが。そもそも受付が参加させるとは思えない。


 つまり考えられるのは……貴族の紹介。あの少年は貴族お墨付きの参加者なのだろう。戦いぶりを見たところ実力はそこまでとしか思えないが。


 そう思いながらしばらく見ていると、少年に変化が起きた。


 突然頭を抑えたかと思うと、少年の周囲に炎が発生した。恐らくは少年の魔力が炎の属性に変換されているのだろう。しかしかなりの勢いだ。大量の魔法力が消費されているのは目に見えて明らかだ。


 炎は少年へと収束すると、次の瞬間、爆発的に舞台へ広がった。その爆風に吹き飛ばされ、または炎に追い立てられ凄まじい勢いで参加者たちが退場していった。


 参加者たちには『身代わりの札』という物が支給される。怪我を肩代わりしていき、完全に破れると自分の控え室へと転移させるという物だ。


 そのおかげで、退場していった参加者たちに怪我は無いだろう。もしなければ、瀕死の重症を負っていた者も少なくなかった。それほどの、威力。


 少年は膝をついたものの、なんとか自分で立ち上がった。残った者たちは炎に阻まれ、少年へと近づけない。そのため他の生き残った参加者たちへと攻撃を始める。


 生き残った参加者も少なかったため、勝ち上がる4人はすぐに決まった。


『バトルロワイヤル第1ブロック、これにて終了です!初戦から大波乱!これは大会の行く末もわからなくなってきました!』


 司会の声が響き、歓声が上がった。


 まさかあんな戦法を使うとは……だが、あれはかなり消耗する大技だろう。そう頻繁に放てるものでもあるまい。なら、私には脅威足りえない。むしろ次の試合の方に注目すべきだな。


 無人になったリングに、第2ブロックの参加者たちが入ってくる。その顔ぶれの中に、前年度優勝者、ハイの姿があった。

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