キケンな魔闘会編

魔闘会への誘い

 広い、しかし貴族のものとしては小さめの庭で、俺は1人考え事をしていた。


 パーティが終わった次の日から、クロエやカムイを交えて森へ行く前の鍛錬を再開した。


 サバイバルによって筋力もスタミナもついた俺は、重りや回数をグレードアップし、【自動回復】によって何時間もぶっ通しでトレーニングできるようになっていた。


 おそらく一日中、休みなしで続けることはできるだろう。しかし、それだけはダメだと両親から強く禁止された。


 スキルがあるとはいえ、やはり心配してくれているのだ。


 ちなみにクロエとカムイにも同じようなトレーニングをさせてみたが、【自動回復】を持っていないせいで1時間あたりで潰れてしまった。


 できれば【自動回復】を持たせてやりたいが、そのためには全身に傷を作り、何度も何度も治療しなければいけない。


 さすがにそれは酷だろう。2人には別の……そうだな、長所を磨きつつ基礎能力を上げていく方針にしよう。


「……まったく、クロエはともかくカムイは今の俺よりも強いというのに。なぜ俺がメニューを考えなければならないんだ……」


 俺は立ち上がると、父上に買ってもらった上質な大剣を手に取り、素振りを始めた。


 今までこれといった武器を使っていなかったため、父上は様々な武器を購入してくれた。俺に合う武器は何か、その日のうちに試してわかったことがある。


 まずはスキルとの相性。俺は自身の力を高めるスキルを数多く持っているために、レイピアなどの細剣やロングソードなどの片手剣では強度が足りなかった。全力で振ってしまうとヒビが入り折れてしまう。


 俺の力に耐えられるような武器は大剣や大槌などの大きな武器に限られる。それでもトレーニング中に折れてしまうことがあるが、まだマシだ。


 それにしても、魔法が主流であるこの世界でよくこんな武器を見つけてくれたものだ。剣などの武器は少々たしなむ程度が普通。その分、力がないと扱えない大きな武器はその数と生産場所が圧倒的に少ない。


 俺のために探し出してくれた父上には、感謝してもしきれないな。


 俺は素振りをしながら少しずつ体勢を変えていき……スキル【獣走】を発動。庭の隅にある木へ迫り全力で大剣を振り下ろした。


「おっと!?」


 木が真っ二つに裂け、しかしその切っ先は潜んでいた者には届かず手前を通り過ぎた。牽制のつもりで放ったために当てはしなかったが、フードを被った侵入者は驚いた様子で後ろへ跳び下がった。


 かなり上手く気配を殺していたが、自然に身を置き五感を鍛えた俺にとっては、人間の隠密などお遊びだ。せめて草葉の匂いを染み込ませ、背の高い草むらに姿を隠さなければ意味はない。


「……何者だ。敵意を感じなかったが故に斬りつけはしなかったが……返答によってはこのまま斬り殺す」


 騎士団ですら戦闘は魔法一辺倒。戦争も魔法の撃ち合いのこの時代。その例に漏れず、細い身体と背に負う豪華な紅い杖。スキルも相まって身体能力は確実にこちらの方が上だ。


「……下手なことは考えるな。背の杖を取る、またはその手をかざそうとしてみろ。その前に俺の剣が貴様の首を落とすことになるぞ」

「ははは……まさか見破られた挙句、こうも追い詰められてしまうとは、私もまだまだということか」

「……余計なことを話すな。質問に答えろ」

「ああすまない。今日来たのはキミに良い知らせを持ってきたからなんだ」


 突如、背後に熱を感じた。すぐさま振り向きざまに大剣を振るうと、迫っていた中級炎魔法『ブレイズ』を両断した。そして侵入者へと剣を振ろうとするが、すでに俺の眼前に杖が突きつけられていた。


「死にかけになっていたあの時とは見違えたよ。だが、まだ詰めが甘いな」


 フードを脱ぐと、中から美しい紅色の髪が溢れ出し、凛々しい笑顔が姿を現す。帝国一の騎士団長、ヘレン・クリスティーヌ様その人だった。


「……申し訳ありません。このような無礼、弁解のしようもございません」

「いや、気配を隠し近づいたのは私だ。非は私にある。当主には連絡を入れていたのだが、森でのことを聞いてね。鍛錬中だと聞いていたものだから見てみたかったんだ。まさか看破されて窮地に陥るとは思ってもみなかったよ」

「……いえ、この身はまだまだ未熟。現に一瞬で攻守が反転しました。貴女様へ追いつくには未だ時間がかかりそうです」

「ははは!そう謙遜するな。魔法を使わずに私を追い詰めたのはキミが初めてだ。私に追いつくと宣ったのもキミが初めて……私はこれ以上ないほどにキミに期待している。これからも精進してくれ」

「……はっ!ありがたきお言葉にございます。ところで、さきほど仰っていた良い知らせとは…?」


 クリスティーヌ様は杖を背に戻し、焦らすように言葉を紡いだ。


「いや、私も忙しくてな。あの事件の後も事後処理などに追われていたのだ」

「……はあ…」

「それでやっと、つい先日王に報告の機会ができてな。キミのことも進言してみたのだ」

「……それは、ありがとうございます」

「ああ……それで、魔法を使えない者を騎士団に入れるわけにはいかないという話になったのだが……男爵の1人が進言してな。魔物を打ち倒し、自分の命を救ってくれたのだと。故に5日後、キミにはギアルトリア魔闘会に出場してもらう」

「……魔闘会ですか」

「そうだ。大会で良い戦いができれば、騎士としての教養を積ませヨルン騎士団に入れるという話になった。できればそのようなこともさせずに騎士にさせたかったのだが……」

「……いえ、これだけでもこの上なく嬉しいです。''なりそこない''と呼ばれる、魔法も使えない者にチャンスを与えてくれた、ありがたい限りです」

「そうか……大会出場者もかなりの手練たちだ。残りの日にちは、充分に準備するといい」

「……はっ。我が全身全霊をもって、期待に応えてみせます」

「うむ。その時を楽しみにしているよ。では、さらばだ」


 クリスティーヌ様は再びフードを被り、庭から出ていった。


 ギアルトリア魔闘会……この首都ギアルトリアで開かれる、マヌカンドラ帝国中から集めた強者を闘わせる大会だ。優勝すれば、騎士団長へ挑戦することができる。これに勝利すれば、帝国一の強者と名乗ることが許されるのだ。


 それに、ヨルン騎士団とはクリスティーヌ騎士団と並ぶ帝国の二大騎士団の一角。入ることができれば、素晴らしい経験を得られるだろう。


 俺のような''なりそこない''に、このような機会を与えてくださったクリスティーヌ様には感謝してもしきれない。


「……5日後か。魔法も使えない俺が良い戦績を出せば、父上と母上も喜んでくれるだろうか」


 せっかくの闘いの機会だ。存分に暴れるとしよう。

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