クロエの狩り
「……なんて言ったの?」
「……あのイノシシを狩ることが次の特訓内容だ」
「いやいやいや、ボクよりも大きくてガッシリしたイノシシを倒すの!?しかもまだ疲れてるのに……」
「……ああ。今のうちに動物や魔物と戦い、経験を積んでもらわないとな」
「でも、戦い方なんて…」
「……全ての生き物がそうだ。戦い方とは、戦いのなかで見出すものだ。自分の得意な戦い方を知ることがこの特訓の目標だ」
「自分の得意な…?」
「……そうだ。俺もこの森に入った時はどう戦えばいいのかわからなかった……そのせいで命を危険に晒したこともあったが、それでも戦っていくうちに、自分なりの戦い方を見つけることが出来た。お前にもそれが出来るはずだ。」
戦い方と言っても、俺の戦い方はただのゴリ押しなんだがな。
「……案内しよう。イノシシの活動場所にな」
「……うん。ボク、頑張るよ」
やる気は充分。さっきまでの不安は消え、真っ直ぐな目をしている。
俺が歩きだし、クロエがその後を追う。木々を抜けていき、茂みがより多い場所が見えてくる。あそこが俺の狩場だ。
「……着いたぞ」
「ここに、あの大きなイノシシが出るの?」
「……そうだ。木の根に生えていたり地面に埋まっているキノコが多い」
「それを食べるために来るんだね」
「……そら、お出ましだ」
茂みが揺れ始める。奴らは鼻がいい。既にこちらはバレていたらしく、鼻息荒く俺とクロエを睨みつけてきた。
「やっぱり大きい…ボクよりも」
「……約3メートル。ここらのキノコや木の実は栄養が豊富だ。そして魔物もいるこの森で生きてきた奴らは、そのぶん身体もでかくなる」
「つまりそこらの魔物よりも強いってことだね」
「ブアァアアッ!!」
吠えながらイノシシが突進してきた。俺とクロエは横に飛び躱すと、俺は木の上へと跳躍し枝に腰かけた。
「……さあ、クロエ。ソイツを倒してみろ」
「う〜…やるしかないか」
「ブルルルッ」
イノシシがクロエへと向き直り、再び突進を仕掛けた。しかしクロエはジャンプしてイノシシを飛び越えると、こちらの番だとイノシシの無防備な尻へ飛びかかった。
クロエの爪が皮膚を裂き、血が吹き出す。イノシシは苦悶の声を上げながらもクロエを振り払い、憎悪の目線を向ける。
「……思ったよりも立ち回りがいいな。だが、奴がこのまま終わるとも思えん」
クロエが屈みイノシシを待った。イノシシは再び突進を始め、クロエへと向かう。クロエはタイミングを図り、また飛び越えようとした時。
「ブアアアアッ!!」
「えっ!?グブッ!!?」
イノシシの身体がオレンジ色に光り一気に走る勢いを強めた。突然の加速に驚いたクロエは対応できず、モロに食らって吹き飛んだ。
あれはスキル【急加速】だな。一定時間、自分のスピードを上げるスキル。たしかずっと速いスピードで走り続けると手にいられるスキルだったか。
「あ…うう……」
「ブルルッ!」
イノシシの巨体をあのスピードで受けたんだ。ダメージはかなりのものだろう。骨を何本か逝っても不思議じゃないが、やはり中級か。クロエはフラフラとしながらも立ち上がった。
「た…たった一撃でこのダメージなの?やっぱり……力は完全に負けてるなぁ……」
「ブルルルッ」
イノシシが土を蹴り始める。また突進をするつもりなのだろう。しかし、クロエは半ば諦めかけていた。
「やっぱりボクには…ムリだよ。ここまで力の差があるなんて…」
「……諦めるな!まだいけるだろう!最後まで挑め!」
「ド…ドラン、でも力は圧倒的にイノシシの方が上だよ!次また食らったら…!」
「……で?」
「えっ?」
「……もとから力が及ばないのはわかっていたはずだ。筋肉、骨格、体重。そのいずれも奴の方が上。だが、戦いはそれだけじゃない。もっと自分を見つめてみろ」
「自分を…見つめる?」
「ブアァアアッ!!」
長々と話しすぎたな。イノシシが予備行動を終え、クロエへと走り出す。クロエはまだちゃんと理解が出来ていないようで、戸惑いを見せていた。
「……わざわざ相手の土俵に立つことはない!自分の持ち味を活かせ!」
「…っ!ボクの…持ち味!」
イノシシがクロエへと迫る。あと一歩でぶつかるという時、クロエは消えた。
「ブオッ!?」
敵を見失ったイノシシは減速し、辺りを鼻で嗅ぎ分ける。
しかし、イノシシが減速したあたりで、既にクロエはイノシシに飛びかかっていた。
「ブオォオオッ!?」
爪が、牙がイノシシの身を削る。イノシシが暴れるとクロエはすぐさま離れ、再び後ろへと回りこみ飛びかかった。
小回りのきかないイノシシはクロエに追いつけず、だんだんと弱っていく。
そして逃げる動作を見せると、その首に素早くクロエのツノが突き刺さり絶命した。
「……よくやったな、クロエ」
「うん…今までは、群れの中で一番力が弱いからって蔑まれていたから気づけなかったよ。ボクにはこのスピードがある……力があっても、ボクを捉えられないんじゃ意味が無い」
「……そうだ。もしその群れでのことがなければもう少し早く気づけたのだろうが……まあよくやった。これで、自分の戦い方を見つけられたな」
「えへへ。もっと褒めてくれてもいいんだよ〜……っ!?ドラン!」
俺の後ろの茂みから複数のイノシシが飛び出してくる。クロエが仕留めた奴の群れか。
「ブアァアアッ!」
「ブルルルッ!」
「ブオォオオッ!」
「ブルル、ブル!」
全員が怒っているな。仲間がやられたのだから仕方はないだろうが。
「うわぁ……言っておくけど、1匹ならさっきみたいにできるけど、この数はムリだからね」
「……ああ。今日の特訓は終わりだと決めていたからな。喜べクロエ。今日は大量の肉が食えるぞ」
「え…?まさか戦う気!?いくらドランでもムリだよ!」
『ブアァアアッ!!!!』
4匹のイノシシが俺へと突進する。俺は一歩前に出て、
「ドラ……え?」
「ブ……ォオ!?」
俺は1ミリも動かずに、そのまま立っている。吹き飛びもせず、地面が抉れてもいない。
「……クロエ、お前に見せておこう。これが俺の戦い方だ」
スキル【スーパーアーマー】【鉄壁】【剛力】【筋骨増強】【倍加】【貯蓄】発動。
俺は両腕を頭上に掲げると、未だに驚き固まっているイノシシたちへと振り下ろした。
「……ムンッ!!」
イノシシたちの頭が潰れ、地面に拳が叩きつけられる。スキルにより強化された力は地面を爆発させ、砂埃が舞い上がった。
「……こんなところか」
「…………凄い」
イノシシを2体ずつ肩に担ぎ、ねぐらへと運んでいく。クロエの驚きと、尊敬の視線を背中に浴びながら。
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