歓迎パーティ

 さて、どこから話したものか。


 とりあえず、俺たちは無事にギアルトリアに帰ることが出来た。


 オーダム殿を屋敷へと送り届けた時には、ボロボロの格好をした俺が男爵様を抱えていたもんだからあらぬ誤解を招きそうになった。


 仕方ないよな、主人が汚らしい男に背負われているんだから。


 そこへナイトベアの殺気が放たれたもんだからさあ大変。オーダム殿の屋敷から武装した人々が出てきて囲まれるという事態になってしまった。


 他ならぬオーダム殿の言葉で事なきを得たが、危うくナイトベアによる大殺戮が起きるところだった。


 敵意を持つ相手に殺気を出すのはやめて欲しいものだ。ナイトベアは上級中段の魔物、素人であれば殺気だけでも失神してしまうほどの重圧があるのだから。


 その後は、エンドリー家の屋敷へと真っ直ぐ帰った。久しぶりの我が家に少し心が揺れ、目頭が熱くなったな。


 父上と母上が俺の姿を見た瞬間に抱きしめてきたのは予想外だった。川での水浴びがあったとはいえ、こんなにボロボロの俺に躊躇なく接近してくるとは思わなかったぞ。


 そこまで心配をかけていたこと。反省しなければな……騎士は、守るべきものを不安にさせてはならないのだ。


 必ず勝ち、必ず生き残り、必ず守る。


 それが、俺が目指す騎士の姿。世の地獄から見出した理想なのだ。




 さて、先刻のおさらい兼現実逃避はこのぐらいにしておこう。


 俺の目の前にはニッコニコの2人と大量の料理。使用人たちは未だに料理を運んできており、かなり忙しそうだ。


 無論、満面の笑みを浮かべているのは俺の両親。


 仕事の際は厳しい、しかし家族と触れ合う時は甘々な父上。黒髪黒目の典型的な貴族の容姿だ。


 ふわふわとした柔らかい雰囲気で周囲を癒す母上。魔法力の所有量が多いため、金髪なのが特徴だ。俺も金髪なのは母上の遺伝……所有量が低いのはなぜなのだろうか。


「ドラングル、よく無事に戻ってきてくれたな。私は嬉しいよ」

「あなた、久しぶりの会食なのですから泣かないでください。湿っぽくなってしまうわ」

「どの口が言うのだ、そういうお前も涙を流しているだろうに」

「あらイヤだわ、わたくしったら」


 俺に鉄仮面を教えてくれた時の父上は影も形もない。母上も笑顔のまま涙を流すとは、本当に俺の事を大事に思ってくれているんだな……。


「そういえば、なかなか引き締まっている顔をしているじゃないか。良い経験を得たのだな」

「ええ、身体の方も出ていった時よりも細……くはなってないわね。筋肉がついて、逞しくなっているわ」

「……森に着いた時にトラブルがあったからな。何もかも無くして、サバイバルをするしかなかった……自然に身を置けば、こうもなるさ」


 贅肉など無い、自然の中で鍛え上げられた肉体。森に出る前の鍛錬を再び始めれば、さらなる強度を手に入れることだろう。


 食堂の扉がノックされた。入ってきたのは執事長のスティーブ。長い間エンドリー家に仕えており、歳のせいかたまにボケ始めるのが難点だ。


「失礼致します。クロエ様とカムイ様をお連れしました」


 スティーブと共に入ってきたのは、蒼いドレスを着たクロエと薄紫のドレスを着たナイトベアだった……ん?


「どう?似合うかな、このドレス」

「こんな動きにくいもん、人間はよく着れるな。今すぐにでも引き裂きたいくらいだ」

「……やめてくれ。2人とも似合っているぞ。それにしても……カムイ?お前、ネームドだったのか?」

「いやぁ、種族名だと何かと不便だからってクロエがつけてくれてさ」

「えっへん!ボクのネーミングセンスがバッチリと輝いたね!」

「……そうか、いい名を貰ったな」

「おう!」


 確かに、街中でナイトベアなどと呼べないしな。しかし、コイツがネームドになったことで、さらに強さを増したことに気づけていないようだ。


 どんどん手がつけられなくなっていくなぁ、お前は。


「さあ、座ってくれ」

「ぜひドラングルの様子を聞かせてもらいたいわ」

「はいっ!」

「あい」


 2人は返事をすると、俺の両隣の席を確保した。おいおい、これでも貴族だぞ。そんなことしたらいくら温厚な両親でも……。


「うむうむ、エンドリー家の未来は安泰だな」

「あらあら、うふふ」

「……ダメだニコニコしてる」


 なんでこんな簡単に受け入れてるんだか。ボロボロの息子が2人の女を連れてきたとか、普通は発狂もんだぞ。


「さて、まずは自己紹介といこうか」

「では、わたくしからしますね。わたくしはミーティア・エンドリー。ドラングルの母です」

「私はロブ・エンドリーだ。エンドリー家の当主を担っている。どうやらドラングルが世話になったようだな」

「あ、ええと、ボクはクロエって言います!ドランには、逆にお世話になったっていうか……鍛えてもらったっていうか…」

「オレはカムイだ。さっきクロエにつけてもらったばっかの名前だけどな。ドラングルには世話になったと言うよりも、殺しあった仲って感じだな」

「ああ、君たちが魔物だということも聞いているとも。だが、ドラングルがそばに置いているんだ……私たちは君たちを歓迎するよ」


 ……まったく、貴族らしくない。たとえ一時は敵だったとしても、この2人は信じるということに余念を持たないんだ。


 裏切られる可能性なんて微塵も考えたりしない……純粋な人種だ。


 危ういとはわかっている……それでも、2人にはこのままでいて欲しい。あらゆる悪意を浴びてきたからこそ、その眩しさに救われてきた。この2人は、死んでも守る……。


「さあ、楽しいパーティを始めるとしようか」

「森でのこと、私たちにお話してくださいな」


 俺の帰還祝い、そしてクロエとカムイを歓迎するためのパーティが始まったのだった。

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