第8話 2ショット写真がほしい!

 矢田玲子の朝は早い。

日が昇ると同時に起きると顔を洗い身支度を整える。

家の者は誰も起きておらず、起こさないように静かに部屋へ戻る。

部屋に戻ると真っ直ぐクローゼットへと向かい目の前で立ち止まる。

そして、興奮で荒くなっている呼吸を整えクローゼットの扉を開いた。


 クローゼットの中身には衣類の類は一つも入ってはいなかった。

衣類の代わりに、クローゼットの内側には所狭しと写真が貼られていた。

その写真は刹那秀登だった。


「私の彼氏、か、かっこいぃ……」


 たくさんの写真を眺めながら、湧き出た気持ちが口から零れ落ちる。

毎朝クローゼットの彼氏の写真を眺めるのが彼女の日課となっていた。

最初は学校帰りに、分かれるのが寂しくなって隠し撮りをしてしまったのが始まりだった。

その次の日も、そのまた次の日といった具合で写真を隠し撮りしてしまった結果、このクローゼットにある大量の写真だ。

写真を見ていると時間があっという間に立ってしまうので、自然と朝早くに目覚める様になっていたのだった。


 そうして写真を見ているとあっという間に数時間たち、朝ご飯の時間になっていた。

親に呼ばれて時間に気付きクローゼットを閉じる。

足早にダイニングまで行き、親と話をしながら朝食を取り始めた。

その時、テレビの朝の番組が目に入る。


『やっぱりカップルと言ったら2ショット写真ですよねー』


 そのテレビから聞こえた一言を聞き意を決する。

今日、2ショット写真を撮って見せる。

そうして、隠し撮りからステップアップし2ショット写真をクローゼットの中を埋め尽くすのだ。

朝食を早々に食べ終わり、両手をグッと握りしめて気合を入れるのであった。



 その日の朝、朝礼前に刹那秀登に駆け寄り話しかける。


「刹那くん、おはよっ!」


「おぉう!? 矢田さん、おはよう」


 やる気満々でいつもの及び腰な態度とは違い、グイグイと距離を追い詰める矢田玲子に驚いている刹那秀登だが、そんな彼の様子に気が付かずに携帯を抱えながら話を進める。


「えっとね、あのね……」


「……? どうかしたの、矢田さん?」


先ほどの勢いが急に鳴りを潜めてしまう。

表では静かなものだが、内心は、


「(あれ? どうやって言えばいいの? 何もないのに急に一緒に写真撮りたいだなんて言ったら変じゃない? あれあれ?)」


 そうしてあれこれ悩んでいると教師がやって来て、号令のために着席を促していく。

二人は軽く別れを告げてお互いに席に着くしかなかった。


「(ぐぬぬ…… 何とか一緒に写真を撮る方法を考えなきゃ……!)」


 ーーーー……


「(何も思いつかなかったーーーー!)」


 授業などそっちのけで一緒に写真を撮る方法を考えていたが、結局答えは出なかった。

そうこうしているうちに昼休みの時間になり、二人はいつも通り屋上へと行く。

いっしょに行っている間もスマホを抱えながら口をモゴモゴとさせるだけで言葉が出てこない。

屋上にたどり着き、二人一緒に座ったときに意を決して”二人の写真が欲しい”と言おうとする。


「刹那くん、あのね……」


「今日は矢田ちゃんのリクエストのハンバーグだよー」


「わーい!」


 写真のことが一瞬で頭から吹き飛び、作ってもらった手作り弁当を頬張る。

そのまま、いつも通りの楽しい昼休みを過ごし終えると午後の授業を受ける。

黒板に板書された文字をノートに書き写しながら昼休みの出来事を思い出す。


「(今日のお弁当もおいしかったなーー…… って違う! 写真! 一緒に写真撮ろうって言おうと思ったのに、ハンバーグで忘れちゃった! まぁ、まだ時間はあるし大丈夫だよね?)」 


 結果からいうと大丈夫ではない。

その後も何度か話しかけようとするが、教師に呼び出されていたり、他の者と話していたりとなかなか切り出せない。

そうして、時間は刻一刻と進み放課後になってしまった。

二人で一緒に帰るが矢田玲子の顔が曇っていた。


「(写真一緒に撮りたいっていう一言も言えないなんで…… なんだか今日は何をやってもダメな気がするわ…… っで、でも明日もあるし、いつかタイミングがあれば写真ぐらい撮れるわよね! ……でもなぁ…………)」


 心の中で自分のことを励まそうとするがなかなかうまく行かず、その場をうつむいてしまう。

そんな時不意に刹那秀登から声をかけられる。


「矢田さん、前向いて」


「ふぇ?」


 前を向くとシャッター音が鳴る。

しばらく何が起きたか分からず、混乱していたが落ち着く間もなく自分の携帯に通知音が鳴る。

確認すると二人の2ショット写真が携帯に送られていた。


「矢田さんと二人で取った写真欲しくてさつい撮っちゃたけどダメだった?」


 そう聞いてきた彼の言葉に対して首を横に勢いよく振り、意思表示する。

うれしさや、混乱などの感情が噴出してなかなか言葉にできず、何とか一言絞り出す。


「ぁ、ありがと……」


「お礼なんていいよ。僕も二人の写真欲しかったし、またいろんな場所で二人で撮ろうね」


 矢田玲子は顔が赤くなりながら先ほど送られた写真を眺めながら歩いていた。

歩きスマホは危ないので注意しようとも思ったが、あまりに嬉しそうにしているので、転んだりしないように手を添えて自分が注意することにした。


「(え!? え!! 急にどうして!? なんで私が写真欲しい時に一緒に撮ってくれるの!? やっぱり私たちは赤い糸でつながっているのかしら! やっぱり刹那くんが私の運命の人なのね!)」


「(写真撮りたいけど、言葉にできないって感じかな? 今日ずっとスマホ抱えていたし、察しちゃうよねー。でも写真一つでこんなに喜んでくれるなら、これからも積極的に一緒に撮ろうかな?)」


なお、この後落ち着きを取り戻した矢田玲子が刹那秀登に手を添えられているのに気が付いて、また顔が真っ赤になるのだが今の彼女は知りようがないのだった……

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