ナイトベア
「……お前だったのか」
「ハッハッハ!まさかオレを覚えていたとはな!」
「……なかなかに印象的な出会いをしたからな」
俺は小心者だったが、今では根性というものを身につけられたと自覚している。
森に入って、早々に命があと一歩で潰えるような経験をしたのだ。命のやり取りを早めに体験すれば嫌でも心臓は太くなる。思えば、よくあそこで迎撃の判断を下せたものだ。
今ではトラウマが呼び起こされて、焦りから冷や汗と心臓の鼓動が止まらないが。
「あの時、お前はオレにトドメを刺さなかった……それが聞きたくてよ?来ちまった」
え、そんなことで来たのか。だからってここまでのことをするか?というか、あのボロボロの男は俺のせいでやられてしまった可能性があるぞ?
「……刺す必要がなかったからな」
「つまり、オレのことは敵として見てなかったってことか。予想通りだな」
違う!トドメを刺すにも、俺の力が足りなかったんだ!右腕も動かなかったし、変に刺激を与えて復活させたくなかったし。
「初めてだったよ。敵としてもみられないなんて、生まれて初めてだったからな。悔しくて悔しくて……気が狂いそうだった。そこで気がついたんだ。オレが弱いから敵として見られない、なら強くなればお前は本気で戦ってくれるんじゃないかってな!」
そう来たか。目をつけられるのではと薄々勘づいていたが、先程の変な勘違いのせいでより悪い方向にいってる!
「だからよ、オレは魔物の魔力と人間の魔法力を求めた!なぜか人間が何度も来たからな……おかげで進化するための力はすぐに溜まったよ」
「……人間の魔法力も進化に使えるのか。初耳だな」
「ああ、オレも驚いたよ。人間殺して、癖で心臓抉りだして食ったら魔力が溜まるのと同じ感覚があった。まさかと思ったが、本当に進化に使えるとはな。しかも魔法力を取り込んだおかげか、人型になることもできるようになった!」
魔法力を魔物が取り込んだ例はない。まさか人の姿をとれるようになるとは……!しかも進化をしているときた。これは苦戦を強いられそうだ。
中級中段以上の魔物は進化をすることができる。その条件は2つの種類に分かれており、1つは体を変化させるために必要な魔力を得ること。だいたいはこの条件だけで進化する魔物が多い。
そしてもう1つは、火に包まれながら魔力を摂取するなどの特定の条件を満たすこと。この条件を満たせば特殊な魔物に進化できる。
例をあげると、リザードマンが腹を空かせ洞窟内に生えていた結晶を食らったことで、クリスタルガーゴイルへと進化したという出来事があった。
「グレーターグリズリー、それがオレの元の種族だ。そして、進化した今のオレはナイトベア!オレは強くなったぞ、人間!」
「……上級中段の魔物か」
名乗りは終わったと言うようにナイトベアが駆けた。そして高く跳躍し、俺をその巨体で押し潰してきた。
【剛力】【筋骨増強】発動。
「ハハッ!」
「……ムンッ!」
ナイトベアを持ち上げると、ヤツは何が面白いのか笑った。そのままぶん投げると、ナイトベアは器用に空中で体勢を立て直し着地した。
「相変わらず、人間とは思えない力だな!」
「……スキルの効果だ。これがなければお前を持ち上げることなどできん」
「まあそうだわな!それでも続けるが!」
ナイトベアが突進してくる。それに対し、俺は腕を広げ突進を食らう体勢を作った。
「受け止める気か!なら、思いっきり吹き飛ばしてやる!」
ナイトベアの身体をオレンジ色の光が包む。【急加速】、まさかお前も取得していたのか!
弾丸となった巨大な筋肉の塊が、俺へと迫る。当たれば普通の人間ならばバラバラになってしまうだろう。
「……フンッ!」
「おお!?」
そう、普通の人間ならば。【スーパーアーマー】【鉄壁】【筋骨増強】がナイトベアの突進を完全に受け止めた。
驚き固まるナイトベアへ、俺は広げていたままだった腕をナイトベアの首へまわし、抱えあげた。ナイトベアは逆さのまま宙に浮かび上がり、俺はそのまま跳躍する。
「っ!?ま、まさか!」
俺が何をしようとしているのか理解したナイトベアが暴れ始める。しかし、もう遅い。
地面へと2人で落下し、ナイトベアの頭が地面へと激突する━━━━ことはなかった。
「……なにっ!?」
ナイトベアが、先程の人型に姿を変えたのだ。大熊と人間の首の太さは全く違う。ナイトベアが俺の拘束から抜け出し、片手を地面につき勢いを完全に殺すと手の力だけで跳躍し距離をとった。俺だけが地面にしりを打ち、ダメージを負ってしまった。
「……形態変化を利用するとはな。戦闘のセンスがズバ抜けている」
「そう言うお前は、呆れるほどに硬いな。あの高度から落ちたってのに腰を痛めすらしないとか……オレよりもバケモンじみてないか?」
「……これもスキルだ。俺はスキルにおんぶにだっこをせがんでるガキさ」
今度はこちらから仕掛けるか。
【獣走】を発動し、手と足を使い駆け出した。ナイトベアの5歩手前で跳躍し、【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】を発動する。両手を振り上げ、落ちるスピードをのせてナイトベアへと振り下ろした。
「……オォオオオッ!!」
「はっ!オレも受け止めてや……お、おお!?」
ナイトベアが腕をクロスさせ、俺の攻撃を受け止めようとした。しかしパワーが違う。俺はナイトベアの腕ごと頭を地面へ叩きつけた。
「ガッ!?」
「……ムンッ!フンッ!」
そのまま馬乗りになり、顔へ殴りかかる。ナイトベアは腕でガードしているが、俺の攻撃を防ぎきれずに頭が地面へと埋まっていく。
「っ!はあっ!」
「……ムッ!?」
ナイトベアが再び大熊になり、俺の間合いからナイトベアの頭が離れた。その結果、俺の拳は盛大に空振り体勢を崩してしまう。そこへナイトベアの豪腕が振るわれ、とっさに左腕でガードするも俺は吹き飛ばされた。
……吹き飛ばされた?
「……がはっ!?」
俺は予想だにしなかったことに対応できず、吹き飛ばされた先にあった木に激突。肺の中の空気が抜ける。
痛む身体を起こし、左手を背後の木へかけ立ち上がろうとする。
「……ぐっ!?」
左腕に激痛が走り、木へともたれかかった。
「ドランっ!?腕がっ!」
クロエの叫び声が聞こえる。痛みに耐えかね目を向けると、そこにはあらぬ方向へ折れている左腕があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます